連載パナマ・レポート(5)(2020年9月分) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート(5)(2020年9月分)


連載パナマ・レポート⑤

連載パナマ・レポート⑤ (2020年9月分)

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)

I. 新型コロナウイルスの現状

9月25日時点で、パナマにおける新型コロナウィスルの感染者は109,481人、死亡者は2,311人、回復者は86,158人と確認された。7月下旬の1日当たりの感染者は1,000人を超えたが、8月下旬からは減少している。9月25日時点では1日当たりの感染者は約700人で、感染力を示すRT(基本再生産数) が1を下回っているため政府が外出禁止命令を緩和した。政府は、ドイツ産ワクチンの実験を9月下旬に開始することを明らかにした。さらに、ワクチン共同購入「COVAX」への参加も検討している。内閣決定によりワクチンを取得するための2千万ドルが充当された。アズエロ地域(チトレ県、ロスサントス県、ヴェラグアス県の一部)医療センターの人工呼吸器故障により、患者はパナマ県の病院に移動された。さらに、ゴルガス記念研究所は、再感染の感応性がある5件を調査していると述べた。

II. 政治

A.Ciudad Salud

 スペイン企業であるFCCは、国際商業会議所でパナマ政府に対して、仲裁手続を開始した。マルティネリ政権(2009-2014)は、約22万平米の大規模医療施設(Ciudad Salud)のデザインと建設をするため、FCCと約5億2千万ドルの契約を締結した。契約によれば、Ciudad Saludの建設は、2015年に完成する予定であったが、バレーラ政権(2014-2019)では、様々な不規則性が確認されたため、パナマ政府がFCCに対して修正を求めた。

 2015年以降、建設はほぼ進めておらず、2020年時点では65%しか完成していないため、パナマ政府は、FCCに対して3,000万ドルの遅延罰金を科した。これに対してFCCは、パナマ政府に対して1,500万ドルの未払い金を請求した。政府はFCCと第三者の会社による建設を完成させるように交渉を行ったが、8月下旬にFCCは、新型コロナウイルスを不可抗力の理由とし、一方的に契約を解約し、国際商業会議所でパナマ政府に対して6,500万ドルの「長期滞在金」と5,000万ドルの担保金返還を求めている。9月18日に国際商業会議所は、5,000万ドルの担保金実施の90日間延期を決めた。

完成の遅延によってCiudad Saludの建設費は7億ドルまで上がると予定されている。また、FCCは、汚職容疑でパナマおよびスペインの刑事調査対象となっており、世界銀行にも制裁を受けている。

B.グナ・ヤラ知事の逮捕

 グナ・ヤラ先住民領域知事のエリック・ロビンソンが9月15日に、車での麻薬運搬を発見され、現行犯逮捕された。同日、ファノビッチ議員の秘書も麻薬取引事件と関係した疑いで辞任した。9月16日にコルティソ大統領はロビンソン知事を解任した。

 ロビンソン知事の逮捕と解任を受け、知事を管理する政府省(Ministerio de Gobierno)は、16日に他の知事と緊急会議を開催した。パナマ憲法では、知事の任命および解任は大統領に託されている。パナマ政府は、麻薬取引に対する措置を強化し、9月中に数トンのドラッグを差押え、破壊している。

III. 経済

A.経済再開

 パナマ政府は、8月24日から段階的に経済を再開した。9月に、スポーツイベント、建設業、引越し業者、小売店、レストラン、その他のサービス業、航空が再開した。公共事業大臣ラファエル・サボンへは、公共事業136件の再開で、3,900人が職場に復帰できたと述べた。

 10月の夜間外出禁止令解除と共に、ホテル、観光業、図書館、プールの再開が予定されている。パナマ商工会議所は、政府の段階的な経済再会計画によって復帰できない企業が増加する恐れがあると述べ、完全な経済再開を求めている。

 また、商工会議所は、新型コロナウイルスの拡大により、3月以降、約1万4千社が休業したことによって、157,000人が解雇され、民間部分には月15億ドルの損失が生じたと発表した。また、経済財政省は、8月31日までの税収⼊は23億3,240万ドル、前年同期比10億8,750万ドル減少したと明らかにした。

 以上に対して労働者は、9月24日時点で約6万2千人が職場に復帰し、停止された労働契約が増加していないと発表した。また、政府が9月22日に、2.25%利息、2026年期限の国債を発行し、3.28%利息、2060年期限の国債を再発行した。3月には2056年期限の国債が既に発行されている。

 政府は、2020年2月29日納付期限の所得税等遅延税の支払期限を、2020年12月31日までとし、遅延税の85%までの免除を決定した。2020年に失業率は25%まで上がると予想されている。これに対して、アメリカの格付け機関であるムーディーズは、2021年にパナマ経済が4.1%成長すると予測している。

