連載パナマ・レポート8:2020年12月 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート8:2020年12月


連載パナマ・レポート⑦ (2020年12月分)

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)

I. 新型コロナウイルスの現状

12月28日時点で、パナマにおける新型コロナウィルスの感染者は231,357人、死亡者は3,840人、回復者は185,966人と確認された。12月24日には過去最多の3,413人の感染が確認された。政府は、新感染者の増加に伴って年末年始の外出禁止命令を発令した。12月24日19時から28日5時までと、12月31日19時から1月4日5時までのすべての外出、28日から31日の19時から5時までの夜間外出が禁止され、買物の外出は性別によって制限されている。さらに、2021年1月4日から14日まで、パナマ県、西パナマ県のみ外出禁止とされている。

保健省と社会保険庁は、医療制度崩壊の防止措置として、体育館、学校、スタジアム等の大規模施設で感染者の医療を行うように市区町村当局と協力している。さらに、中央区病院の駐車場は野外病院として利用されている。また、保健省は、1月に研修医制度を修了する約600人の医者が全国の病院で活動を始めると発表した。さらに、専門医不足の措置として、政府は、キューバ出身の600人の専門家を雇ったと発表した。
政府は12月5日に、新型コロナウイルスのワクチンの予防接種計画を発表し、2021年3月に製薬会社ファイザーのワクチン約45万投与量が届く予定であると明らかにした。パナマ製薬商品の輸入手続は、ラテンアメリカで最も厳しい審査の一つとして知られているが、政府は、法律の定める特別手段を利用し、ワクチンの輸入を円滑に行うと述べた。

第一ステージでは、ファイザーワクチンを、医療職員、国家安全にかかわる公務員、入院患者、または介護を受けている60歳以上の者が優先的に接種されることになっている。12歳未満、HIVの感染者、妊婦、および卵アレルギー反応の者は対象外とされている。

第二ステージでは、アストラゼネカ・ワクチンを約110万投与量、高齢者に接種されることが予定されている。第三ステージでは、ジョンソン・エンド・ジョンソン・ワクチンを先住民族、アクセスが困難な場所に住んでいる者。第四ステージでは、コバックスワクチンを、慢性疾患患者、そして、第五ステージでは、再度ファイザー・ワクチンを12歳以上の中高生や学生を対象に接種する。政府は、感染防止措置として予防接種は予約制で実施すると発表した。さらに、計画実施の準備として、政府は、全国を15地域に区別し、冷凍倉庫のような必要な設備を用意している。

パナマの医療専門家と民間部門の代表は、今後の措置について対立している。一方、医療専門家は、医療崩壊を防ぐため、14日間の完全外出禁止を求めているが、民間部門からの批判が上がっている。これに対して、様々な労働組合は、収入や食料が保障されれば、外出禁止命令を維持すると発表している。

II. 政治

A.デモ
12月17日、パナマ国会前で政府の新型コロナウイルス措置に対するデモが行われ、参加者の27人が逮捕された。特に既に支援を受けている者と同居している25歳以下の者を、経済的な支援である「Bono Solidario」の対象外とする決定は、ほとんどの学生が支援対象外となるため、パナマ大学の学生から批判する声が上がった。これに対して、国連は、デモが安全かつ平和的に行われるようにパナマ当局に人権の保護を求めている。また、パナマのオンブズマン局(Defensoría del Pueblo)は、警察官による暴力の可能性についての取り調べを開始した。

B.年金資金の引出
政府は、12月18日、新型コロナウイルスによって経済的な影響を受けた公務員および元公務員が公務員連帯年金資金制度から70%までの資金引出を認める法律を採用した。法律は、退職年齢になっていない約8万人の公務員、または元公務員を対象としている。申請者は、緊急事態宣言の解除から12ヶ月までの間に資金を引き出すこととなっている。

III. 経済

A.経済指標

統計局は、2020年12月22日に2020年の経済指定(仮)を発表した。9月から10月に行われた調査によると、2020年の失業率は、18.5%に上がり、前年同期比約11%増加し、2005年以降最高となっている。また、農業以外の経済活動において、非公式経済部門は、52%まで上がった。2005年以降のパナマ失業率は、次の通りである。

また、2020年の第三期GDPは、前年同期比20%減少したことが明らかになった。しかし、2020年第三期(前年同期比38%減少)と比べて、15%復帰している。分野によっての変動は、以下の通りである。


https://www.inec.gob.pa/publicaciones/Default3.aspx?ID_PUBLICACION=1035&ID_CATEGORIA=4&ID_SUBCATEGORIA=26 より。

農業、家畜、漁業は、パンデミックの影響をほとんど受けず、前年同期比5%増加して、農業商品等の輸出は、前年同期比15%増加している。しかし、11月の大型ハリケーン・エータの影響はまだ反映されていない。さらに、鉱山と採石場の輸出は、銅の輸出増加によって影響された。近年、パナマの採掘作業が増加し、今年10月までの銅輸出は前年同期比43%上がっている。銅の主な貿易相手国は、次の通りである。

