連載エッセイ61:南米南部徘徊レポート その10 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ61:南米南部徘徊レポート その10


連載エッセイ60

南米南部徘徊レポート その10

執筆者:硯田 一弘(アデイルザス代表取締役)

5月17日発  COVID-19の状況と社会鍋

5月14日はパラグアイの独立記念日、続く金曜日15日は母の日でした。パラグアイの母の日は5月の第二日曜日という世界標準とは少し違った設定です。


GoogleのDoodleも特別デザインで祝日を盛り上げていました。

一方、新型コロナの感染者は更に増えて16日土曜日時点で、感染者778人、死者11人となっています。発生当初は首都アスンシオンと周辺地域だけであった患者は現在ブラジル国境地域に中心を移しています。これはブラジルからの帰国者の多くが新たな感染原因になっていることを表している訳で、隣国での状況が落ち着かない限りパラグアイでの隔離緩和も決断できないと考えられます。しかし、感染経路はほぼ完全に抑えられ、国内独自の感染がほぼ無いことから、来週からは国内の長距離バスが営業を再開することになりました。これは移動制限解除に向けた良いニュースと言えます。

今週も家の近所を散歩してみたのですが、閉店中だった有名レストランの裏庭でシェフが大鍋を焚火にかけて何かを調理していたので挨拶がてらのぞいてみました。そろそろ営業再開の準備か、或いはデリバリー食の調理かと思いきや何と社会鍋=Olla socialに提供する大鍋料理を準備中とのことでした。このレストランはペルーの超有名店のスーシェフをしていた女性料理長が作るパラグアイ料理とペルー料理の融合を楽しめる店ですが、二か月以上続く外出禁止の措置で多くのレストランが廃業を決める中でも、社会奉仕に精を出す姿に感動しました。今日のニュースでも東の街Ciudad del Este市の失業者が700もの社会鍋を用意して周辺の住民に提供していると報じています。日本で社会鍋というと、救世軍が年末に街頭で吊るしている献金用の鉄鍋を思い浮かべますが(というか、赤い羽根募金や社会鍋という風物詩も消えつつある日本ですが)、パラグアイでは貧しくて食べるものに困る人達の為に食糧を提供する社会奉仕プログラムとして広く知られています。必ずしも自分が裕福でなくても、周囲に困った人達がいれば助け合う為に奉仕するという活動があちこちで見られます。

新型コロナによる社会活動の停止は世界中に失業をもたらし、貧困を拡大させています。パラグアイも厳しい移動制限により経済的に厳しい生活を強いられる人の数は確実に増えています。しかし、一方で自宅に少しでも食料があればそれを持ち寄ってより貧しい人の為に提供する活動が全国で観られるパラグアイ、ボーイスカウトの制服を着て街頭で助け合い共同募金をしていた昭和の日本を思い出させます。

食糧自給率340%のパラグアイは、今後予想される世界的な食糧危機に直面しても困ることは無いと思われます。一方、物質的に豊かな暮らしを満喫してきた日本ですが、食料自給率は40%を割り込んでいます。食のサプライチェーンが寸断されて、作ったものが売れない状態となり生産者が困窮している今、保存できる食糧の確保を急がないと大変なことになります。一人当たりのGNPが高い国ほど経済的ダメージを受けている今回のコロナ禍を乗り切る為には禍でなく鍋が重要になってきます。

5月24日発  COVID-19の経済的・社会的影響

5月23日現在のパラグアイのCOVID-19感染者数は838人、死者は11人で人口100万人当たり感染者数は119人、死者は1.6人ということになり、感染者数では日本と同等、死者数は日本よりも少ないことが判ります。

パラグアイもBCG予防接種を皆国民で実施している国であり、何らかの関連性があると思われます。パラグアイのBCGはブラジルからの種菌を使用しているそうで、ブラジルが世界の感染の新しい中心になっている現状からみると変に思われるかも知れませんが、人口2億人を有する超大国ブラジルでは、BCG接種が国民全体に行き渡っているとはいいがたく、それが現在の感染拡大に繋がっているのではないか、と考えます。日本の報道では新型コロナの感染拡大の中心は南米に移った、これから冬を迎えるので益々大変になる、とも伝えられますが、パラグアイでの実感はそうした報道とは異なっています。

先週から始まった段階的外出制限の解除は、来週5月18日月曜日から第二フェーズに入り、多くの業種がマスクの着用や手洗い場所の確保・検温の実施などの厳しい条件をクリアすることを前提に、営業活動の再開を認められるようになります。

