『三分間の空隙(くうげき) 上・下』 アンデシュ・ルースムンド&ベリエ・ヘルストレム - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『三分間の空隙(くうげき) 上・下』 アンデシュ・ルースムンド&ベリエ・ヘルストレム 


スエーデンで終身刑にも処せられる罪を犯したピートは、ストックホルム市警の幹部とDEA(米国政府麻薬取締局)長官から服役を逃れる交換条件としてコロンビアのコカイン製造と密売を行うゲリラ組織PRCに潜入捜査員として送り込まれる。次第に頭角を現し米欧向け麻薬販売を仕切る“エル・メスティーソ(混血)”の信頼を獲得し“エル・スエコ(スエーデン人)”と呼ばれ、ボディガード兼補佐役として重用されるが、一方で大口の麻薬取り引きや密林の中に隠されたコカイン精製所の位置情報をDEAに流して大きな成果をもたらしていた。

一方、愛嬢が麻薬に溺れ若死したことから麻薬撲滅の信念をもつ米国下院議長が、最近摘発に成功した精製所を視察したいと周囲の反対を押し切り強行したが、PRCに逆襲され41人の護衛等全員が殺害されて捕虜となり、ゲリラの言い分をメディアに喋るよう強いられるが屈しない。それを従わさせるべく拷問の指導に呼ばれたエル・メスティーソに同行したエル・スエコは、下院議長の幽閉された檻の正確な位置と守備体制を記憶する。この下院議長誘拐によって米国政府は対麻薬最終戦争を宣言し、PRC等のエル・メスティーソら幹部13人の謀殺を世界に公言、順次暗殺を開始するが、その中に政府部内の権限争いによる齟齬で、米国政府が密かに雇った潜入調査員のエル・スエコも7番目の標的リストアップされてしまい、エル・メスティーソと共にその経営する売春宿で米軍特殊部隊に襲撃されたが、かろうじて撃退した。エル・スエコは、自身を妻子を守るため、下院議長の救出を提案し、DEA長官の密かな支援を得て救出作戦を遂行する。表題は、世界の公用・軍事・商用衛星のすべてが檻の上空を通過しない間隙をついての作戦可能時間を意味する。

しかし、救出に成功したものの、DEA長官が約束した殺害リストからの削除はホワイトハウス内の権力争いで反故にされ依然狙われ続け、またエル・メスティーソにも不信の目で見られるようになり、その放った少年殺し屋が妻子共々亡き者にしようと迫ってくる。この窮地を、かつてスエーデンで彼を捉えた市警幹部の助力を得て脱して妻子と故国に、しかも死刑・終身刑を回避して帰ることが出来るか? 逆転劇が続く。

コロンビアの麻薬組織の手口、内情、都市の拠点と生産地の往来や大口仲介者との交渉なども詳述されていて、手に汗握るスエーデン人二人の作家に寄るクライム・ノヴェル。

〔桜井 敏浩〕

(ヘレンハルメ美穂訳 早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫) 2020年8月 各464頁 各1,160円+税 ISBN978-4-15-182159-2・978-4-15-182160-8)