連載エッセイ69:南米現地レポート その12(8月分) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ69:南米現地レポート その12(8月分)


連載エッセイ68

南米現地レポート その12(8月分)

執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)

8月3日発

新型コロナの感染拡大がパラグアイでも止まりません。先週4,328人だった感染者は一週間後の今日5,485人と1,157人=27%の増加、亡くなった方の人数も40人から52人と30%増。たった一週間での増え方としては猛烈な勢いと言えます。人の移動が感染のキッカケになっていることは自明であり、パラグアイの感染者の多くは隣国ブラジルからの帰国者とされています。

パラグアイはブラジル・アルゼンチン・ボリビアと国境を接していますが、現在のところ陸路・空路共に国境は閉鎖されており、物流に必要な物資の遣り取りだけが近隣諸国と行われています。一方、国内の主要道路には数カ所の料金所が設置されていて、この料金の収受の際に感染のリスクがあるとも指摘されていましたが、パラグアイでもついに無接触の通行料金収受システムが導入されることになりました。

Telepeaje(テレペアヘ)と呼ばれる自動料金収受システムは、南米では多くの国で10年ほど前から採用されていましたが、パラグアイでは初めての試み。

システムが設置されるのはアスンシオンからシウダードデルエステに向かう201km地点と301㎞地点の二か所だけで、 このシステムを使うにはTAGと呼ばれるデバイスが必要であり、まだ一般的に普及するというレベルではありませんが、少なくともパラグアイにも非接触の交通システムが導入されたことは大きな進歩と言えます。ブラジル国境地域での感染拡大が多いために先週から301㎞地点から先の国境付近地域での移動制限が強化されたばかりですが、こうした取り組みが今後の感染防止の役に立ってくれることを願います。

8月10日発

第二次世界大戦を潜り抜けた世代の人達から見ても異常と言える現代の伝染病との闘い。パラグアイにおける新型コロナの感染者は本日6705人(先週比+1220)に達し、亡くなった方も72人(+20人)に増えました。

しかし、今日の新聞を観ておやっと思ったのは、Recuperados(回復者)の数が5181人にも達していることです。つまり回復率77%。二週間前の回復率は62%でしたから、ここにきて急激に回復率が上がっていることになります。世界の平均回復率が61%、日本でも66%ですから、この回復率の上昇は注目に値します。

また、パラグアイ(7百万人)ではPCR検査の数も毎日ほぼコンスタントに1500件以上行われていますが、日本(126百万人)の直近の平均は17000件、人口比でいえばパラグアイの方が検査件数も多いことが判ります。

とは言え、パラグアイは感染抑止の手を緩めていません。日本の明治維新の頃、当時南米の先進国であったパラグアイは周辺のブラジル・アルゼンチン・ウルグアイを相手に戦争を行い、成人男性の9割が戦死するという悲惨な三国戦争を経験。(https://bushoojapan.com/world/south/2020/03/01/71015 )

更に昭和7年にボリビアとのチャコ戦争を経験し、大幅な人口減や経済の疲弊から回復するのに多大な時間を掛けました。(https://www.kaho.biz/chaco.html)

こうした苦い経験が、現代のパラグアイ人を伝染病に対して臆病なほどシッカリとした対策を立てさせているメンタリティに導いているように思われます。

感染者がゼロに近いチャコ地方でも店舗の入り口では皆シッカリ手洗いをし、検温が行われています。戦争を知らない世代も戦争の悲惨さを忘れないようにするために記憶を語り継ぐことの重要性を改めて感じると同時に、コロナ禍によるダメージから一刻も早く回復することを望みます。

8月17日発

さて、今週はパラグアイのチャコ地方(と言ってもアスンシオンの直ぐ近く)で1万年以上前のアルマジロの化石が見つかったというニュースをご紹介します。アルマジロという動物は南米各地に生息する哺乳類ですが、現在観られるものは最大でも1m、最小種は10㎝程度ですが、大昔にはゾウと同じサイズのアルマジロがいたようです。

下の写真は、今年の正月にボリビアのTarijaに行った時に訪れた国立古生物博物館に展示されていたアルマジロとマストドン(古代ゾウ)の化石です。

それから、今日8月16日はパラグアイではこどもの日。こどもの日というのは国によって異なるのですが、アルゼンチン・チリ・パラグアイでは同じ8月16日が子供の日と定められているようです。パラグアイの総人口は713万人、20歳未満の人口比は38%ですから、ほぼ10人に4人が未成年、こどもの日も大いに盛り上がります。子供達の数や総人口に占める比率は国によって異なりますが、今は子供である人達も、いずれ成人し、老人となる日が来ます。更に何千年も経つと、化石として発掘される日が来るかもしれません。

