『カリブに生きる -文献から辿る小地域の人びとの豊かな遺産』 三石 庸子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『カリブに生きる -文献から辿る小地域の人びとの豊かな遺産』  三石 庸子 


本書は、西欧人によらずカリブの人びとが書き残した自伝、書簡、小説や詩などの文学作品等を通じて、西欧諸国に拠る奴隷制や植民地支配下での抑圧に苦しみ、今日に至るまで政治・経済的困難の中にあって抵抗の思想と活動を通じてカリブ地域の歴史や文化を伝えている実像を日本の読者の理解を深めることを目的としている。著者は米・カリブ文学を専門とする東洋大学社会学部教授。
カリブ海地域の異なる時代、異なる地域の7 人の生き方を年代順に取り上げ、重要な出来事や事象を考察する。グアドループ出身のアフリカ系混血で西欧教育を受け、貴族としてフランス革命を生きた18 世紀の音楽家で黒人部隊の指揮官、19 世紀に英国へ渡り自由を求めたバーミューダ出身の女奴隷、クリミア戦争で医療に貢献したがナイチンゲールには拒絶されたジャマイカ出身の看護師、キューバの1895 ~ 98 年の対スペイン第二次独立戦争に参加した元逃亡奴隷、ジャマイカ出身でハーレム・ルネサンスの時代に黒人民族主義の運動家、初の黒人共和国の革命的伝統を引き継ぎ、ハイチ文学を模索した独裁政権を倒す戦いに殉じたハイチのマルクス主義者、そしてクレオール語の地方語であるパピアメント語文化の継承と発展に尽力したキュラソーの詩人、画家、彫刻家、民族誌研究家、民話収集家について、英語のみならずフランス語、スペイン語、クレオール語などの文献の英訳にも当たって、先人達のカリブ人としての誇りと遺産を伝えようとしている。

〔桜井 敏浩〕

(東洋大学出版会発行・丸善出版発売 2020年6月 221頁 2,600円+税 ISBN978-4-908590-08-5 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020/21年冬号(No.1433)より〕