連載エッセイ66:「南米現地レポート」その11 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ66:「南米現地レポート」その11


連載エッセイ65

「南米現地レポート」その11

執筆者:硯田 一弘(アデイルザス代表取締役)

2020年6月28日発

今日はパラグアイの新型コロナにおける暗黒の土曜日となりました。新規の感染者が昨日比231人増えて1942人となり、亡くなった方も二人増えて15人になりました。しかも感染経路が不明のケースが32人、深刻な状況に陥っている中南米諸国の中ではマシな方とは言え、一日でこれまでの最大の感染者を出したことは今後の規制解除スケジュールを更に遅らせることになりそうです。

と、暗いニュースから始まりましたが、明るい話題も。Tomateros mejoran presentación de productos y logran mejor cotización)パラグアイのトマト産地コロネルオビエド地区の製品の品質向上と共に価格条件も上がってきているというものです。記事によると、農牧省の支援を得て、トマトの市場開拓を積極的に行った結果、市場の拡大に繋げることができたとのこと。トマトや玉ねぎなどの農産物は隣接するアルゼンチンやブラジルからの密輸品との競争にさらされて苦労が絶えなかっただけに、国内での市況が好転しているとすると良い話と言えます。

今日の日経新聞に「新興国にドル不足の試練」という記事が載っていますが、ブラジル・レアル、アルゼンチン・ペソも対ドルで大きな落ち込みです。

パラグアイのグアラニも下がっていますが、深刻なレベルではありません。ただ、直近1年の下落率では、ブラジル(-42%)やアルゼンチン(-67%)と比べるとパラグアイは-9%、即ち周辺国諸国に対しては大幅な通貨高という事になり、ブラジルやアルゼンチンへの輸出は難しくなる一方、両国からの輸入品は安くなるので、元々より大規模な粗放農業を行っている隣国製品との競争には不利な状況であると言い切れます。にも拘わらずトマトの国内市況が上向いていること自体は生産者にとっては喜ばしいニュースと言えます。周辺国に対して強いパラグアイ通貨ではありますが、対米ドルでは長期的には緩やかな下落傾向で、今後もこの傾向は続くと思われますが、食糧しか主な輸出製品を持たないパラグアイの収入は逆に安定しているとも言えます。為替分析はまた別の機会に報告しますが、長期的な観点からは今は南米への投資の好機と考えます。

ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ共通の農作物である大豆・トウモロコシ・牛肉の値動きは現時点では必ずしもポジティブには見えません。

食糧の相場は世界の胃袋=中国の動静で大きく変化してきましたが、新型コロナによるサプライチェーン断裂の影響が出るのはこれからです。世界の食糧供給基地と 言える南米は、コロナ感染拡大というネガティブなニュースに踊らされることなく、冷静に見積もってみることをお勧めします。

2020年7月6日発

この時期の名物として街頭に出回るのがFrutilla=苺です。アスンシオン近郊のAreguáでは毎年この時期に苺祭り=Expo Frutillaが開かれて大勢の観光客でにぎわうのですが、残念ながら今年は中止。昨年のニュース映像をご覧ください。

パラグアイの苺は日本の様な品種改良を施されたものではなく、甘さよりも酸味が際立つものですが、昔の味を知っている我々の年代には懐かしい季節の風物詩と言えます。frutillaという単語はfruta=果物の小さいの、という意味ですが、パラグアイやアルゼンチンではこの様に呼ばれていて、ベネズエラで覚えたfresa(フレサ)では通じないことがあります。

今日のUltima Hola紙電子版には、このfrutillaを自宅の庭で栽培してデリバリー販売することで、厳しいコロナでの経済環境を乗り切ろうとしている若者の行動が記事になっています。自宅の10mx40mの庭で昨年は200㎏の苺を栽培、今年はこれを600㎏に増やす意気込みとのことで、出来た苺は注文に応じてバイクで配達、1㎏あたりGs.25,000で販売するとのこと。ブラジルやアルゼンチン通貨に連れて対ドルで安値を付けているグアラニですが、今日現在約Gs.6,700/US$ですから、苺の値段はおよそ3.7ドル=400円。600㎏収穫・販売できると24万円の収入になりますから、彼が住むGuaira県ではそこそこの収入になる訳です。

