連載レポート５０：統計に見るラテンアメリカ　その１０
人間開発指数（HDI）2020 Human Developmemt Index by Country 2020

連載レポート51

統計に見るラテンアメリカ　その１０
人間開発指数（HDI）2020 Human Developmemt Index by Country 2020

執筆者：執筆者：桜井悌司（ラテンアメリカ協会常務理事）

シリーズ１０回目は、人間開発指数を取り上げる。この調査は、国連の１機関である国連開発プログラム（UNDP）が１９９０年から始めたもので、毎年、人間開発報告書（Human Development Report）が発表されている。現在調査対象国は１８９カ国である。

報告書の元となる人間開発指数（HDI）は、世界各国の人間開発の程度を測るための物差しとして発表された。具体的には、各国の人間開発の達成度を　①長寿で健康的な生活、②知識、③人間らしい生活　という３点から図ったものである。それぞれの項目で、出生時平均寿命、平均的な寿命指数、成人識字率、就学率、教育指数、１人当たりのGDP、GDP指数が使われる。数値は、０と１の間で表示され、１に近づくほど個人の選択肢が広い、すなわち、人間開発が進んでいるということになる。HDIは、４つのグループにランクされ、０．８～１．０は、Very high human development、０．７～０．７９は、high human development,０．５５～０．７０は、medium human development,０．５５以下は、low human developmentとなっている。

国連開発プログラムの大きな活動の一つとして、ミレニアム開発指標がある。２０００年９月にニューヨークで開催された国連ミレニアムサミットが開催され、８つの目標、１８のターゲット、４８の指標が発表された。８つの目標は、下記のようなものである。

目標１　極度の貧困と飢餓の撲滅
目標２　普遍的初等教育の達成
目標３　ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
目標４　乳幼児死亡率の削減
目標５　妊産婦の健康の改善
目標６　HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
目標７　環境の持続的可能性の確保
目標８　開発のためのグローバル・パ＾トナーシップの推進

このプログラムは、２０１５年を達成期限としているが、各方面での遅れが指摘されている。その背景には、経済的停滞、地理的問題、生物環境の悪化、貧困者のエンパワーメント不足等があるが、それ以外にも地域紛争、HIV/エイズ、自然災害、グローバル経済化に伴う貧困格差などが指摘されている。

２０２０年の報告書から世界のランキングを見ると、１０位以内には、ノルウエー、スエーデン、デンマークの北欧３国とスイス、アイスランドとオランダの欧州３国、欧州以外では、オーストラリア、香港、シンガポール、カナダの４カ国が入っている。以降、米国、英国、ニュージーランド、ベルギー、リヒテンシュタインと続く。日本は第１６位にランクされている。人間開発指標ともなると、長寿、知識、人間らしい生活がテーマなので、裕福な先進国が上位にランクされることになる。

ラテンアメリカ諸国の中で、０．８以上の得点を持つ上位のVery high human developmentに属する国は、チリ、アルゼンチン、バハマ、ウルグアイ、バルバドスの５カ国で、続くHigh human developmentの国々は、コスタリカ、パナマ、アンテイグア・バルブーダ、セイント・キッツ＆ネ―ヴィス、キューバ、メキシコ等２１カ国が入る。Medium & low human development には、ボリビア、エルサルバドル、ニカラグア等８カ国が入っている。唯一ハイチは、Lowに分類されている。

２０２０年初頭から新型コロナ・ウイルスが全世界に蔓延した。UNDPは、２０２０年５月に、「Covid-19 and Human Development」と題する特別レポートを発表し、コロナ・ウイルスが人間開発に与える影響を詳細に分析しているので、更にご関心があれば、ご覧ください。。

表１　世界とラテンアメリカの人間開発指数２０２０

次にラテンアメリカ・カリブ諸国の人間開発指数の過去の推移を下記表から見てみよう。人間開発報告書中から直近の２０２０年、２０１９年と２０１６年、２０１０年を選んだ。この中で、２０１０年からランクを上げている国は、下記の通りである。

ランクを２つ以上上げた国

チリ、アルゼンチン、コスタリカ、グアテマラ、ウルグアイ、ベネズエラ

ランクを５つ以上下げた国

エルサルバドル、ペルー、ホンジュラス、ボリビア、ハイチ、ガイアナ、メキシコ、バルバドス、ジャマイカ、セイント・トメ、パラグアイ、パナマ、コロンビア、バハマ、トリニダード＆トバゴである。

以上のことから、ラテンアメリカの大部分の国がランクを下げていることが理解できる。そこから課題も見えて来る。健康・衛生、教育、経済開発である。

表２　ラテンアメリカ・カリブ諸国の人間開発指数の推移

http://hdr.undp.org/en/data