著者は1963 年外務省入省、竹下登総理大臣秘書官、中南米局長、駐メキシコ・韓国大使等を歴任した。メキシコ大使時の1996年12月に発生し翌年4月にペルー軍特殊部隊の突入で解決した在ペルー日本大使公邸占拠事件で日本政府現地対策本部に赴き、立て籠もったゲリラ組織と折衝する国際保証人委員会にわが国政府を代表してオブザーバーとして参加した。
本書は、1987 年から2003 年の間に著者が関わった外交の回想を、オーラル・ヒストリーの手法に基づき、服部中央大学教授が総括して若月北海学院大学教授、庄司三重大学特任講師の3 人の外交研究者が編集したものである。著者が直接関与した外交案件は中南米、なかんずくペルー関係であった。1992 年4 月のフジモリ大統領による憲法停止措置、すなわちauto-golpe(自主クーデタ)に因る国際的孤立後の国際社会への復帰のための外交支援が語られているが、中でも大使公邸占拠事件での人質解放までの息をのむフジモリ政権・MRTA 立て籠もりゲリラグループ、保証人委員会との交渉の経緯、特殊部隊の地下秘密トンネルを使っての強行突入に至るまで、渦中にあって携わった著者ならではの回想と編者たちの対談は、日本の中南米外交の貴重な記録である。
〔桜井 敏浩〕
(服部龍二/若月秀和/庄司貴由編 吉田書店 2020年10月 403頁 3,800円+税 ISBN978-4-905497-90-5 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020/21年冬号(No.1433)より〕