『赤い砂を蹴る』 石原 燃 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『赤い砂を蹴る』 石原 燃 


画を描いて生涯を生き、男の子を不慮の死で失った亡き母の、ブラジル日系二世の友人女性芽衣子さんと日本からサンパウロに着いた私(千夏)は長距離バスに乗り換え奥地の香月農場を訪れる。介護をしてくれた芽衣子さんから農場のことを聞き生前いつか一緒に行きたいと言っていた母の遺志を実現した旅である。南米南部の赤い土(テーラロッシャ)の誇りが舞う農場は、芽衣子さんのいわばルーツであり、香月に率いられた集団生活、構成員の出入り、市内に卵を卸しに行ったヨウイチさんの交通事故死と、日本での母との愛憎が入り混じった思い出が交差する。

香月農場は、サンパウロ市北西600kmにあって弓場 勇が率いた弓場農場がモデルになっている。アリアンサ移住地に入植した青年移住者の力行会の一員であった弓場勇らの青年によって1935年に創設され、農業や養鶏を営み自給自足の集団生活しながら、「祈り、耕し、芸術する」ことを目標に掲げ、文化活動としてバレーや演劇、ピアノ等の音楽を行った弓場農場の、農場生活やその中での葛藤もこの小説に織り込まれている。

著者は、劇作家でブラジルを訪れサンパウロ市や弓場農場を取材して本書を書いた。作家津島佑子の長女で、本書は芥川賞の候補作品になった。

〔桜井 敏浩〕

(文藝春秋 2020年7月 159頁 1,400円+税 ISBN978-4-16-391236-3 )