執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
この留学マニュアルは、筆者が関西外国語大学に勤務時に留学委員として活動した際にとりまとめた留学マニュアルを、短期の語学留学を目指すすべての学生のために改訂したものである。とりわけ、スペインやラテンアメリカへの留学(1年以内を対象)を希望する学生に対し、留学試験の準備から帰国後にやるべきことを記したものである。日本全国の学生が内向き傾向にあるが、学生時代に留学を経験することは、残りの人生において、貴重な財産になること請け合いである。また2020年初めから、日本のみならず世界的に新型コロナウイルスが蔓延し、留学生の派遣や受け入れが困難になっているが、コロナ問題ができるだけ早く終息し、以前のような状態に戻ることを期待したい。
就活との関係で留学時期が早まっている。⇒初修言語であるスペイン語やポルトガル語の学習期間が、1年半から2年の学力で留学することになる。十分な実力もなく留学することになるので、現地の大学での授業について行くことが難しいという問題も発生する。本来であれば、3年生で留学するのがベストであるが、3年生で行くと就活に出遅れる可能性がある。留学希望の学生は、1年生の時から計画的かつ集中的に勉強することが望まれる。
留学は将来のキャリア形成の一環!
多くの学生が留学を目的化しており、留学すれば夢がかなったとして安心してしまう傾向にある。その結果、帰国後留学先で得た語学力の維持・向上ができず次へつながらない。本来留学は将来のキャリア形成の一環として位置づけられるべきで、あくまで手段である。どの大学でも、複数の海外提携校があり、留学生派遣数も多いと思われるが、誰にでも留学に行かせてくれるわけではない。留学に行くためには、留学の目的をはっきりさせることが最初の課題である。
留学することを強く望む学生のためにチェック項目を作成した。自分が各項目にあてはまるかどうかチェックしてみよう。
≪チェック項目≫
□ ① 留学は、あくまで手段であり、目的ではないと理解すること。
□ ② 何をすべきか、何を学ぶべきか確かな目的意識を持つこと。
□ ③ 留学は、勉強するために行くのであり、遊びや観光のためではない。
□ ④ ハングリーであること。留学の機会は、最初で最後と考え、しっかり勉強すること。
□ ⑤ 留学しない大学生ライフはないと思って意欲的に取り組む。
□ ⑥ 留学先では、今の学習に比較して、はるかに勉強しなければならないことを覚悟すること。
□ ⑦ 大学は交換留学生に対し、多額の投資(現地大学の授業料、生活費の負担)をしていることを忘れないこと。
□ ⑧ 留学という与えられたチャンスを絶対に掴むという意気込みを持つこと。
□ ⑨ 留学生は所属大学から派遣された「大使」、日本の「代表」というつもりで行動すること。
□ ⑩ 積極的になること。自分から行動しなければ何も得られない。
留学を希望しようと考える学生は、まず何としても、自分の大学にはどのような留学制度があり、どこの国々を対象としているのかをチェックすることが必要である。そして、次のようなことに留意する必要がある。
① 《計画を練る》
1年生の時から、留学に行くと決め、計画的にスペイン語やポルトガル語(文法、会話)とスペイン・ラテンアメリカの一般教養を学ぶこと。毎日勉強時間を確保すること。大学生活の中でいつ何をするのかおおまかな計画を立て、実行に移していくこと。
② 《選考条件(長期留学):成績》
履修科目の平均点75点以上を取ること。平均75点を取らないとエントリー段階で不合格となる。(関西外国語大学の場合)履修後取りやめたい時は、必ず期限内に取り消しすること。取り消しせず、単位を落とせば平均点が下がり、受験資格を失う。
③ 《留学への意識》
現地では、自分は一体何を勉強したいのかを真剣に考え明確にすること。考える項目は、何故○○国に留学したいのか、そこで何を学びたいのか、いかに有意義な留学生活を送るか等々である。
④ 《自分で調べる》
受験前には、留学希望国の行きたい大学のホームページをしっかりチェックし、自分の望む分野の講義があるかどうかを確認すること。
⑤ 《力の入れどころ》
留学前のアルバイトは極力少なくし、勉学に励むこと。
⑥ 《スペイン語・ポルトガル語の勉強》
スペイン語・ポルトガル語の文法、演習の予習、復習をしっかりやるとともに、語学の参考書も購入し、どんな問題が出題されても良いように勉強すること。留学先でも困らない豊富な知識を身につけること。会話については、仲間と会話サークルを作って練習したり、留学生と極力話したりするように努めること。
