『すべて内なるものは』 エドウィージ・ダンティカ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『すべて内なるものは』  エドウィージ・ダンティカ


 ハイチに生まれ、12歳からニューヨーク、ブルックリンのハイチ系コミュニティで育ち、大学院まで教育を受けた著者が、世界初の黒人共和国として独立しながら独裁と政治の混乱が続いた歴史、政情と社会状況に翻弄され、2010年の大地震の被害から立ち直れないでいるラテンアメリカで最も貧しい国に留まるハイチの人びとの暮らし、苛酷な条件の下で生き抜く女たちの心理を、マイアミのリトルハイチ、ハイチの首都ポルトープランス、ニューヨークなどを舞台に、そして他国への移住を目指す移民やボートピープルを描いた全8編の短編小説集。
 かつて存在した人や物の不在と愛、家族愛、故国への愛憎など、様々なハイチの人々の人生が描かれているが、そこにはもともとあった貧しさ、政治の脆弱さが暗い背景として常に存在する。巻末の19頁にわたる訳者の詳細なハイチと作家についての解説が理解を助けてくれる。

〔桜井 敏浩〕

(佐川愛子訳 作品社 2020年6月 279頁 2,400円+税 ISBN978-4-86182-815-7 ) 
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