連載パナマ・レポート③ (2020年7月分) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート③ (2020年7月分)


連載パナマ・レポート③

連載パナマ・レポート③ (2020年7月分)

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)

I.新型コロナウイルスの第二波

A.感染者数

7月26日時点で、パナマにおける新型コロナウィスルの感染者は57,993人、死亡者は1,250人、回復者は32,704人と確認された。政府は、感染拡大を抑えたと判断し、5月中旬に経済活動再開を目指して、外出禁止令の段階的解除を発令したが、第二波を招き、7月上旬から新しい感染者が、1,000人超える日が続いている。パナマ議会の議長であるマルコス・カスティレロと元ボクシング世界チャンピオンのロベルト・デュラン(Mano de Piedraと呼ばれた)までも陽性反応が出た。感染者拡大と共に、医療崩壊の恐れも高まっている。特に、パナマ県と西パナマ県では、医療用品不足、および死体安置所の保管スペースがなくなっている。医療専門家は、政府は、ワクチンを確保するために様々な交渉をし、開発中ワクチン実験はパナマで行われると発表した。

B.外出禁止命令と経済

パナマ政府は、経済活動再開の政策を変え、パナマ県、西パナマ県、コロン県、ボカス・デル・トロ県、そしてチリキ県で改めて外出禁止命令を発令し、感染者が少ない地域では段階的な再開を行うという姿勢を示した。これに対して、7月27日から再開が始まる予定のロス・サントス市のアンヘル・バリオス市長は、感染拡大の恐れがあるため、再開を反対している。7月24日時点で外出禁止命令の違反で324人が逮捕されている。

アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカの報告では、パナマ経済の10%の減少を予想している。エクトール・ヘルナンデス経済財政相は、2020年前半の歳入の約40%減少と、国際機関と交渉し、経済回復のため80億の融資を求めていると明らかにした。政府は、6月中旬には米州開発銀行から零細中小企業の支援として融資を受けた3億ドルのローンに加え、更に4億ドルのローンを獲得したと発表した。しかし、経済悪化の結果として政府は、2021年FIFA U-20女子ワールドカップと2020年中央アメリカ・カリブ海競技大会の開催を断念し、その資金を新型コロナウィスルの医療に充当することを明らかにした。また、緊縮措置として、政府が大統領を始め、大臣、各局の管理職の給与を25%-50%カットすることを定める法案を提出し、現在、国会で議論が行われている。

II.政治

A.バレーラ前大統領の調査

フアン・カルロス・バレーラ前大統領(2014年―2019年)に対する刑事調査は、7月2日に再開した。2014年よりブラジルの連邦警察によって行われた「オペレーション・カー・ウォッシュ」(ラバジャット)刑事調査の結果として、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、パナマ、メキシコ、ペルーの政治家を巻き込んだ、中南米史上最大の汚職事件を暴いた。その中で、バレーラ政権はブラジルの大手の建設会社オデルブレヒト社から賄賂を受け、パナマ国内の建設契約を与えたと疑われている。パナマ検察の取り調べに対してバレーラ前大統領のいとこである在韓国パナマ大使館のハイメ・ラソ前大使は、アメリカの銀行を利用し、2009年選挙活動の寄付金として、オデブレヒト社から70万ドル、最終的に600万ドルを受け取ったと供述した。ラソ前大使は、オデブレヒト社から受け取ったお金は、Panameñista党に渡し、パナマ選挙裁判所に報告されるものと理解したと述べているが、党首であるホセ・ブランドンとパナマ選挙裁判所は、寄付金の記録がないと述べた。

