本書は2018年3月に東京の日仏会館で開催された国際シンポジウム「世界文学から見たフランス語圏カリブ海 -ネグリチュードから群島的思考へ」の記録集で、編者はフランス語圏文学者である早稲田大学名誉教授。編者のマルティニクの政治家にして詩人のエメ・セザールを研究対象にしているが、本シンポジウムではカリブ海を中心としたフランス語圏-クレオールの文学・文化研究を俯瞰した論集となっている。
エメ・セザールに代表されるネグリチュードからクレオール化理論、クレオール文学と多岐にわたるが、「カリブ海の食文化、トウガラシ・鱈・砂糖-ローカルとグローバルの間で」(尾関文太立教大学非常勤講師)、ハイチのヴードゥー儀式の録音を扱った「ハイチの複数の声」(渡邊美帆早稲田大学非常勤講師)、マルティニクの社会の窮状を映し出す音楽と詩学の関係を問題にした「痕跡からの想像 ―グリッサンの詩学とマルティニクの音楽」(工藤 晋翻訳家)、英語作家であるが仏領マルティニクの観察者であって後に日本に永住した小泉八雲=ラフカディオ・ハーンの足跡と評価を述べた「仏領西インド諸島から極東の日本列島へ」(西 成彦立命館大学教授)など分かり易い論考もある。
〔桜井 敏浩〕
(水声社 2020年3月 483頁 6,000円+税 ISBN978-4-8010-0481-8 )