エルサルバドルで長年続いた内戦では75,000 人の死者と100 万人近い亡命者を出したと言われ、国内産業は崩壊し、終息後武装解除され復員した政府軍・ゲリラの一部が仕事を得られず犯罪に奔り治安が悪化して、内戦時を上回る被害者を出している。左右を問わない政治の腐敗、ギャングによる組織犯罪が蔓延し、生命の価値は軽んじられたエルサルバドルのありとあらゆる物事を罵倒し尽くした本書の著者は、1997 年の執筆直後から脅迫を受けた。
著者は、エルサルバドル人の父、ホンジュラス人の母の間にホンジュラスで生まれ、エルサルバドルで1992 年の内戦終結直後に政治勢力諸派、左派に批判的な週刊新聞の編集者であったが、脅迫を受けてグアテマラ、メキシコ、スペインを転々としながらジャーナリストとして生計を立て、現在はメキシコに拠点を置いている。ほかにも内戦をはじめエルサルバドルの暴力の記憶や家族をめぐる精神的苦闘をテーマにした長短編(例えば『崩壊』寺尾隆吉訳 国書刊行会 2009 年https://latin-america.jp/archives/5745 )を多数書いている。この出版社からは、本書を含む27 冊のラテンアメリカ文学翻訳書シリーズである「フィクションのエル・ドラード」が刊行されている。
〔桜井 敏浩〕
(浜田和範訳 水声社 2020年6月 195頁 2,200円+税 ISBN978-4-8010-0503-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020/21年冬号(No.1433)より〕