『古代マヤ文明 -栄華と滅亡の3000年』 鈴木 真太郎 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『古代マヤ文明 -栄華と滅亡の3000年』 鈴木 真太郎


これまで古代マヤ文明といえば必ず「神秘」や「謎の」が定冠詞のごとく付いてきたが、マヤ文字碑文の解読と考古学調査が進み、学問的にはかなり解明されてきた。

本書は序章でスペイン征服直後の16 世紀の受難と混沌のマヤ文明の研究史から説き始め、第1 章で著者の専門である考古人骨研究の理論的枠組みであるバイオアーキオロジー(骨考古学)という比較的新しい考古学手法により、遺跡の住まいの床下に埋葬された古人骨の研究から新たな可能性を論じ、第2 章と3 章では古代マヤ文明圏の南の周縁地域の概要、移民流動と多民族性、安定同位体を用いた移民研究の成果を、第4 章ではその北で栄えたカミナルフェに在ってスペイン軍と対峙した最後のマヤ系諸王国の歴史を、第5 章ではマヤ文明の創生から現在に至る数千年の文明を画期的なトウモロコシ調理法で支えた食料事情を、第6 章でさらに北のマヤ文明の中核だったペテン地域で多く発見されたマヤ文字を刻んだ石碑の解読により判ってきた王朝史を、第7 章では戦争が無かったといわれてきたマヤ文明にも古人骨の研究により明らかになった古代マヤの戦争観を、第8 章はさらに北の灼熱のユカタン半島各地の歴史、国際都市チチェン・イツァの誕生とスペイン軍の襲来による顛末を描き、第9 章でマヤ全土で見られる文化的肉体加工・美容整形の伝統の起源と歴史的・社会的な意味を説き明かしている。

著者は、上智大学卒業後ユカタン大学とメキシコ国立自治大学で修士・博士課程を修了、ホンジュラスのコパン遺跡の発掘・保全業務はじめ16 年間現地で暮らしたこともある。現在は岡山大学講師。

〔桜井 敏浩〕

(中央公論新社(中公新書)2020年12月 304頁 960円+税 ISBN978-4-12-102623-1 ) 
〔『ラテンアメリカ時報』 2020/21年冬号(No.1433)より〕