連載エッセイ92:硯田一弘 「南米現地レポート」その18 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ92:硯田一弘 「南米現地レポート」その18


連載エッセイ89

南米現地レポート その18(2021年2月分)

執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役)

「2月1日発」

昨年後半は渇水による河川の水位低下や作物への影響に苦しんだパラグアイですが、今年に入って大雨が続いており、一転して至る所で冠水の被害が発生しています。

これは公共工事省MOPCが手掛ける動植物公園脇の高架工事現場で噴出した雨水と思いきや、先ほど実際に現場に行って見ましたが雨が止んでもgeiser(間欠泉)は勢いを減じていなかったので、水道管の破裂が発生したのかも知れません。

パラグアイ川の水位もこの一週間で一気に上昇して交通の運航には適切なレベルに回復しています。

水の災難だけでなく、今日未明には国営石油会社Petroparのアルコールタンクから火災が発生、消防車100台以上が出動して消火に当たった模様ですが、正に水攻め火攻めの週末となったアスンシオンでした。

ところで、先週お伝えした銀行合併のニュースですが、BBVA銀行を吸収した新生GNB銀行は預金量・貸付額共にパラグアイ最大の銀行にのし上がったこと、記事を読んだ方からご指摘を受けました。訂正してお詫びします。

「2月8日発」

今週はブラジルから出張で来られた気象レーダーの専門家を案内して、久しぶりに南部アルゼンチンとの国境の町Encarnacionに行ってきました。

アスンシオン近郊のVilletaを通過して暫くすると猛烈な土砂降りに遭遇、道路の至る所で冠水していて大変でしたが、何とか無事に到着しました。↑途中で遭遇した自動車の水没。側道の泥にハマって動けなくなった間に急激に水位が上がってしまったようです。しかし今回走って視察した穀倉地帯は1月に入って降り続いた雨の影響で相当なダメージを受けていました。

パラグアイの大豆は9-10月頃に播種して2-3月に収穫するのですが、今季は播種の時期に大旱魃で成長が進まず、なんとか育った作物は1月以降の長雨の影響を受けて、ご覧の通り腐ったりサヤの中で発芽したりと、相当悪い品質に仕上がっています。たまたま今朝のNHKスペシャルで食糧不足が発生するリスクを報じる番組を流していましたが、気候変動が常態化すると、穀物の作柄にも大きな影響が生じます。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/P569N4NY6G/

因みに穀物や食料の相場は生産地と消費地の双方に因果関係があって上がったり下がったりするわけですが、下のグラフからも判る通り、大豆やトウモロコシは上昇傾向にあります。https://www.agrinews.co.jp/p53236.html

パラグアイにとっての主産物である穀物の相場が上昇すること自体は良いことなのですが、悪天候によって生産量が減少する為に農家が恩恵に預かる機会は多くないとの予測もされています。大豆やトウモロコシが値上がりすると、飼料が上がって肉の値段も上がることになりますから、飽食を享受してきた先進国の消費者にとっても大変な問題です。

気候変動対策の為には世界的な気象情報の把握が益々重要になってきますし、食糧の生産基地と言えるパラグアイと日本との関係強化も多くの人達に認識頂きたい重要テーマです。NHK特集でも力説されていましたが、現在の世界の収穫量は適切な配分さえ行われれば飢餓は生じないものであり、飢餓の無い世界を作るために出来る限りの努力を続ける意識改革が求められています。

「2月15日発」

この5年間ずっとLa Nacion紙を購読してきましたが、先月たまたま間違ってabc color紙が配達され、物理的な紙の質や印刷技術の違いが気になり、今月から慣れたLN紙からabc紙に切り替えました。パラグアイの主要紙は電子版も充実しているので、紙版をGs.6000(約90円)出して購読するのは無駄との考え方もありますが、新聞は紙で読むことに意義があると感じております。因みにabc紙は日曜版はオマケ雑誌付でGs.10,000=約150円。La Nacion紙は全ページ電子版で無料で読むことができます。

今日は先ず、そのオマケ雑誌の記事を御紹介します。題してEnigmatico brote esmeralda (不思議なエメラルドの蕾)
https://www.abc.com.py/edicion-impresa/suplementos/abc-revista/2021/02/14/enigmatico-brote-esmeralda/

