『メキシコ 2018~19年 -新自由主義体制の変革に挑む政権の成立』 国本 伊代 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『メキシコ 2018~19年 -新自由主義体制の変革に挑む政権の成立』 国本 伊代


 メキシコは2018年7月の大統領選挙で圧勝した左派のロペス=オペラドール大統領(AMLO)の選挙戦から就任後1年間の彼が標榜する「変革の政治」の取り組み、成果と課題を、メキシコ近現代史の研究者(中央大学名誉教授)が現地で観察し考察した充実した報告。
メキシコは「21世紀の大国」と期待される天然資源、人的資源を持ちながら、大きな貧富の格差、権力の偏在と政治・行政・経済の権益をもつ者たちの腐敗、汚職の横行、司法はじめ監視・是正する制度の機能不全と容認する社会構造が常に存在する。そういった積年の背景に対して、特権の剥奪と困窮者救済などの公約を掲げて発足したAMLO政権の拙速とも言える手法には批判があり、経済運営も弊害が出ているが、貧富の格差拡大、中間層の崩壊をもたらしたとする新自由主義経済政策の弊害と強力な麻薬組織と組織間暴力の応酬で悪化が深刻化している治安に立ち向かおうとしていることを詳細に述べている。
 本書では、2018年の総選挙と政権の発足、初年度の実績と評価を概観し、麻薬と暴力の犯罪社会、汚職文化を一掃しようとするAMLO政権の賭け、女性の取り巻く社会の変容を詳述してるが、特にメキシコ社会を象徴してきた男性優位主義(マチスモ)と2010年代に常態化し社会問題になっている女性への残虐な手法による女性殺し(フェミニシディオ feminicidio)を対比し、最近の事例を挙げ関連を指摘するなど、最新のメキシコの変化の理解を助けてくれる一冊。

〔桜井 敏浩〕

(新評論 2020年9月 279頁 2,400円+税 ISBN978-4-7948-1156-1 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