メキシコの壁画運動を代表する画家ディエゴ・リベラの妻であったフリーダ・カーロ(1907~54年)は、特徴ある濃い眉毛と深い眼差しが印象的な自画像でもよく知られている。フリーダは、その手紙を見てもいつも話しに尾ひれを付けて真実を語ったかと思うと嘘をつき感情の起伏が多かったが、1982年セビーリャ生まれのスペインの人気イラストレーター、作家の著者による独特のイラストレーションをふんだんに使った彼女の伝記は、その真偽を問題にするのではなく、フリーダの魅力と魔力を、彼女がどう感じていたかを語ろうとしている。
ひとりで遊んだ少女時代、思春期と1925年に乗っていたバスが路面電車と衝突して手すりが身体を貫く瀕死の重傷を負い、その後何度も手術を受けることになったのだが、入院中ベッドで絵を描き、以後痛みの中で絵筆を取り続けた。リベラとの結婚、米国行き、夫の妹との浮気、妊娠中絶などのリベラに因る苦しみはまさに二度目の事故にあったようなものだった。一方、フリーダの人生には、初恋の青年からソヴィエトから亡命してきたトロツキー、彫刻家のイサム・ノグチから1年間ほど同棲したレスビアンに至るまで多彩であったが、フリーダが心の底から愛し続けたのは一度離婚したリベラだった。この本に20の作品を登場させているが、フリーダが語りたがっていた真実、自分が何者かについてのメッセージは絵の中にあると作者は語っている。
〔桜井 敏浩〕
(宇野和美訳 花伝社発行・共栄書房発売 2020年6月 151頁 1,800円+税 ISBN978-4-7634-0926-3 )