連載エッセイ97:斎藤裕之「ブラジルで初開催!「Semana Do Curry」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ97:斎藤裕之「ブラジルで初開催!「Semana Do Curry」


連載エッセイ94

ブラジルで初開催!「Semana Do Curry」

執筆者:斎藤裕之(ジェトロ・サンパウロ事務所 貿易担当ディレクター)

1.なぜ今カレーなのか

 
「カレーはブラジルで売れているのか?」、「辛いのは好まない慣習では?」、「どれだけの店舗がイベント参加できるのか?」、なぜ、今カレーなのかと疑問に感じるのは当然です。様々な疑問や難題を乗り越え、コロナ渦の中、このイベントをやり遂げた今は、日系コミュニティ200万人(推定)といわれるブラジルで、日本の絆を実感する取組ができたと感じています。

 独立行政法人日本貿易振興機構(以下、「JETRO」という)は、世界的パンデミックの中でも、海外での日本の商流を維持、拡大するための、各種取組を行っています。その中で、日本の農林水産省のイニシアチブの基に組成された日本産食材の商流の維持・強化・拡大のための補正予算を活用し、ブラジルで日本食材を取り扱う小売店やレストラン(※日本産食材サポーター店舗(以降、「サポ店」という)を応援するプロジェクトを実施いたしました。

※日本産食材サポーター店舗(添付①)
日本国外にある、日本産食材や酒類を使用/販売している、レストラン/小売り店を農林水産省のガイドラインにより運営されている日本産食材サポーター店認定制度により、認定された店舗。https://www.jetro.go.jp/agriportal/supporter/

 それが2021年1月22日~28日に開催した「Semana Do Curry」(カレーweek)です。この取組はコロナ渦の中、苦労されているサポ店の売上拡大、さらには日本産食材の普及に貢献するために実施されたものです。

 この取り組みを実施するキッカケを作ってくださったのが、DAISOブラジルの大野社長です。私がブラジルに赴任したのは、2020年9月。ブラジルではコロナが収まることもなく、世界的にもブラジルは感染者数の世界ランカーとして上位を維持している頃ですが、このような状況下でも今後の市場に一石投じていこうという前向きな話がありました。「ブラジルにあるサポ店を応援したい」という思いから2020年11月に大野社長と面談した際に、カレーをキッカケに応援することは可能ではないかとの提案を頂きました。

 そもそもブラジルでカレーは人気なのか、どこでどの価格帯で買えるのかなど、私が疑問を持つ中、大野社長より(添付②)売上では、2019年に34万食(前年度比1.7倍)、2020年はコロナの影響で輸入をストップさせている時期があったが、翌年度は50万食を目指すといったことを伺いました。この事から他の輸入業者からも、2020年は輸入が追い付かず小売店からカレーのレトルトや固形ルーの在庫が足りないといった苦情がでたほどで、次回の輸入時には通常の倍の数を発注したとの同様の人気を伺える話がありました。

 また、いったい何故、カレーが受け入れられるのでしょうか、ブラジルの食生活を聞いたところ、主食の一つが米(ごはん)であること、そして、米にフェイジョン(豆)(※添付③)をかける食べ方が主流であることが、カレーの食べ方に親和性がある点です。また、ブラジルでポピュラーな料理であるピッカジーニョ(人参、ジャガイモ、玉ねぎ、ひき肉、そして味付けがトマトとニンニク)の味付けをカレーと替えるだけで簡単にブラジル料理から日本料理に生まれ替わる点など、ブラジル国民に浸透しやすい料理であったことが理由と考えられます。
 

 また、ブラジルでは以前より日本食が普及していましたが、近年ラーメンブームが起こり、ラーメン店舗が増えるなど、その他の日本食への関心も高まってきていると言えます。
 
 さらに、日本に出稼ぎに行った日系ブラジル人が日本における日本食の味を知って戻ってくることで、その方が手掛ける日本食を提供する店舗のクオリティも上がってきています。日本食の味を知り、日本食レストランに通うブラジル人も増えてきています。そういった環境がこの機会(取組)の後押しとなったと言えます。

 このようなブラジル市場の状況や環境から、JETROでは日本産食材の普及や、商流の維持・拡大に向けて、「カレー」を一つのテーマとしたイベント開催に舵を切りました。

2.在ブラジル政府機関、及び政府関係機関との連携

 イベントを開催するにあたり、キッカケを与えてくださった大野社長や、カレーのレトルト、固形ルーなどを輸入する業者(以降、「インポーター」という)と取組の骨格を形成していくとともに、100店舗を超えるサポ店への取組に対する参画への声掛けを実施してまいりました。

 初めての試みであり、ブラジルでカレーイベントをするにはタイミングも重要と考えていたところ、日本では、社団法人全国学校栄養士協議会が制定した「カレーの日」が1月22日に設けられていることを知りました。ブラジルでこの日を起点として、1月22日からの1週間をカレーWEEKとして「Semana Do Curry」を開催することを決定しました。

 一方、時期は決まったものの、残り2カ月程度の期間の中、100店舗を超える参加店舗と協力して、最大限の普及を行うには、準備期間があまりにも短いと感じました。そこで、JETROとしては、このイベントの効果を最大限発揮するため、政府機関や政府関係機関の力も借りて「オールジャパン」での取組を実施していこうと考えました。