新型コロナウイルスによってホテルの稼働率が減少している。パナマ観光局(Autoridad de Turismo de Panamá, ATP)は、1月から9月の観光客が前年同期比75%減少していると発表した。さらに、一人当たりの平均支出費用は、1日240ドル(2019年)から1日198ドル(2020年)となった。2020年1月にはホテルの客室稼働率は40%であったが、現在は5%となっている。 また、政府は、不動産賃貸の賃貸料延滞の対策として、貸主による明け渡し請求手続きを再開した。3月に新型コロナウイルス拡張防止措置の中、明け渡し禁止が採用された。しかし、経済的な影響を受けていないにもかかわらず家賃を払わない者が増加しているため、政府は、貸主が、借主の支払い能力を証明する場合、明け渡し請求を求めることができるとした。更に、政府は家賃弁済を担当する興信所の設立を検討している。

また、金融業界は新型コロナウイルスによる影響が少ない。特に、個人貯蓄(企業と個人)は、1か月あたり、前年同期比平均1.5%成長している。更に、第四期には、銀行流動性は63.3%となり、第一期から13%増加している。パナマ経済学者学会のモレノ会長は、パナマ人の貯金慣習を強調して、金融業界が健康的であると述べている。

B.労働契約停止の解除

政府は、12月15日に、労働契約再開に関する政令第229号を発行した。新型コロナウイルスに対する措置として、3月に労働契約は停止され、8月に停止期間は12月31日まで延期された。政令229号は、1月1日から段階的な再開を命令している。ただし、衛生理由で活動が禁止された企業は対象外とされている。しかし、民間部門から政府の計画に対して批判の声が上がっている。商工農会議所のレイグナジエル(Leignadier)会頭は、労働契約の再開が政府の判断ではなく、各企業の判断に託すべきと出張している。民間企業協議会の元会長セベロ・ソウサ氏は、民間企業では経済復帰について不安があり、政府の判断による労働者の復帰が企業によっては不可能というケースもあると強調している。

さらに、労働組合からの批判も上がっている。工事労働組合は、労働契約再開は、労働者に不利であると述べている。労働者協議会は、政令第299号は、あくまで労働者の復帰を命令するのみで、復帰の順番等は、企業の判断に託しているため、すべての労働者が復帰できる保証がないと述べている。

また、パナマ企業経営者連合会(Asociación Panameña de Ejecutivos de Empresas、 APEDE)は、雇用率の70%を占める零細中小企業向けの金融支援を求めている。12月17日に、コルティソ大統領は、税務法典改正および、年収50万ドル以下の零細中小企業についての特例税率を設ける法律を発布した。さらに、パナマ歳入総局(Dirección General de Ingresos、DGI)は、納付延滞に関する手続きの中止を発表した。しかし、所得税の申告等は、ネット上で行われるため対象外とされている。

IV.外交

A.違法麻薬取引に関して米国との協力

12月に、米国の様々な防衛関係の長官等は、パナマ政府と違法麻薬取引や防衛について対話するため、パナマを訪問した。12月7日に米国麻薬取締局のティモシー・シェイ局長(代理)は、パナマのウロア検察総長と、ピノ防衛大臣と面会し、パナマ政府の違法麻薬取引・組織犯罪に対する対策を認識し、今後両国の協力を強調した。さらに、12月10日、アメリカ南方軍のクレイグ・ファラー司令官は、防衛・違法麻薬取引関連措置についてパナマの外交関係者と対話した。12月15日には米国国土安全保障省のウルフ長官(代理)は、パナマ運河の防衛、ラテンアメリカにおける組織犯罪および違法移民問題についてパナマの政府と対話した。警察長の特殊部隊、国境保護庁(Servicio Nacional de Fronteras, SENAFRONT)と海事航空サービス(Servicio Nacional Aeronaval, SENAN)は、組織犯罪に対応するため、海事航空作戦地域センター(Centro Regional de Operaciones, CROAN)で共同活動を行うこととなった。米国政府、CROANに必要な訓練、および装備を提案する。

B.ベネズエラ総選挙

パナマ政府は、ベネズエラ総選挙を批判する米州機構の決議を支持した。パナマ政府は、ベネズエラの政治的な状況を踏まえ、選挙監視に参加せず、パナマ外務省も結果を承認していない。しかし、与党PRDの一部の幹部は、マドゥロ大統領と面会し、SNSで選挙の実施を認めたうえ、結果を承認した。パナマでは与党の幹部が、政府の政策を無視し、自ら動くことが滅多にない。幹部のコメントに対する批判の声があり、マルティネリ元大統領は、ベネズエラ国民に対して謝罪した。

さらに、ベネズエラ政府は、12月13日にパナマ発航空便の到着を禁止した。これに対して、パナマ政府は、12月14日ベネズエラ発航空便を同じ扱いにすることを決定した。パナマ航空会社のコパ航空は、ベネズエラへの払い戻しまた変更を発表した。

C.英国・南アフリカ共和国発の便の到着停止

パナマ政府は、新型コロナウイルスの変異種の拡張をもって、12月21日から英国および南アフリカ共和国から航空便の到着を禁止した。さらに、英国または南アフリカ共和国から入国する者は、病院で隔離されることとなった。