そもそも、10mx40m=400㎡=121坪の庭があるって時点で、日本では無理な相談ということになりますが、小農家=20ヘクタール以下の土地しか(‼)持たない貧しい農家と定義されるパラグアイですから、土地に関しては本当に贅沢なものです。いずれにしても、コロナ自粛で消費が落ち込んでいるのはパラグアイも同じですが、食のサプライチェーンが壊れて困るのは消費者であり、出来た作物を消費に回すためのこうした工夫はパラグアイの各地で拡大しています。

2020年7月13日発信

それなりの設備を整えた住宅としては政府が用意する社会住宅Vivienda Socialがあり、今日のABC Color紙にこの住宅の値段が上がっている一方、質が低下しているとの記事が掲載されています。

民主主義の政治においては多くの票を獲得することが権力の頂点に近づくポイントであることは皆さんご存知の通り、低所得者が人口の太宗を占める中南米においては低所得者向けの優遇政策を如何に充実させるか?が重要な政策テーマであり、そのために各国は競って社会住宅の建設を進め、住民の人気を取る努力を重ねています。本当に中南米ではどこにいっても同じような規格の社会福祉住宅が見られます。

ちなみにパラグアイの社会住宅の間取りは以下のような感じらしいです。

https://es.slideshare.net/ASG70/proyecto-de-viviendas-sociales-rc4

5m x 9.6m = 48㎡=15坪弱、これに30㎡弱の庭も付いていますし、隣家との共用部分もありますから、写真でご覧の通りかなりゆったりした構造になっています。これが77百万ガラニ=120万円程度で購入できる様ですから、日本と比べれば圧倒的に安いですね。ただ、120万円と言っても平均所得が4,000ドル程度とされ、低所得者層は更に低いパラグアイですから、公営住宅と言えども、高根の花と言えますが、選挙になると何故かこういう住宅が大盤振る舞いで超長期のローンで提供されるような仕組みの様です。記事では価格が12%上がった一方で質が低下しているとのこと、中で抜いてる奴がいるから注意しろ!という意味を含んでいます。どこの国にも公金を使って儲けをたくらむ輩がいるのは気を付けるべき注意点で共通しています。昔、ベネズエラの住宅事情について紹介したことがあります。その頃はベネズエラでも豪雨が続き、土砂崩れが頻発、亡くなる人や家を失う人が大勢出て、当時のチャベス政権は社会住宅の大盤振る舞いをして国民の人気を上げていました。

振り返ってみれば、この頃のベネズエラはまだギリギリなんとか生活が成り立つレベルでしたが、今や産油国なのにガソリンがなく、イランから輸入して賄っているだけでなく、病院の資機材も無いに等しい不足ぶり、新型コロナの感染者数が8000人強と、少ないような報告になっていますが、実態は感染者を把握するための検査キットも無く、正しい数字が掴めていないだけのことです。統計の数字がピンとこない方が、統計が取れないよりはマシでしょうが、少なくとも大本営発表のデータや情報に振り回されない判断基準をシッカリ持っていることが大切です。

2020年7月20日発

パラグアイのガソリン価格は5月20日に値下がりして、現在レギュラー=約85円/ℓ、ハイオク=97円/ℓで、日本よりは相当安いレベルを保っています。1米ドル≒6,700グアラニで換算

南米には有名なベネズエラやブラジル、エクアドルといった産油国だけでなく、シェールガス資源も含めると化石燃料資源に恵まれた国が殆どと言って良いほど存在します。

勿論、ガソリンやLPGといった民生用燃料は然るべき精製施設で生産されますので、資源の存在=低価格という図式にはなりませんが、改めて各国の燃料価格を見比べてみると、どこの国でも比較的安価であることが判ります。

2019年10月のラテンアメリカのガソリン価格
https://www.lanacion.com.ar/el-mundo/cuanto-se-paga-combustible-america-latina-nid2294634

ボリビアの燃料価格が安く表示されていますが、これはボリビア国民に対するもので、外国人はこの二倍の価格を請求されます。また、ベネズエラも昔から水より安いガソリン価格ということで有名でしたが、現在はイランから輸入したガソリンを分け合っている状況で、市中に出回る量は限定的で、アパートの駐車場等で停めてあるクルマのタンクから燃料を抜く泥棒が横行しているそうです。

