連載エッセイ76:南米現地レポート その14(10月分) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ76:南米現地レポート その14(10月分)


連載エッセイ73

南米現地レポート その14(10月分)

執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)

10月5日発

赤道の南側では、9月22日(年によって23日)が春分の日(equinoccio de primavera)、パラグアイには日本の様にハッキリと四季の区別がある訳ではないものの、この日になると春が来た、と盛り上がるのが通常なのですが、今年の春は異常な暑さに見舞われました。特に10月1日となった今週木曜日には日中の気温が44℃を記録、しかも周辺の野火延焼による煙が市内に充満して、真昼でも太陽が直視できる変な天気になりました。

春を迎える前は、少し肌寒い日もあったのですが、この極端な気温の振れには参ります。何回もお伝えしている通り、今年は降雨量が極端に少なく、アスンシオンにおけるパラグアイ川の水位はマイナス24センチ、観測史上最低レベルで、水運は完全にストップしています。パラグアイ西部のチャコ地方では、水不足によって牧場の飲用水が足りなくなり、落命する牛が相当数発生していますし、東部の穀倉地帯でも大豆等の蒔き付けに支障が出てきています。

湿度が低く、高い気温が続いたことで森林地帯の乾燥が進み、国内のいたるところで火災が発生、通常の年なら単なる野焼きの延長と捉えられるところ、今年は広範囲な野火となってアスンシオンを煙に巻いた現象が発生した訳です。同時多発で発生した野火、foco de calor(熱源)と言われ、3700箇所以上で発生した火災の90%は消防の努力で鎮火されたと報じられる一方、新たに5200の火災が発生しているとのニュースもあり、雨が降る様子も無いのでまだ当分厳しい状況が続くものと思われます。

今年の直木賞受賞作は「熱源」、芥川賞は「背高泡立草」でしたが、パラグアイでは草木に火のついた熱源(foco de calor)と闘う日々が続いています。ところで今日からパラグアイは夏時間。日本との時差は丁度12時間になります。

アスンシオンでは、毎月の日の出と日の入りの時間が紹介されています。アスンシオンの緯度は南緯25.2819、北半球であれば台北(北緯25.011)と似た位置付けですが、日照は随分異なります。勿論、アスンシオンの月別の表は日の出と日没の差なので厳密な比較は出来ませんが、日の当たる時間が多いことは間違いありません。でもこんなに日照りが続くと雨雲が恋しくなる春の日です。

今日のLa Nacion紙日曜版に、パラグアイ観光庁SENATURが発行するガイドブックjahaが付いてきました。「クルマで周るパラグアイ観光地の魅力」という特集、電子版でご覧いただけますのでクリックしてみてください。
https://www.senatur.gov.py/materiales/jaha_verano_2020.pdf[PDF]

10月12日発

降雨不足によってパラグアイ川の水位低下に歯止めがかからず、本日現在アスンシオンではマイナス43㎝と史上最低を更新しています。この水位低下によって多くの船が航行不可能になり、座礁するケースも出てきています。

本来なら上の写真のように20~30の艀を連結して1万~1.5万トンもの貨物を運ぶことが可能ですが、現在は水深が低すぎてこうした大量の連結が出来ず、下の写真の左端のように、細長い5本連結程度で運行されるようになっており、運送効率も悪いので運賃の高騰を招いています。従って干上がった川で座礁させたまま放置されている艀も増えています。

今週は野火による煙害の発生はありませんでしたが、この週末は自警消防団による街頭等での募金活動が行われていて、募金目標の20億グアラニ(約3千万円)を達成できそうとのことです。

水が無くて船が座礁、野火も中々鎮火しないものの、ボランティア消防団を支える人々の気持ちは任務遂行をシッカリ支えています。

10月19日発

パラグアイの人口は約700万人、その4割が地方に住んでおり、多くの地方在住者が職を求めて都会に移り住む傾向にあります。そんな中、地方に残って田舎の仕事に賭ける若者が、今日のLa Nacion紙に2ページ見開きで紹介されています。

https://www.lanacion.com.py/gran-diario-domingo/2020/10/18/la-nueva-generacion-que-apuesta-al-trabajo-de-campo/
コロナ禍による外出制限の結果、日本でも地方での生活が見直されているようですが、記事で紹介されている20歳の青年も農業について学んだ知識を地元で活かすべく葉物野菜の栽培農家として活動することに賭けたそうです。因みにパラグアイの人口ピラミッド、0歳から39歳までの人口が515万人、総人口713万人に占める割合は72%、40歳以上が28%ですから如何に若い国であるか改めてご理解頂けると思います。

