連載パナマ・レポート7:2020年11月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート7:2020年11月分


連載パナマ・レポート⑦ (2020年11月分)

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)

I. 新型コロナウイルスの現状

11月26日時点で、パナマにおける新型コロナウィルスの感染者は160,287人、死亡者は3,018人、回復者は140,976人と確認された。11月25日に過去最多の1755人感染確認された。8月下旬以降、感染者数は減少傾向にあり、9月中旬には感染力を示すRT(基本再生産数) が1を下回ったため、外出禁止命令の解除と共に、経済の再開が始まった。しかし、11月上旬から感染者数が増加し、11月25日に1,250人を超え、RTは1. 17を上回った。
パナマでは、一日当たり1万件以上の検査が行われている。100万人に対して16万7千件の検査数で、これは、アメリカ(100万人に46万6千件)、カナダ(100万人に23万4千件)、チリ(100万人に23万2千検査)に次いで、アメリカ大陸において4番目に多い検査数である。4月時点では約30%の陽性率であったのに対して、現在の陽性率は約10%となっている。

コルティソ大統領は、側近に感染者が確認されたため、10月30日から11月12日まで自主隔離に入っていた。これによってコルティソ大統領は、ハリケーン・エータ(ETA)による被害に伴う救済活動およびパナマ独立記念日の祝事に参加せず、カリ-ジョ(Carillo)副大統領が政府を代表した。

11月18日には、内閣は英国産の新型コロナウイルスのワクチンを購入するために、約400万ドルの予算を決定した。政府は英国産のワクチンと合わせて、米国産とドイツ産のワクチンも利用し、約550万投与量を取得し、2021年第一四半期から予防接種計画を開始する予定であると明らかにした。しかし、保健省は、妊婦と未成年者に関する治験が行われていないため、対象外とした。

II. 政治

A. 二百年祭協定

コルティソ政権は、11月26日から独立200周年記念に向けて、パナマの今後を考える「200年祭協定」(Pacto Bicentenario)に関する議論を開始することを明らかにした。政府は長期の政策を求めているが、野党から新型コロナウイルスに集中すべきという批判が出ている。政府は、年金制度、銀行ローン猶予、失業率に関する提案を求めている。

B. 新政党

パナマ選挙裁判所は、PAIS (Partido Alternativo Independiente Social) 党とマルティネリ元大統領のRealizando Metas(RM)党が、法律の定める政党員要件を満たしたことを認めた。選挙法では新政党を成立するには最低39,926人の署名が必要とされている。政党になるには、最低政党員要件の他、党大会等の開催をしなければならないため、11月26日時点ではPAIS党とRM党はまだ正式な政党として登記されていない。

選挙裁判所の統計課によると、パナマでは143万4,662人が政党員として登録している。11月26時点では、政党の登録は以下の通りとなっている。

政党員
PRD(民主革命党 601,342
CD(民主変革党) 301,970
Panameñista(パナメニスタ党) 287,269
Morilena(モリレナ党、民族共和自由運動党) 82,939
Alianza(同盟党) 28,569
PP(国民党) 22,556
   
成立手続中
RM 49,607
PAIS 39,482
UNI 13,074
MOC 7,854

III. 経済

A. 経済再開の現状

パナマ政府は10月中旬に完全な経済再開を許可した。しかし、パナマ企業経営者協会(APEDE)によると、11月18日時点で、新型コロナウイルスの影響によって約8,000社が営業を再開できていないとは公表している。さらに、労働局は、11月12日時点で、約9万人の労働者が復帰していると発表した。しかし、9万人の労働者は、3月から政令によって停止されている労働契約の30%に過ぎない。

労働法典は、政府が認容した不可抗力が発生した場合、労働契約の停止を規制している。労働契約の停止により、労働者の労働義務と使用者の賃金支払い義務も停止されるが労働契約は継続している。停止を認めた政令では、2021年1月に労働者の復帰義務が規定されているが、現時点では、不可能と思われているため、政令の有効期限の延長を求める声もある。さらに、様々な業界から新たな外出禁止命令の発令を批判する声が上がっている。また、不況の影響を防ぐまたは緩和するため、労働者を解雇しない会社に優遇税制を認めるべきという意見もある。

会計検査院の報告によると、2020年上半期ではパナマのGDPは、前年同期比約19%減少した。しかし、健康・福祉業は約9%(国立)と約4%(私立)成長した。11月24日にアメリカの格付け機関であるS&P グローバル・レィティングは、国債発行とGDP減少を根拠とし、パナマの信用格付けをBBB+からBBBにしたが、2021年には7%、2022年-2023年には5%の成長を予測している。

B. 大型ハリケーン・エータの影響

11月には、大型ハリケーン・エータとイオタによってパナマのチリキ県とボカス・デル・トロ県では、重大な被害が発生した。地理的には、ハリケーンがパナマに上陸することはほとんどないが、暴風雨に影響されることがある。パナマ市民保護局(Sistema Nacional de Protección Civil, SINAPROC)は、11月2日にハリケーン・エータについての警報を発表した。

