メキシコ北部モンテレーに留学中の2012年に南部のオアハカを訪れた若き文化人類学者が、様々な所に描かれた壁画、ストリートアートに魅せられた。ストリートアートは政治的なスローガンをともなうものも多く、若者の複数グループによって制作されているが、彼らはメキシコ革命以降変容してきた先住民運動の流れの中で、自分たちを「先住民」と自覚し、日々の実践する活動を「革命」と意識している。
2006年にオアハカ市で起きた州政府への大規模な抗議運動を契機に、街路に壁画やポスターなどを設置し、政治的なメッセージの発信としてナショナル・ヒストリーとは異なる物語性のもとでメキシコ革命の英雄を描かれるようになった。それらの中で最も大きなストリートアーティスト集団であるASARO(オアハカ革命芸術家集会)を中心に、彼らが美術学校で師事した日本人画家の竹田慎三郎の影響、ASAROの作品がメディアを経由して世界に発信され象徴的に意味づけられていき、外部で得た権威を利用しながら州政府と交渉を行えるようになったのだが、近年のグローバル化の中で、西欧美術界から評価され、美術館等で展示されるようになり、対立している行政が支援を行い観光資源として利用するという展開も出てきている。現代メキシコ社会における「先住民イメージ」がどのようなメカニズムによって売り出されているのかを、ストリートアートから考察している。
〔桜井 敏浩〕
(春風社 2020年3月 223頁 3,600円+税 ISBN 978-4-8611-0675-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年夏号(No.1431)より〕