今日のもう一つの注目記事はスーパーウーマンことCarmen Moránさん。27歳の彼女は女子サッカーの選手兼ミュージシャン。

https://www.lanacion.com.py/gran-diario-domingo/2020/10/18/supermujer-futbolista-cantante-administradora-y-baterista/
こんな若い女性が注目を浴びるパラグアイ、賭けてみる価値は大いにありそうです。

そういえば、今週は3月以降閉鎖されていたブラジルとの国境がついに開放されました。とは言っても、現時点で行き来できるのは双方の国に残留していた国籍保有者や国境在住で相手方のビジネスに関わっていた人などの往来が可能になっただけですが、それでも大きな進歩です。

今日現在の新型コロナ感染者数は54,015人、死者は1,179人ですが、今後は少しづつでも往来できる国の数が増え、生活が完全に日常を取り戻すことが出来るよう、心の底から祈念しています。

10月26日発

最近やたらとSDGsという言葉を目にします。国連が掲げる持続可能な開発目標のことですが、今までの垂れ流し的な社会構造を見直して、17の目標(ゴール)と169のターゲットを設定して世の中の仕組みを持続可能にしようという取り組み。目標(ゴール)やターゲットの内容を理解するのも大変ですが、今までの仕組みを見直してエネルギーの使い方や流通効率等を改善し、食糧や富の分配を公平にしてより良い社会を実現しようという取り組みへの提言と理解しています。

で、今日の新聞を開いたら、9ページ目に一面広告でJapon=日本という文字がデカデカ掲載されていたので驚き、読んでみると、Superseis(スーペルセイス)というパラグアイ最大のスーパーマーケット・チェーンの店舗の一つが改装されて環境負荷の少ない持続可能な新しい建造物になったことをEdgeという世銀グループの認証機関に認められたとのこと。

日本の商品が置いてあったり日本の技術が使われている訳ではなく、単にAvenida Japon(日本通り)という地区にあるSuperseis店舗で、確かに照明の照度を落としたり空調の電力を下げる工夫がされているようです。

こうした取り組みがEdgeという認証機関に認められると、これからはEdge認証のお墨付きを得られるようになる模様 https://edgebuildings.com/ んー、またまた新しい認証機関が出来て、これをクリアしないと建設業も競合との差別化が図れなくなる、益々大変な時代になりそうです。この新認証機関Edgeのホームページを見て気付いたこと、英語・スペイン語・ポルトガル語に加えてベトナム語のサイトが用意されています。

80年代から90年代にかけてジャパンアズナンバーワンと言われた時代には、世界中の至る所に日本語の表示が付けられて、日本語を学ぶ外国人も大勢いましたが、最近は世界中どこに行っても日本語は消え、中国語に凌駕されています。ネットの世界でも同様で、調べものをしようとWikipediaを開けても、中国語の解説はあっても日本語が無いケースが多々あり、世の中の変調を感じる訳ですが、この新しい認証機関はどういう訳かベトナム語で攻めてきました。新しい潮流でしょうか。

日本の商品と言えば、南米の香港とも呼ばれる商都シウダー・デル・エステにTokutokuyaというお店が出来て、日本の食材や衣料品などが安価に購入できるようになりました https://www.facebook.com/watch/?v=258852865550167 と言っても、実際にはこのお店が開店したタイミングで新型コロナによる移動制限が始まった為にお店に出向く機会もないまま何か月も経過しています。エステ市の多くの商店は外出制限の煽りを受けて休業や廃業を余儀なくされています。商業が持続可能な社会を支えていますので、早くお店に足を運んで応援したいものです。