人類が未来の生物に化石扱いされないようにシッカリ生き延びるには、戦争だけでなく環境破壊の根源となる活動を見直す必要があるのだろうと漠然と考えます。

ところで、先週パラグアイでコロナウィルスから回復した人の数が相対的に多いとお知らせしましたが、今週一週間で感染者数が爆発的に増加、今日現在で9381人と先週比2676人(40%)増と爆発的に感染者が増えています。一方、快復した人の数は5841人と660人(13%)しか増えていません。亡くなった方は127人で55人(76%)も増えてしまいました。年齢別では20代と30代が感染者の55%を占めています。重要な勤労世代を守って行く為にも、厳しいパラグアイの感染防止策は当分続くことになりそうです。

8月24日発

今週もパラグアイにおける感染拡大が更に悪化し、世界でも最悪レベルの感染者急増となりました。今日の累計感染者数は12974人、先週比3593人=38%増、亡くなった方は192人=65人=51%増ということで、外出する人の殆どがマスクを着用し、あらゆるところに手洗い所を設け、人の出入りするところでは必ず検温と手の消毒を行っているパラグアイで8月に入って感染者が激増している背景に何があるのか全く理解できません。
今日のLa Nacion紙の電子版見出し「Paraguay orilla los 13.000 casos y cifra de fallecidos sube a 192」は7月末に5300人だった感染者が倍増以上のペースで増えていることに警鐘を鳴らしています。

実は、このコロナ禍にあってもパラグアイ経済は南米諸国の中ではGDP(スペイン語ではPIB)の落ち込みが比較的小さいと報じられていました。

8月31日発

今週も新型コロナ感染者数は16,474人(先週比3,500人、27%増)、亡くなった方は294人(102人、53%増)と相変わらず猛威をふるっています。ただ、感染者がゼロの地域(緑色)が国土の半分ほどを占めていて、殆どのケースがブラジル等の隣国から入った人と接触したケースであることが明白になってきています。また一時比率を下げていた治癒者の数も感染者の半数にまで回復してきており、重篤な患者数は必ずしも多くないという状況と思われます。

しかし、慎重なうえに慎重を重ねるパラグアイ政府の対応は、外出制限の再延長を決め、感染者数が増加しているアスンシオン首都圏とブラジル国境地域では引き続き移動の制限が課せられることになりました。

結果として経済的に困窮する人も多く増え、以前ご紹介した社会鍋の活動も厳しい環境にも拘わらずシッカリと行われている模様で、今日のLa Nacion紙には一面にManos Generosas que alimentan(食事を提供する寛大な手)というタイトルと共に社会鍋で貢献する人々の写真が掲載され、特集紙面では4ページを割いてLas ollas populares: el “aguante” solidario a la pandemia(社会鍋:感染拡大に立ち向かう連帯の持久力)として経済的に困窮する人々を救う面々の努力を讃えています。

厳しい中でも助け合うご互助精神の発露こそ、カトリック教国の強みと言えるように思われます。

日本でも自然災害の度に報じられる光景でありますが、略奪や暴動という方向に走らない国民性は、他の南米諸国とは異なるメンタリティが根付いているパラグアイならでは、と感心させられます。最近、拙宅の近くの路上でもホームレスを見かけましたが、逆にここまで厳しい状況にあっても、見かけるホームレスの数が一人、と言うのは他の諸国ではありえないことであろうと思います。

パラグアイには、aguanteという言葉があります。平手打ちにする=guantearという動詞の変化形で、左の頬を打たれたら右の頬を出せ、というキリストの言葉から、スペイン語では忍耐を示す名詞となっていますが、同時に南米では連帯を示す言葉としても使われています。厳しい環境に置かれた時こそ連帯して助け合う、パラグアイの社会鍋活動に学ぶところは大きいと感じさせる今日の新聞記事でした。

「編集人注」

本稿の筆者の硯田一弘氏は、NHKのテレビ番組「さらめし」の8月 25日(火)19:30の放映分に出演され、パラグアイの代表的な美味しい料理につき紹介されました。
https://www.lanacion.com.py/negocios_edicion_impresa/2020/08/10/crisis-llevaria-a-perdida-de-10-anos-de-pib-per-capita-regional/
しかし、 今日から9月6日まで、外出制限が再び強化されますので、今後の感染抑止政策の方向性によっては、更なる経済活動の自粛により景気指数がさらに悪化することはあり得ないシナリオと否定しきれなくなってきています。

今日の言葉「orillar」は元々布地の縁を飾る、という意味で、更に問題を解決する・克服するという意味もあります。追い詰められた状態のパラグアイですが、辛抱強い防止対策の継続で、問題の解決に繋がることを強く期待します。

ところで、NHKのサラメシという番組をご存知でしょうか?最近は視聴者から投稿された映像も紹介しているので、試しに応募したところ、今週の放送で紹介されることになりました。

美味しいパラグアイ料理を提供する日本人家族についてのレポートですが、どんな風に編集されているか判りません。でも、短時間でも生のパラグアイの映像をご覧いただくことができそうなので、是非ご視聴ください。日本時間8月25日(火)19:30〜 27日(木)12:20〜、30日(日)8:25〜再放送です。