ハリケーン・エータの暴風雨は、パナマ全国に及んで、洪水、土砂災害により約3,500人に影響を及ぼし、約80人が避難した。さらに、35人の行方不明者、17人の死者が確認されている。政府は11月6日から救済活動を開始し、現場に7万トン以上の食料品等を輸送している。ハリケーン・エータによってチリキ県で史上最悪の被害が発生し、判事を含めてチリキ地方裁判所の職員は、隣のボカス・デル・トロ県に避難することとなった。

パナマの農業県のチリキ県から、隣のベラグアス県、エレラ県、コクレ県では400以上の牛に、米の栽培に料された約900ヘクタールの他、バナナ、ジャガイモ、レタス、キャベツ、ブロッコリー、玉ねぎの数百ヘクタールが影響され、損失は1,000万ドルを超えると予測されている。さらに、パナマ・スペシャル・コーヒー連合会(Asociación de Cafés Especiales de Panamá)は、ハリケーン・エータにより、コーヒー生産の15-20%が影響されたと述べている。

パナマ政府は緊急支援として1億ドルの救済支援金を充当し、農業界に1,200万ドルの支援金、保険金、ローンの計画を発表した。さらに米農家と交渉し、米の800万キンタルを購入することにした。

C.2021年度パナマ運河の予想

パナマ運河局は、2020年度の報告書を発表した。他の企業と異なり、法律によってパナマ運河の事業年後は、10月から翌年9月までとされている。2020年度の通航は2%減少し、予想された通航の4%を下回った。特に、5月と6月の通航は、前年同期比20%減少したことが明らかになった。

これに対して、バスケス局長は、短期的には通航の減少を予想しているが、海運界の長期的な傾向に集中するべきであると述べている。また、2021年度には通航の10%減少を予想していると明らかにした。さらに、新型コロナウイルスによる影響に対応するため、通航予約システムと水量管理システムの改正の他、パナマ運河庁職員等の検査用に3,000万ドルが充当されていると説明した。そして、2021年度の国庫への財政貢献は、17億3,600万ドルと予想されている。

パナマ政府は10月中旬に完全な経済再開を許可した。しかし、パナマ企業経営者協会(APEDE)によると、11月18日時点で、新型コロナウイルスの影響によって約8,000社が営業を再開できていないとは公表している。さらに、労働局は、11月12日時点で、約9万人の労働者が復帰していると発表した。しかし、9万人の労働者は、3月から政令によって停止されている労働契約の30%に過ぎない。労働法典は、政府が認容した不可抗力が発生した場合、労働契約の停止を規制している。労働契約の停止により、労働者の労働義務と使用者の賃金支払い義務も停止されるが労働契約は継続している。停止を認めた政令では、2021年1月に労働者の復帰義務が規定されているが、現時点では、不可能と思われているため、政令の有効期限の延長を求める声もある。さらに、様々な業界から新たな外出禁止命令の発令を批判する声が上がっている。また、不況の影響を防ぐまたは緩和するため、労働者を解雇しない会社に優遇税制を認めるべきという意見もある。

会計検査院の報告によると、2020年上半期ではパナマのGDPは、前年同期比約19%減少した。しかし、健康・福祉業は約9%(国立)と約4%(私立)成長した。11月24日にアメリカの格付け機関であるS&P グローバル・レィティングは、国債発行とGDP減少を根拠とし、パナマの信用格付けをBBB+からBBBにしたが、2021年には7%、2022年-2023年には5%の成長を予測している。

国庫への財政貢献
期間 金額
2000-2019(パナマ政府管理) 168億1800万ドル
1980-1999(アメリカ政府管理) 18億400万ドル
1914-1979(アメリカ政府管理) 7400万ドル

D. 経済指標

パナマ統計局(Instituto Nacional de Estadísticas, INEC)は、2020年1月-9月までに関して様々な経済指標の前年同期対比表を発表した。

経済指標 前年比
   
パナマ運河通航数 -8.7%
コンテナ取扱量 7.9%
交通機関の乗客数 (パナマ市)  
地下鉄 -61.5%
バス -54.2%
輸出(CIF対比) -10.4%
輸入(FOB対比) -40.4%
自動車販売(新車) -57.4%
建築(㎡対比) -64.1%
   
金融部門  
銀行資産 8.5%
銀行ローン -3.4%
銀行預金 11.2%
銀行流動性 50.7%
農業融資 5.7%
保険入会 -4.1%
   
娯楽  
宝くじ販売 -69.5%
ギャンブル(競馬、カジノ等) -75.9%
   
製造業  
-39.2%
屠畜  
牛(畜頭数) -3.9%
豚(畜頭数) -2.4%
鳥(KG) -11.8%

 

以上の経済指標は、ハリケーン・エータによって発生した災害を踏まえていないため、農業融資、輸出、屠畜への影響が反映されていない。また、屠畜に関しては、11月18日に、パナマと中国は、パナマ産の鶏肉輸出に関する協定を結んだ。2019年12月に、牛肉、豚肉および魚の輸出協定は既に締結された。

コルティソ政権は、食品の輸入制度の改正として、食品の輸入を担当しているパナマ食品局(Autoridad Panameña de Alimentos, AUPSA)の廃止を検討している。農業者や民間企業は、10年前からAUPSAに対して厳しい批判をしているが、今後の有様についてのコンセンサスは存在しない。