 まずは、在ブラジル日本国大使館、そして在サンパウロ日本国総領事館との面談を行い、この取組について説明をしたところ、是非一緒に盛り上げていこうという運びとなりました。ここから協力機関が増え、国際交流基金サンパウロ事務所や、Japan House São Pauloの賛同も得られ、様々な広報活動に協力頂きました。

 オールジャパン(協力機関)の取組としては、例えば、在ブラジル日本国大使館では山田彰特命全権大使がブラジリアにあるサポ店を訪問し、サポ店を紹介する動画、そして大使公邸シェフの野口氏が家庭で簡単に作れるカレーの作り方を紹介する動画をイベント期間中にSNS(6万以上のフォロワー)で公開いただきました。また在サンパウロ日本国総領事館では総領事がサポ店へ訪問するなどのトップセールスを実施いただいた他、在リオデジャネイロ総領事館でも、インフルエンサーを用いたカレーの紹介、在クリチバ総領事館でも店舗の裾野拡大に向けて尽力いただきました。国際交流基金ではブラジルに馴染みやすい、手に入りやすい食材としてスパイスを活用したドライカレーの動画を公開するなど、様々な広報活動が実施頂きました。

 全日本カレー工業協同組合からも協力を頂き、カレーとは何か、日本ではカレーは国民食といった情報も含め、1月8日以降カレーのレシピをSNS上で投稿することで、カレーがよりブラジルに浸透するよう努めました。また、この取り組みを機に「サポ店マップ」を構築し、どこでカレー及び関係の商品が手に入れるのか、どこでカレーが食べられるのか、そしてサポ店の存在をPRすることを行ってきました。

 さらに、サポ店においても、自身のレストランで提供するカレーを紹介することはもちろん、この機会をとらえ、カレーとその他の商品を組み合わせたコラボ企画を行ったり、カレーとは何かを宣伝するような店舗も出てきました。

 政府や政府関係機関だけでなく、サポ店含め、本当の意味でのオールジャパンの枠組みでの取組となったのではないかと思っています。

3.ブラジルでイベントを行う難しさ

 
12月にイベントの骨格、そして関係機関との協力も得ましたが、ここで一つ課題がありました。ブラジル初心者の私としては周囲の方から聞いた以上に驚いたブラジルでの休暇取得。日本では年末年始はありますが、ブラジルでは12月中旬以降、クリスマス休暇も含め、多くの方が約1か月近くの休暇を取得する慣習がありました。

 この休暇取得により、多くの業務に影響が出ました。例えば、その一つがイベントに必要な広報宣伝素材であるパンフレットやポスターの配送手続きです。そもそもブラジルは日本に比べ国土が22.5倍、人口2億人のスケールの大きさ。輸送網も発達しているが、今回の取組に参画するサポ店はブラジリア、リオデジャネイロの他、ベレン、クリチバなど、サンパウロ州以外の各地域にまたがり、大規模なものとなっています。この配送手続きへの影響は大きく、配送業者との調整は難しいものでした。しかしながら、配送手続きに関して、協力したいとの意向から、印刷会社の方も自ら車を手配(レンタル)して人海戦術での配送を行うといった通常は行わない対応で苦難を払いのけてくれました。ブラジルならではのアミーゴ文化なのか、こういった柔軟な対応により、広報宣伝素材はイベント開始前に各店舗の手に届けることができました。

4.イベント開催、今後への期待

 
たくさんの協力を得て、遂に1月22日を迎えることになりました。我々の想定を超えて、120を超えるサポ店がこのイベントに参画しました。サポ店は世界各国にありますが、このイベントを機にブラジルでは、サポ店の登録が150を超え、世界9位(※世界1位は香港で1000以上の登録数)の日本産食材ネットワークとなりました。

 これらの参画してくれたサポ店に対して、期間中に様々な形でSNSでの広報を実施いたしました。(添付④)その他にもインフルエンサーの協力もあり、多くのブラジル国民に対して日本産食材をPRできたのではないかと考えています。

https://www.instagram.com/jetro_saopaulo/tagged/

 参加店舗からは、多くの店舗で売上が5割増加、あるいは売上が2倍になったなどの声を頂きましたが、反面、売上に結びつかなかった店舗もあります。また、このような取組を継続すべきといった声や、さらには日本酒の日などの取組を実施すべきではないかとの提案まで頂くことができました。輸入業者からも今回の取組を契機に新規の取引先が増えたとのコメントも頂きました。このように売上による成果もある中、今後の継続や、他にも今後の取組への前向きなコメントも頂いております。

 この取組を契機とした、在ブラジル日本国大使館、在サンパウロ日本国総領事館、国際交流基金サンパウロ事務所、ジャパンハウスなどとの連携においては、このような取組を通じて、強固な関係を構築できたものと感じている他、今後もブラジルへの日本産食材の普及に大きな期待を持つことができたのではないかと感じています。

 今後も政府関係機関と連携していくことで、最大限の普及効果をあげていくこと、そして、インポーターやサポ店との協力により、ブラジルでの日本産食材のファンを増やしていけたらと考えています。(添付⑤)