連載エッセイ72:南米現地レポート その13(9月分) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ72:南米現地レポート その13(9月分)


連載エッセイ71

南米現地レポート その13(9月分)

執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)

9月7日発

本日のLa Nacion紙、表紙が真っ白で「Numero blanco gran diario」(白紙号 偉大な新聞)「Homenaje a los trabajadores de la salud」医療衛生関係従事者への敬意)という文字はクッキリ。

最初の白いページをめくるとお馴染みの表紙が現れますが、今日の紙面は80ページすべてが白い紙に印刷されていて、特別感バリバリです。(いつもは世界共通の新聞紙用再生紙)

これまでもお伝えしてきた通り、パラグアイでは8月以降新型コロナウィルスの感染者(3-7月累計5338人の二倍以上)と死亡者(3-7月累計49人の5倍以上)が激増し、特に医療現場の感染リスク大幅に高まっています。

9月に入っても感染者の増加は止まらず、今日6日現在で感染者数は21,871人(先週比+5398人)、死者は412人(同+118人)と増加率も伸び続けています。

https://www.mspbs.gov.py/reportes-covid19.html

昨日4日から5日にかけての一日で1217人感染者増というのも、これまでの最大の記録です。感染症拡大防止の最前線に居られる医療従事者が、当然ながら最も高いリスクに晒されており、しかも十分な防御態勢が整っていないというのがコロナ禍におけるパラグアイの最大の問題です。

これまでも何度もお伝えしている通り、街中のいたるところに手洗い用の蛇口が取り付けられ、公共の場所への立ち入りは面積によって人数が厳しく制限され、入場の際にはアルコールでの消毒と体温検査が厳密に行われている厳しい体制の下で、何故これほどの爆発的拡大が発生しているか?は「謎」の一言でしか言い表せません。

また、コロナ禍とは直接関係ありませんが、パラグアイ川の水位の低下も続いており、物流に大きな支障を来しています。アスンシオンの川の水位は過去20年間で最低レベルです。日本でも台風10号の影響が懸念されていますが、新型コロナ感染防御の優等生だったパラグアイでの急激な拡大は、今後世界の医療関係者から注目される事象となると思われます。

他にもお伝えしたい事は沢山ありますが、今日の真っ白な新聞紙面の衝撃的な内容は、最優先にお知らせしたいと思わせるインパクトのある報道の方法であったと思います。最前線で働く医療従事者の皆さんに改めて大きな敬意を払うと同時に、社会全体で出来る限りの協力が進められるよう、強いメッセージを送るマスコミの姿勢にも敬意を表します。

9月14日発

今週水曜日、元副大統領Oscar Denis氏が、自信の所有する農場の近くYby Yaú周辺で誘拐されたというニュースにパラグアイ中が震撼しました。Denis氏の安否は未だ確認されていませんが、アスンシオンからブラジル国境の街Pedro Juan Caballeroに向かう途中、国道3号線と5号線が交わる Yby Yaúは近年道路の整備も進み、観光の面でも注目されるエリアですが、一方以前から反政府ゲリラEPP(Ejército del Pueblo Paraguayo=パラグアイ人民軍)の活動拠点として有名で、パラグアイで最も危ないエリアと言われています。

ここのビジュアルなイメージは2018年に公開され、現在Netflixでも視聴できるパラグアイ映画LEALをご覧いただくと判り易いです。 

今回の誘拐劇は今月初頭に麻薬取引を取り締まる政府軍がEPPの拠点を攻撃した際に、EPP側の二人の少女が犠牲になった仕返しとも言われていますが、詳しいことは判っていません。麻薬取引や誘拐による身代金を収入源とするとされるEPP等のゲリラ組織は、一方で地元の原住民や貧しい人達に施しをすることで、義賊として地元で認められる努力を行っていた様ですが、今日のニュースでは今回の誘拐事件を受けて、地元の75の原住民組織が「EPPからの好意」と書かれた援助物資の受け取りを拒否した、と報じられています。

ラテンアメリカでは激しい貧富の格差を背景に、麻薬組織が地方政府以上の福祉を施すことで政府以上の人気を得る、という図式が知られており、メキシコやコロンビアの麻薬王達も地元では絶対的な人気を博しているケースが知られています。しかし、善は善、悪は悪として義捐物資を拒否して誘拐行為を否定する原住民の動きは、裏に何かがある?との疑問が持たれながらも、パラグアイの麻薬不正取引撲滅への強い姿勢の表れとみて良いと思います。

ところで、米州開発銀行(Inter-American Development Bank)というラテンアメリカの開発を支援する金融組織の長を決める選挙結果が発表され、主たる出資者でありながら、これまでサポート役を務めてきた米国から初めてキューバ系米国人であるMauricio Claver-Carone氏が総裁に選出されました。

https://www.politico.com/story/2020/09/12/trump-pick-latin-american-development-bank-1524249

