『ブラジルの校長直接選挙 -教職員と保護者と児童生徒みんなで校長を選ぶことの意味』 田村 徳子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジルの校長直接選挙 -教職員と保護者と児童生徒みんなで校長を選ぶことの意味』 田村 徳子


ブラジルの公立初等中等学校には、教職員・保護者・児童生徒が校長を直接選挙で選考する特異な制度がある。本書ではブラジルでの校長像を整理し、諸外国の校長採用制度と比較してのブラジルの制度の特殊性とその歴史を検討し、ブラジル現地での聞き取り調査と文献・法令等から得られる情報によって、ブラジルでこの制度が実践されることの意味を明らかにしようとしている。

この制度に関わるのは、制度を法令化する議会、法令の妥当性を判断する司法、実践する行政、現場で運用する学校と教職員・保護者・児童生徒があるが、本書ではそれぞれの視点を取り入れ、パラナ州とパラー州での校長直接選挙の実践を踏まえて、特に校長の視点を重視している。校長直接選挙の機能として、校長職のなり手が少ない中で不本意な人事を防止する人材開拓、パラナ州のように社会的、経済的、教育的水準の高い場合は、選出により地域社会から人望のある人を集め、教育行政と政治との関係構築の一助となっている。またパラー州のようにそれら水準が低い場合は、高等学歴者が少ないことから適切な人材が多くなく、政治的背景をもとに校長が採用されるリスクがある。校長採用への保護者の直接参加が校長の業務遂行に有効に働いており、学校という共同体のリーダーをその構成員による選挙で選ぶブラジルのこの制度は、民衆レベルでの思想・実践から構築された直接民主主義と言えると意味づけている。

〔桜井 敏浩〕

(東信堂 2020年3月 193頁 3,200円+税 ISBN978-4-7989-1629-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