⑦ 《人脈を広げる》
・過去に留学試験を受験した先輩に出題問題の内容、オーラル試験の内容等につき取材すること。留学の漠然としたイメージだけで試験に望まず、先輩方の留学経験を聞いて具体的に何ができるのかを知るようにする。
・留学担当部が開催するイベントなどにも積極的に参加し、様々な人と知り合う。スペイン・中南米から来ている留学生から直接、その国の実状について情報を得たり、生きたスペイン語を学ぶ。
⑧ 《面接に向けて》
・オーラル試験、日本語面接試験の内容については、自分が審査員になったつもりで考えること。志望動機が堂々と言えるようにすること。
ネイティブの先生をつかまえオーラル試験の練習をする。日常的に会話の練習をしておくことが必要である。
・筆記試験が終了した時点で、オーラル面接と日本語面接の練習・リハーサルを何度もすること。
・面接試験では、背筋を伸ばし、大きい声ではきはきと答えること。頭の中で言いたいことを整理しておき質問されたことのみ要領よく答えること。沈黙しない。下記は、関西外国語大学の留学関連プログラムの流れである。
留学試験に合格し、実際に留学国に出発するまでの期間をいかにうまく使うかが、留学の成否を握る。留学先では、猛烈に勉強しなくてはついていけない。そのため可能な限り早く、頭を留学モードに切り替え、現地での勉強に備えるようにすること。
●月別学習計画をつくる
☆スペイン語
☆相手国事情
☆日本に関する知識
月別計画表を作成し、毎月進捗状況をチェック。
●そのスペイン語、ポルトガル語で大丈夫?
自分のスペイン語力をチェックする。現在の能力では、とても現地の授業について行けないと考え、スペイン語力の一段の向上をめざすために最大限の努力をすべきである。
●グループ学習
留学合格者がグループをつくり、一緒に勉強して、実力を高め合う。
仲間同士普段の生活でもスペイン語・ポルトガル語を使って会話練習する。
●語彙を増やす
少なくとも3,000語くらいは使えるようにしておくこと。そのためには、毎日、少なくとも20以上の単語を覚えるようにする。
●目標を立てて勉学に励む
留学前に目標を立ててスペイン語検定やDELEの試験等に挑戦し、スペイン語力を上げる。また自分の実力を確認する。
●会話力をつける
積極的に留学生と交流するチャンスを掴み、スペイン語・ポルトガル語を話す練習をする。オーラルの授業では、たくさん発言するよう心がけ、ネイティブの先生との会話を大事にする。
●読解力をつける
現地の大学で最も求められるのは、読解力である。したがって、留学まで毎日スペイン語の文章を読みこなせるようにしておくこと。毎日、読むべき資
料、読むべきページ数を決めて実行する。
●作文力をつける
作文力をつけるために毎日日記をスペイン語でつける習慣をつけると良い。昔、筆者がスペインに留学することが決まり、後の元スペイン大使の故林屋栄吉さんにアドバイスを求めたところ、現地では、①毎日日記をつけなさい、②テアトロをたくさん見なさい ということであった。今から思うと素晴らしいアドバイスであった。
留学国に関する情報・知識の習得に努めること。
留学するからには、相手国の歴史、政治、経済、社会、文化について常識的な情報・知識は持っていなければならない。派遣大学からの「大使」にふさわしい常識力を持つこと。何を読むべきか、どのような映像を見るべきかについては、積極的に先生に相談すること。外国のことを一生懸命に学ぼうとする外国人は、受け入れ国の人々に好感を持たれるものである。
現地の学生にとって、日本からやってくる留学生は、日本の情報源である。したがって、日本に関する数多くの質問を受けることになるが、答えられなければがっかりされる。「あなた本当に日本人ですか?」と笑われることもしばしばある。
留学前に勉強しておいた方が良い項目は、下記の通り。
日本史、世界史、政治、経済、社会、
文化(文学、能・歌舞伎、音楽、絵画、建築等々)
詳しく知る必要はないが、おおまかなところは知っておいた方がいい。
日本の新聞を読む習慣をつける
最近の問題としては、新型コロナウイルスの問題、地震・津波・台風・大雨・洪水、日中関係(南シナ海、尖閣問題等東シナ海)、日韓関係(竹島、従軍慰安婦の問題等)、米中関係、北朝鮮問題等があり、自分の考えをしっかり説明できるようにしておかなければならない。
日本人有名作家の小説を読む
スペインやラテンアメリカで人気のある村上春樹や吉本ばななの小説の1つや2つくらいは読んでおくことが望ましい。ノーベル文学賞受賞作家の川端康成、大江健三郎の作品も同様である。