著者はブラジルのサンパウロ人文科学研究所での客員研究員を経て、USP(サンパウロ総合大学)でサンパウロ市のリベルダーデ地区でかつて世界最大の日本人街と呼ばれた東洋人街の形成と変容について研究、修士号を取得し、その後ブラジリア大学准教授を経て、現在は国際日本文化センター研究員。
本書はUSPでの修士論文を大幅に加筆し、1908年の笠戸丸移民からブラジルに現れた幾つかの日本人街の発展と衰退を辿り、日系移民の都市化と東洋人街から発信されていく「日本文化」「日本の美」について考察している。新伝統行事である4つの祭りを分析し、市の観光文化戦略との関係で「日系人の新しい家郷」「ブラジルのオリエンタル・ゾーン」として様々な顔や機能が追加されていく過程とメカニズムを明らかにすることで、地球の反対側で営まれている「もう一つの日本近代」としての東洋人街の存在意義、その延長にあるブラジル日系社会の未来について考えをめぐらしている。「リベルダーデ商工会」の誕生とそれを引っ張って行った水本 毅等の一族、企業駐在員と東洋人街などの関わりなどの事例も挙げていて、「都市物語」としても読める研究書。
〔桜井 敏浩〕
(東京大学出版会 2020年7月 404頁 3,900円+税 ISBN978-4-13-023077-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