以前も御紹介しましたが、パラグアイ名物のオオオニバス(Victoria regia, グアラニ語でyacaré yrupe)が見ごろとなっているという話。オオオニバスの自生区があるアスンシオン近郊のLimpio市を流れるParaguay川上流域Piquete Cuéで観られる素晴らしい群生の様子を報じた記事です。ただ、La Nacion紙にも少し前に掲載された記事によると、オオオニバスは絶滅危惧種となっていて、喫緊の保護政策が必要とも書かれています。
https://www.lanacion.com.py/pais/2021/01/23/yacare-yrupe-aflora-especie-en-peligro-de-extincion-e-instan-a-protegerla/

同じハスの仲間である台湾蓮がアスンシオン空港近くのÑu Guasu公園で美しい花を咲かせているとの記事も見つけ、昨日行ってきました。Parque Ñu Guasuというのは25haの広大な面積を持ち、一周5㎞の歩道が整備された公園ですが、その中に2006年に台湾政府が整備した台湾庭園があり、ここで蓮の花の群生を観ることができます。昨日土曜日の午後は大勢の歩行者やランナーが出向いており、蓮の池もさぞかし凄い人出と思いきや、近くに寄って撮影している人の姿はなく、遠くから花の様子を見ながら黙々と歩くか走る人達ばかりで些か拍子抜けしました。

前述のオオオニバス群生地も、観光用の手漕ぎ船が出ているものの、日本の観光地の様な賑わいがある訳ではなく、観光地としてテコ入れをすれば、資源保護にも経済開発にもつながるのに、モッタイないと感じる次第です。

こういう可能性を秘めた観光地候補がパラグアイ国内には沢山ありますし、主要産業である食糧資源の付加価値化についても殆ど着手されていないのがパラグアイの現状。日本の知恵と技術を使ってより良い環境整備が出来ると良いと思います。一方、昨日再び東北地方を地震が襲いましたが、緊急時の食糧の確保こそは日本にとっての最重要課題。

御釈迦様が歩いた蓮池の畔から垂らした蜘蛛の糸の如く、パラグアイと日本の更なる関係強化が出来れば両国にとって素晴らしい将来像が描けます。どちらが極楽でどちらが地獄ということなく、相互に助け合うことこそが、両国を極楽に導く糸であり、相互発展の蕾になる筈です。

「2月22日発」

昨日はパラグアイ初の衛星が打ち上げられた記念すべき日となりました。

グアラニサットと名付けられたこの衛星、打ち上げロケットは米国NASAのモノですが、衛星ユニットは日本の九州工業大学の協力を得て製造された一辺約10㎝の小型立方体。これを使って南米諸国で問題となっているサシガメ由来の伝染病であるシャーガス病の対策に必要なデータ収集を行うそうです。

南米ではベネズエラで2008年に初の衛星を中国の協力を得て打ち上げており、それより十年以上経っているものの、日本の協力によって実現したこの衛星がパラグアイのみならず南米諸国の生活改善に寄与することを期待されます。

今週日本では30年ぶりに株価が3万円を超えましたが、為替レートは105円/$前後のもみあい状態となっています。一方、年末にGs.7000/$と最安値を付けたパラグアイの通貨Guaraniですが、年が明けると反転して、ロケットで打ち上げられた衛星同様に現在Gs.6600/$程度まで値を戻すグアラニ高の展開となっています。

合衆国の政権が共和党から民主党に替わり、ドル安の展開が予想されていたので、当然の成り行きとの観方もありますが、ブラジル・レアルやアルゼンチン・ペソの相場はさほど変わっていないので、パラグアイ独自の動きと言えます。

ブラジル・レアルとパラグアイ・グアラニの関係は、過去10年間で大幅なグアラニ高になっており、相対的に安価な労働力を売り物に、加工貿易制度マキラドーラを積極的に推進してきたパラグアイ政府にとっては、痛し痒しといった展開と言えます。

アルゼンチン・ペソも持続的値下がり展開です。従ってパラグアイ通貨は周辺国の中では相対的に強いグアラニといったイメージになり、輸出競争力ではこれまで以上に強さを見せる必要に迫られています。しかし、パラグアイ通貨が強い背景には、パラグアイの主要輸出品目である大豆の相場が急騰していることと強く関係しています。

大豆の収穫期を迎えた今、悪天候による作柄不良といった事情はあるものの、ドル建てで販売された大豆の販売代金をグアラニに換金する需要が発生しているので、生じているグアラニ高というのが実態。勿論、より多くの大豆を生産しているブラジルやアルゼンチンでも同じ効果はあるものの、総輸出額に占める大豆の比率が圧倒的に高いパラグアイならではの特殊効果とも言えるわけです。

しかし、無事に打ち上げられた衛星同様に、これからはパラグアイ経済も順調な周回軌道に乗って益々繁栄することが期待されますので引き続きご注目ください。