この背景には、ラテンアメリカで影響力を増す中国の動きを牽制する為には米国が主導権を握る必要がある、という強い意志がくみ取れる一方、米国内でも民主党等からIDBの運営は当事者であるラテンアメリカ諸国の出身者に任せるべき、との批判の声も上がっています。ただ、アジアの開発に米・日が主導するADB(Asian Development Bank)と並行して中国主導のAIIB(Asian Infrastructure Investment Bank)が設立されて対立軸となっているように、米中が途上国支援で張り合う結果として誕生した新総裁。中国とは国交を持たないパラグアイにとっては好意的に受け止められる人事と言えます。

9月21日発

パラグアイは面積(40.7㎢)では世界第58位(日本は60位)、南米の中でも第9位の比較的小さな国ですが、大豆の生産量ではブラジル・アメリカ・アルゼンチン・中国・インドに次ぐ世界第6位、輸出量では第4位に位置する大生産国です。

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1606/spe1_01.html

しかも、その生産量は年々増え続けており、今年は二年ぶりに1千万トンを超す見通しとなっています。しかし、3万hg/ha(1ヘクタール当たり3トン)近い収量をあげるブラジルやアルゼンチンに比べると、パラグアイの数値は24,108hg/ha(1ha当り2.4トン)と劣後しています。これは元々の地力の違いもあるものの、栽培技術を上げることで更に改善することは可能と考えられます。単に農薬や化学肥料を多用するだけでなく、土壌に有機物を投入することも有効な土壌改良の方法であり、パラグアイの生産性を上げるためには更なる努力が必要になると思います。

パラグアイの農産物は大豆だけでなく、小麦・トウモロコシ・コメ等の穀物、胡麻・チア等の雑穀、牛肉や豚・鶏肉などの肉類、各種野菜や果物と食料増産の可能性はまだまだあります。日本は永年に亘って狭い耕地から如何に高い生産性を挙げるか?という点において色々な技術を磨いてきました。コロナ禍によるサプライチェーンの分断や蝗害によって世界的に食糧不足が懸念されている今こそ、日本とパラグアイの更なる関係強化が求められています。

ところで、その新型コロナですが、感染の拡大は止まらず、本日現在は感染者数が33,015人(先週比+5,691人)、死者636人(同+122人)を数えており、パラグアイ政府は地域別に管理する外出規制を多くの地域で2週間延長し、10月4日まで適用することにしました。という事で、国境の封鎖を続き、航空機の定期便の運航もまだ暫く行われない見込みです。こうした行動規制が世界的に生産性を大幅に落としていることは周知のとおり、新型コロナと共存する方向で、一日も早く日常を回復し、農業以外の生産性も高められるようになることを切望します。

9月28日発

昨日土曜日は9月としては1959年の気象台開設以来最高の41℃をマーク、この時期としては信じられない高い気温になりました。

https://www.ultimahora.com/que-calor-meteorologia-registra-record-temperatura-maxima-setiembre-n2906688.html

纏まった雨も降っていないことからパラグアイ川の水位も引き続き下がり続けており、干上がった川底からこれまで見たことの無い火成岩が露出、地質学者が調査した結果、ここにダイヤモンドや金が含まれている可能性が指摘されています。


干上がった川は当然河川交通にも多大な影響を及ぼしており、パラグアイ川を通行する艀船はアルゼンチンのブエノスアイレスからパラグアイ南端に近いPilarまでしか運航出来ない状況に陥っています。

この旱魃によって火災も多発しており、アスンシオンのゴミを溜めるCateuraでは、これまでも発火と消火を繰り返していたゴミの山が再発火して、発生した煙がアスンシオン周辺に大変な量の煙を拡散して大気汚染を引き起こしています。

https://www.lanacion.com.py/pais/2020/09/27/incendio-se-reaviva-en-cateura-y-pobladores-dejan-sus-casas/

ただ、周辺の緑地で発生している野火による大気汚染はこの時期の年中行事であるとも言え、昨年の同じ頃にも同様の問題が発生したことが記事に
なっています。

https://www.lanacion.com.py/pais/2019/09/16/aire-en-asuncion-es-insalubre-alertan-expertos-de-la-uca/
http://www.cronica.com.py/2019/09/18/respirar-asuncion-lo-fumar/

この暑さ、気象予報によると明日は一旦落ち着いて最高気温は27℃にとどまるものの、火曜日以降再び気温が上がって木曜日には最高42℃になるとのこと。湿度が低いので日本のような逃げ場のない暑さとは少し違いますが、本来なら年が明けたころの気候である筈のこの暑さ、9月に始まるというのは少々勘弁してほしいといった印象です。

気温が40 ℃を超えた今、大勢の人が集まる場所の入り口で義務付けられている体温計での検温ですが、どんな数値を示してもオッケーになるのでしょうか? これから入口でtermómetroを持って検温している人達に訊いてみます。