B.テレワーク法の規則

 政府は、9月16日に、2020年法律第126号(テレワーク法)の規則を制定した。テレワーク法は、この制度を導入し、会社と社員の権利義務を規定したが、実務上、様々な問題が発生した。特に、インターネット代以外の労働に必要な費用と残業の取扱が明確に規定されなかったため、批判の声が多かった。テレワーク法の規則では、会社がインターネット代と電気代を負担し、労働者の勤務時間記録の作成義務を規定している。更に、テレワークに利用されている機械(パソコン等)には、労働者、またはその家族のプライバシーを侵害するソフトのインストールが禁止されている。

 労働局は、物流業界、銀行業界およびテクノロジー業界がテレワークを最も利用していると明らかにした。更に、労働局はテレワーク求人サイト経由で、3月から8月にかけて456件の労働契約が成立されたと述べた。

C.観光業界

 9月上旬時点では、30%のホテルが10月に再開できないと予想されている。パナマホテル連合会は、10月にホテル業界が復活するには経済的な支援が必要なため、2021年まで復活できないホテルもあると述べた。更に、政府の経済再開計画では、ホテル業界で許可されるサービスがまだ公開されていないことを明らかにした。 

 観光局は、民間部門と協力し、持続可能なツーリズムを中心とし、約3億ドルの充当を予測した2020-2025観光促進計画を作成した。更に、政府は、9月28日に国内線、10月12日に国際線の再開を予定している。トクメン国際空港は、2020年上半期の旅客数は351万2,680人、前年同期比618万9,100人減少したと発表した。

D.海事産業

 CEPAL(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)によると、最も利用されている中南米港のランキングでは、パナマは1位と2位を取っている。パナマ海運業界は、25,000人を雇用し、GDP比の15%を占め、2020年8月下旬までに、コンテナ取扱量は、505万8,686TEUまで上がり、前年同期比9.1%増加したが、燃料補給サービスは、前年同期比11%減少している。

 パナマ海事会議所は、パナマ政府に対して、海運業の改正計画を提案した。海事会議所は、手続きのデジタル化、減税、および企業保護を求めている。さらに、同会議所は、ポスト・パナマックス船を対応できる港を建設すべきと主張している。現在、太平洋側の港では、ポスト・パナマックス船を取扱える埠頭は5つしかないため、代わりにコロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国の港を利用する。

 パナマ海運庁は、6月下旬にモーリシャス共和国沖で起きた貨物船「わかしお」の事故と、9月上旬にスリランカ沖で起きた大型タンカー「ニューダイヤモンド」の事故に関する調査の開始を発表した。パナマ海事法は、パナマ船籍を有する船に対するパナマ海運庁の管轄権を規定している。海事産業の専門誌であるロイド日報の2019年旗国ランキングでは、パナマは1位、リベリアは2位、マーシャル諸島は3位となっている。

E.パナマ運河の仲裁手続

 9月25日に、国際商業会議所の国際仲裁裁判所は、パナマ運河拡張を担当した建設共同事業体GUPCの求めた損害賠償請求を棄却した。パナマ運河局は、拡張に利用された建築材料のクオリティーは契約に定められた基準を満たさないと判断し、GUPCに材料の変更を求めた。これに対して、GUPCは、建築材料の変更によって4億3千万ドルの損害が発生したと主張し、パナマ運河局に対して損害賠償を求めた。これに対して、パナマ運河局は前払いした2億6千万ドルの返還を請求した。国際仲裁裁判所は、GUPCはパナマ運河局に2億4千万ドルを支払うよう命令した。

 2013年に、GUPCは建設費用の超過を理由とし、パナマ運河局に更に16億ドルを求めたが、運河局は拒否した。建設費用超過の他、運河局の判断により生じた損害賠償も含めて、GUPCは、50億ドル以上の賠償を求める様々な仲裁手続きを開始した。しかし、ほとんどの仲裁では、パナマ運河局の主張が認められ、建築材料に関する仲裁の他、2020年9月下旬時点では、仲裁法廷は、GUPCの契約不履行または過失による責任を根拠として約8億9000万ドルの支払いを命令した。

F. パナマ運河の温暖化対策

 パナマ運河局は、国会で2021年度に3億3,089万ドルの予算を要求している。今後50年にパナマ運河に必要な水量を確保するための新しい水管理システムのデザインと建設をするため入札募集プロセスを開始した。入札募集の予備的な手続として、11月12日までに、入札者が財政的及び技術的な情報と業績リストを提出しなければならない。近年、年間降水量は減少しているため、運河に必要な水量が不足し、パナマ海運庁は水量不足対策として、2020年2月に、水量料を導入した。
さらに、5月上旬に導入した新型コロナウイルスに対する利用者向けの措置を2020年まで延期すると発表した。これらの措置は、予約金支払い期限および予約変更手続きの緩和を中心としている。