しかし、 教育 と飲食業に関しては、政府は慎重な姿勢を崩しておらず、それが大きな反動を招いています。教育の分野では、学校の臨時閉鎖を三月早々に決め、結局来年1月末まで開校しない方針を固めていますが、これには父兄や教育関係者から大きな反発があり、教育大臣の罷免要求に発展しています。

一方、長期の休業命令で既に多くの倒産と廃業が出ている飲食業界ではこれ以上の休業は不可能であるとして、#EncendemosElFuego=灯を灯そう運動を発足し、来週月曜日から政府の指示に逆らって開業する意向を示しています。これに対して保健省の副大臣は「感染防止の為にはマスクの着用は絶対必要条件であり、マスクをしたまま食事が出来ないのは当たり前なので、開業は認められない」との声明を出しており、この成り行きがどうなるか注目されています。

6月1日発  外出禁止の段階的解除

今週も感染者数は増えて、今日時点で964人になりました。一日で47人も増えています。しかし亡くなったのは11人に留まっています。1日から外出禁止の段階的解除第二弾が始まり、道路の交通量は増えてきましたが、ショッピングモールへの人出は全く戻っていません。また、再開したショッピングセンターの入り口には温度センサー付きカメラが設置されて、入場者の体温検知だけでなく映像も記録されています。


勿論、今やどんな店舗も入口に手洗い場や検温があるのはパラグアイの新常識。

道路の真ん中の広告にもアルコールのハンドジェルが設置されています。ここまで対策をシッカリ行っている様子には正直驚きを禁じ得ません。しかし、こうした対策を行う為には当然出費も嵩み、昨日の報道では新型コロナ対策によって発生した負債は24億ドル=約2600億円=GDPの7%近くに達しているとのこと。国民一人当たりにすると約37,000円相当です。

パラグアイでも疫病危機に乗じて稼ごうとした政治家や政府関係者が不良品のマスクや医療用品等を持ち込んだとして大きな社会問題が発生しています。それとコロナ対策でマスコミ露出度が高い保健大臣の人気が高まって次期大統領候補と呼ばれ始めています。

英語でパラグアイを紹介するビデオを見つけました。これ、世界中の色々な国のシリーズの様ですから、リモートワークの合間に学習してみてください。

ところで、トランプ政権がやっている数少ない良い政策の一つに、ベネズエラの偽政権追い出しの為の経済制裁というのがありますが、既に米国の威信は衰えを見せており、イランから米国の警告を受けたタンカー数隻が今週無事ベネズエラに入港し、慢性的な自国プラントの不調(というか整備不良)で大幅にひっ迫していたガソリンの販売が週明けに再開されることになりました。

しかし、今回からは大幅な値上げと給油できるクルマのナンバープレート規制や一か月の給油リミットなど数々の条件を付けての販売再開になっています。それでも1リットルBs.5,000という値段、現在1ドルがBs.250,000と言われていますので、1ドルで50リットルのタンクが満タンにできるレベル。依然として世界最安のガソリンです。

これもベネズエラ政府の借金による補填の御蔭ですが、こういうバカな補填を続けた結果、世界有数の富裕国が世界一の最貧国に落ちぶれたということを、金銭感覚の無い日本の政治家諸氏も学習すべきと思います。

6月7日発  パラグアイ政府による中小企業支援策・金融支援策

3月11日の緊急事態宣言から88日目となった今日、新たに3人の感染者が加わり、総数1090人(今週火曜日に1000人を突破)となりました。(亡くなった方は相変わらず11人)先週末に感染者数の増加ペースが上がったことを受けて、行動制限の緩和第二弾は一週間延長されて6月21日までとなると発表されました。結果としてパラグアイGDPの半分を占めるサービス業へのダメージが継続することとなり、コロナ不況はパラグアイでも深刻さを増しています。政府は救済策として新たに雇用・生活と零細中小企業を回復させる政策としてPrograma Pytyvõ(プトゥボン計画=直接的金融支援)への追加措置を発表しました。

パラグアイにおけるコロナ対策の金融支援は、これまでもお伝えしている通り、国民一人一人が持つCedula番号=国民総背番号を基に実施されており、未だに給付の案内が届かない家庭が多いとされる日本よりは遥かに迅速且つ効率的と言えます。しかし、長期の自宅待機に耐えかねて街に繰り出す日本の都会人と違い、一般庶民でも比較的広い住宅環境が整っているパラグアイでは、行動制限が部分的に解除されても感染のリスクが消えない限りは自宅で過ごす傾向が強く、飲食や物販の業績回復には程遠い状況です。