2019年11月にバレーラ前大統領が紛失した携帯電話の個人メッセージが、インターネット上に漏洩した「バレーラ・リークス」という事件で、前検事総長であるケニア・ポルセルはバレーラ前大統領から指示を受け、オデブレヒト事件の調査に影響を与えようとしたことが明らかになったため、2020年1月に辞任した。
また、バレーラ前大統領は2017年に台湾と外交関係を断ったが、「バレーラ・リークス」の漏洩によって中国政府からパナマ政府へ1億4300万ドルの寄付があったことがわかった。オデブレヒト社から受け取った寄付は中国の銀行に振り込まれた疑いがある。バレーラ前大統領は7月2日に行われた取り調べが終わった後、出国禁止命令を受けた。

B.マルティネリ元大統領の調査

リカルド・マルティネリ元大統領(2009年―2014年)は7月2日に行われた調査の中で、医者の診断で取り調べに応じられないことが分かった。マルティネリ元大統領は、オデブレヒト事件の他、ニュービジネス(New Business)という 資金洗浄の疑いで調査されている。7月2日に出国禁止命令は下された。また、2014年に任期が終わった後、任期中では野党等のメッセージを傍受する命令を下した疑いで調査が始まったが、パナマから出国した。2017年にアメリカで逮捕され、パナマへ送還されたが、2019年に無罪判決が下された。マルティネリ元大統領は 、パナマとアメリカ返還条約の元でメッセージの傍受事件以外の調査は禁止されていると述べているが、アメリカ合衆国国務省はその主張を否定している。マルティネリ政権では積極的に行ったパナマ運河の拡張や、パナマ市地下鉄建設のような開発事業によって経済成⻑年平均8%を達成した。更に、失業率を6.3% (2009 年)から4.3%(2014 年)まで下げ、税徴収も改善した。

III.経済

A.労働法改正

内閣の決定でドリス・ザパタ労働相は、新型コロナウィスルによる経済悪化の措置として労働法の一時的な改正法案を議会に提出することが判明した。改正には労働契約の停止は12月まで延期、解雇罰金算定方法の見直し、育児休暇制度の見直しに関する規定が含まれていると発表した。民間部門の代表は、労働法の改正が必要だと述べているが、使用者の立場を保護するいくつかの規定を批判している。他方、労働組合連合会は、労働法改正に反対し、特に12月までの労働契約停止の延期を批判している。

パナマ労働法は労働者保護主義を取り、正当な理由のない正社員の解雇は損害賠償の対象となる。また、労働局の認容した不可抗力による労働契約停止が認められ、3 月20 日に発令された政令第80 号により、新型コロナウイルスは不可抗力として認容された。労働法では労働の停止期間には4か月の上限が規定されている上、解雇に至らないため損害賠償の対処とならない上、停止期間中には給与を支払う義務がない。7月中旬時点では、1万7千社で24万1千人の労働契約が停止されている。

労働契約停止の結果として、GDP比の15%を占める建設業は、3月から止まっている。政府は、7月上旬に公共事業の再開を発表したが、その他の建設の停止は、引き続き延期された。会社と組合連合会は、独自の感染防疫対策を作成し、政府に提出した。また、政府は、建設業の再開に関する4つの法案を作成し、近々議会で議論が始まる。

B.多国籍企業の設立

いくつかの多国籍企業はパナマで支店を設立することがわかった。これらの企業は、発電会社、製薬、コールセンター、金融サービスを中心とし、当初では380万ドルの投資で155人が雇用される。パナマ多国籍企業登記制度は、2007年に導入され、2020月下旬時点では、パナマの多国籍企業制度を利用し、本社を設立している多国籍企業は、162社、その投資は約12億ドルに至る。更に、商工省は、多国籍製造企業向けの新たな制度を設定するため、議会に法案を提出した。法案は、多国籍製造企業の所得税を5%、および配当金の免税、製造に必要な商品などは関税免除、輸出に関連するサービスは消費税対象外とし、法案によって導入される新しいビザ制度を利用する者の給与は、所得税免除としている。