実はパラグアイはベネズエラから永年に亘ってガソリンやディーゼル燃料を輸入しており、現時点でもベネズエラ石油公社PDVSAに3億ドルの負債を抱えており、これが最近のドル高グアラニ安によってグアラニ建ての負債額が大幅に増えたことも今週の問題として報道されています。
パラグアイのガソリン価格推移7月13日時点の世界各国のガソリン価格を比較した表が以下のホームページで示されています。
https://es.globalpetrolprices.com/Paraguay/gasoline_prices/

燃料価格はその時々の原油価格にリンクして上がり下がりもしますが、自動車による内陸運送への依存度の高い南米諸国では、ディーゼルもガソリンも政策的に低レベルに抑える努力がなされています。このように、生活必需物資は国民が気付かないところで価格の調整や税金の投入が行われていますが、コロナ後の世界では、こうした一つ一つのニュースに国民が敏感になることが要求されるものと考えます。

ところで、10月恒例の光が丘パラグアイ祭りが中止になったことを受けて、駐日パラグアイ大使Raul Florentin閣下からのご挨拶が投稿されました。残念ながら今年は中止となったパラグアイ祭りですが、祭りを実行するJICA協力隊OBの皆さんの熱意は皆さんにも感じて欲しいと思います。

それから、パラグアイ発の経済関係電子新聞=パラグアイ・ビジネス・ニュースを発行している若者グループも居ます。パラグアイ祭りもビジネス。ニュースも活動を支える資金は重要です。是非読者の皆さんにも今後のご支援をお願いします。

今週のパラグアイの新型コロナですが、残念ながら爆発的に感染者数が増え、今日時点で3629人(809人=29%増)、死者は29人(8人=38%増)となり、行動規制の緩和もアスンシオン市周辺地区とブラジル国境においては明日以降も現状を維持することとなりました。

2020年7月27日発

パラグアイの通貨グアラニが米ドルに対して弱くなっています。今年1月と比べ8%の下落です。現在の中値はGs.6,800/US$。しかし周辺諸国の通貨に比べると下落率が低いとも分析されています。パラグアイの外貨獲得は穀物や肉類等農産物の輸出や自動車部品の加工貿易によって昨年は124億ドル(1兆4千億円弱)の収入がありました。その5%に当たる6億ドルが海外からの送金によるもので、外国在住のパラグアイ人家族からの送金がその二割を占めるようですが、送金総額(ー25.8%)も家族送金(-29.6%)も新型コロナによる経済状況の悪化で大幅に落ち込んでいます。

パラグアイに限らず、南米諸国では欧米や近隣諸国に出稼ぎに行って自国の家族に送金する外国送金が一つの外貨獲得方法になっていますが、今回の疫病は出稼ぎに出ていた人達が失業したり減収となって経済にも暗い影を落としています。

新型コロナの感染者は先週に比べて699人(19%)増の4,328人、死者も11人(38%)増の40人と、残念ながら感染拡大の勢いは加速しています。これまでの感染者は主にブラジルから戻った出稼ぎの人達が持ち帰ったものと言われていましたが、出稼ぎ労働者の隔離施設の不備などから国内での感染拡大に歯止めがかからなくなった模様で、外貨収入の減少と感染の拡大という厳しい状況がパラグアイでも続いています。

ところで、今年度(2021年1月末まで)の学校の閉鎖は3月時点で報じられており、当時は行き過ぎの判断と思いましたが、日経新聞の報道によるとこれは世界的な動きであり、現時点で210カ国中半分以上の107カ国で学校が閉鎖されていることが判りました。これほど長期にわたって学校が閉鎖されると教育の質が低下することが懸念されていますが、パラグアイでも早々とオンラインでの授業が導入されたものの、インターネットへの接続が出来ない児童・生徒が大勢いて、これらの子供達への対応が不十分であることは随分以前から指摘されています。こんな時こそ、永年に亘って公共放送で独自の教育放送を行ってきた日本のノウハウを世界に広める好機と考えますが、英語ならまだしも、スペイン語への対応がほぼ皆無であることが折角のインフラを活かせない足枷になっているのは誠に残念なことです。

NHKの国際放送は南米各国でも視聴できますが、現在のところ日本語と一部英語によるものだけで、視聴しているのは海外在住の日本人のみというのが実態。 今からでも、教育放送の多言語化に取り組んで貰いたいと切実に感じます。カネを送るだけが国際援助ではありません。優良コンテンツを使って日本の国力を示して欲しいものです。

以 上