再開後も人気のないショッピングセンター

6月15日発 15日から外出規制解除へ パラグアイ川の水位の低下

新型コロナの感染者は先週から171人増えて1,261人。しかし死者が1カ月以上発生していないことから、先週延長とされた外出規制緩和策第三弾への移行は当初の予定通り明日15日からとなり、当初は第四段階まで開業が認められなかった飲食業も晴れて明日から条件付きで開業できるようになりました。ただし、ParaguaríとConcepciónの2県では感染拡大が続いているとして緩和措置の対象から外されています。

今回の緩和によって、3月から閉鎖されていたゴルフ場も再開されることになりました。パラグアイはサッカーだけでなく、ゴルフとテニスでも世界レベルで活躍する選手が多く、早速今日のLa Nacion紙の一面にはトップゴルフプレーヤーのカルロス・フランコ氏のインタビュー記事が掲載されました。

https://www.jgto.org/pc/PlayerProfile.do?playerCd=10739&playerTourKbn=0

フランコ氏はキャディから身を起こし、今は自分の名前を冠したゴルフ場を持つ程になったParaguayan Dreamの体現者。

ところで、パラグアイ川の水位は最近の降雨で少しづつ快復しているものの、まだ十分なレベルでないこと、先週もお伝えしましたが、今週はアスンシオン近郊のウパカライ湖の水位が低下し、有害物質の濃度が高まっていることが問題との記事が掲載されました。

https://www.lanacion.com.py/ojo/2020/06/11/el-lago-azul-de-ypacarai-vive-el-peor-momento-de-su-historia/

Ypacaraí湖の水位低下

通常の水位(下)と比べると如何に水が減っているか判ります。

6月22日発

今日は世界的に父の日。パラグアイでは母の日(5月15日)も子供の日(8月16日)も日本とは違いますが、何故か父の日だけは世界標準の六月第三日曜日。

新型コロナによる自粛解除は第三フェーズ入って、行動規制はかなり少なくなったものの、レストランやショッピングセンターの人出は相変わらず少なめで、パラグアイの人々の慎重さを反映しています。(感染者は1362人、死者13人)

今日のLa Nacion電子版でパラグアイの安全性を認める記事が掲載されましたのでご紹介します。記事によるとInstitute for Economics & Peaceというオーストラリアに本部を置くNGO=非政府系団体が例年発行する世界平和指数という報告書の最新版で、パラグアイの順位が大幅に上がったことを取り上げています。
http://visionofhumanity.org/app/uploads/2020/06/GPI_2020_web.pdf

世界163カ国のなかでの安全指数は75位、日本は9位なので日本とは比較にならないですが、米国が121位、中国が104位で、南米各国の中でもウルグアイ35位とチリ45位に次ぐポジションで、パラグアイの安全性が評価されたようです。

実際にベネズエラ・ペルー・ブラジルとパラグアイの四カ国に住んだ経験からも、パラグアイの安全さは実感しますし、チリやウルグアイには治安や衛生状態の劣悪な居住区が存在することを考慮すると、この順位は更に引き上げられても良いのではないか、と考えられます。調査結果は今年のコロナ禍の事情は含んでいませんから、現在コロナ被害率が南米最低のパラグアイは、来年のランキングは更に上昇すると想像されます。

ところで、ABC Color紙の電子版には大統領よりも高い給料をもらっている公務員が1500人以上いるという記事が掲載されています。
https://www.abc.com.py/edicion-impresa/politica/2020/06/21/mas-de-1500-funcionarios-ganan-mas-que-el-presidente-con-pagos-extras/

これによると、Mario Abuto Benitez大統領の月給は37,908,800ガラニ=約5800ドル=約62万円ですが、汚職防止庁Secretaría Nacional Anticorrupciónの長官の月給は54,245,140ガラニ=約8300ドル=約89万円。基本給は2200万ガラニ=約36万円なのに、約53万円の旅費等の諸経費が支給されているとのこと。良くも悪くもパラグアイでは頻繁に政治家の費用対効果が語られています。

勿論、日本でも政治家の給料に対する透明性は確保されていますが、日本の生活に何かとおカネがかかるのは、政治におカネが掛かり過ぎているようにも思います。或いは平和な暮らしの代償と考えるべきでしょうか。