C.船舶登記

パナマ海運庁は、2020年上半期で469隻が登記され、8,322隻に至ったと発表した。その中で、新造船は36% また、パナマ海運庁は新型コロナウィスルの措置として4月に導入されたオンラインシステムによって手続きの期間は、約60%短縮されたことを明らかにした。
近年、便宜置籍船制度への批判を受け、パナマ海運庁は規則の実施強化を行っている。2019年にテロ活動に利用されていると判断し、イランの69隻の登記は解除された。更に、意図的にGPS機能を無効にする船は、1万ドルの罰金が科され、登記は取消される場合もあると発表した。

パナマの船籍制度は、便宜置籍船であり、1922年に確立され、第二次世界大戦後に急に拡大したことを踏まえ、リベリアのようなヨーロッパの国も似たような制度を作った。2019年度の船舶登記は約15%減少したにもかかわらず、海事産業の専門誌であるロイド日報の2019年旗国ランキングによると、パナマは1位、リベリアは2位、マーシャル諸島は3位となっている。

また、パナマ籍船制度は、ポート・ステート・コントロールという船内設備や乗組員の資格等の安全を確認する検査において、2020年前半にパリと東京で安全措置の97%実施率が確認されている。また、アメリカにおいても上位を取っている。

D.パナマ海事産業

パナマ海事会議所は、海事産業の会社へソフトローンを供与するように政府と協議していることがわかった。パナマの海事産業はGPDの20—30%でを占め、約200社が、約10万人を雇用している。他の産業と異なって海事産業は、パンデミックによって停止していないが、いくつかの制限を受けている。パナマ海事会議所によると、ほとんどの会社は、中小企業であり、3月以降の収入が50%以上減少している会社が多い。そして、パナマ海事会議所は、具体的な回復のための提案を政府に提出すると述べている。また、6月の事故で崩壊したコロン県への鉄道橋の修理とトクメン国際空港の再開を求めている。トクメン国際空港は、医療材料を運ぶ便や人道支援の便を除き、3月22日から閉鎖されている。しかし、政府が、感染者数の増加を踏まえ、8月22日まで閉鎖が続くと述べている。

また、パナマ海運庁は、2020年前半のコンテナ取扱量は、前年同期比13%増379万8206 TEUまで上がったと発表した。パナマの6つコンテナー・ターミナルの中、5つはコンテナ-取扱量の増加を報告した。取り扱われたコンテナの中、90%は通過中、残り10%はパナマ発であった。更に、パナマ海運庁は、7月16日からバルボア造船所の一部再開を発表した。バルボア造船所は、カリブではパナマックス船の修理ができるただ一つの造船所であり、2018年に閉鎖された。政府は、バルボア造船所の再開は一時的であり、管理はパナマ海運庁に託されているが、近々にコンセッション方式の入札を行う予定と述べている。造船所のコンセッションによって200-300人が雇用される。コンセッションの入札への参加に関心のある企業は、パナマ海運庁のウェブサイトを参照のこと。

IV.外交

A.韓国との自由貿易協定

パナマ議会は、7月9日に韓国との自由貿易協定を承認した。パナマは、2015年から他のラテンアメリカ6カ国とともに韓国と自由貿易協定の交渉をし、2018年2月にその調印が行われた。協定は批准されるとパナマのコーヒー、ラム、パーム油、トマトペーストが関税免除となる。更に、パナマの牛肉、豚肉、果物(パイン、バナナ、スイカ、メロン、パパイヤ)、鶏肉加工品、砂糖、小麦粉、魚とその加工食品等について特恵関税制度が確立された。また、パナマの金融部門、海事産業、観光事業、流通業は韓国市場へのアクセスを確保できる。

これに対して、韓国のロボットテクノロジー、教育テクノロジー、バイオ・テクノロジー.の商品やサービスがパナマに輸出できることとなった。更に、両国は、知的財産の保護、環境保護、投資保護に関する合意もできた。 韓国は中国に次ぎ、アジアにおけるパナマの最も重要な貿易相手国であり、パナマには韓国の20社の大手企業がある。

以    上