『中国の外交戦略と世界秩序 -理念・政策・現地の視線』 川島真・遠藤貢・高原明生・松田康博 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『中国の外交戦略と世界秩序 -理念・政策・現地の視線』 川島真・遠藤貢・高原明生・松田康博


21世紀に世界2位の経済大国に躍進し、世界各国との関わりを深めている中国の外交を総合的に考察した論集。対外進出のねらいを「中国の世界展開」、「一帯一路構想」、「対外援助のとらえ方」、「習近平政権下の外交・世界秩序観と援助」から始め、「アフリカと中国」「中国周辺-対メコン地域諸国援助、対北朝鮮援助」とともに「中南米地域をめぐる中台関係」を松田康博東京大学東洋文化研究所教授が執筆している。

中華人民共和国(本稿では「北京」)と中華民国(台湾-本稿では「台北」)は、中南米地域33か国においても、それぞれの外交関係先としての承認国の数を競ってきた。東西冷戦の前期は台北が選択され続けたが、冷戦後期に入ると米中接近後外交関係の切り替えが始まり、冷戦末期には一定の“均衡点”となったが、ポスト冷戦期に台北の李登輝政権が発足すると、北京は外交戦略上の重要度が高くない国を過度に抱き込むことはせず、実用主義外交を唱えて外交関係がない国々との経済関係の構築に努めた。しかし李登輝政権の後半から陳水扁政権期には、北京は世界の台北承認国9か国の外交関係を切り替えさせ、中南米ではドミニカ国、グレナダ、コスタリカが転じた。「一つの中国」原則に関し中国に協力的であった馬英九政権期の“外交休戦”を経て、蔡英文政権の2017年にはパナマ、18年にはドミニカ共和国、エルサルバドルを立て続けに台北と断交させた。

これらの考察を経て明らかにしたのは、(1)台北にとって中南米の利益や価値が一貫している、(2)北京にとっては利益や価値が大幅に変遷した、北京にとっては主な関心は資源であり、ベネズエラ、ボリビア、ブラジルを最も重要視している、(3)台北が外交関係を維持することが出来た国は、概ね反共的で資源や市場が小さい安定した国、(4)承認国争奪戦は、中国の国力が完全に台湾を凌駕した現在でも、中台関係の進展や地域政治との相互作用により、ストレートには進まないことを指摘している。中南米での中国と台湾との外交関係の経緯とその意味がよく整理されており、本書の中でも231~252頁の小論文であるが、中南米とアフリカ等との中台関係の違いもよく分かる有益な文献である。

〔桜井 敏浩〕

(昭和堂 2020年1月 263頁 3,500円+税 ISBN978-4-8122-1905-8)