連載パナマ・レポート10:2021年2月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート10:2021年2月分


連載パナマ・レポート10: ルベン・ロドリゲス 2021年2月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I. 新型コロナウイルスの現状

2月24日時点で、パナマにおける新型コロナウィルスの感染者は340,445人、死亡者は5,831人、回復者は325,491人、初めての再感染者も確認された。1月上旬から感染者数は減少傾向にあり、1月5日に過去最多3,540人から2月20日には689人で、6週間連続RTは1.00を下回っている。保健省は感染者数の減少をもって2月22日からパナマ県と西パナマ県のジム、スーパーのような企業の再開を許可し、3月6日から全国の映画館の再開と週末の外出禁止命令を解除すると明らかにした。また、政府は国道での無作為抽出PCR検査の実施も発表した。

2月17日に約6万8千回分を運んだファイザーワクチン第2便が到着し、2月24日に、更に7万7千回分の到着が予定されている。2月20日時点で4万5千回分が提供された。政府は12月上旬にファイザーの他、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、コバックスのワクチンを利用し、5ステージに分ける接種計画を発表した。[1]なお、保健省は回復した者にもワクチン接種を行うと述べている。今後の接種は、身分証明書番号順に行われる。

また、2月26日に約2400万ドルで更にファイザーワクチン200万回分を購入することが分かった。保健省は、追加ワクチンを16歳以上18歳未満の者に提供すると発表した。さらに、パナマ政府はロシア産ワクチンを取得するため、ロシア政府との交渉を開始した。スクレ(Sucre)保険相は、既に接種を受けた国民に防止対策を怠らないように要請している。政府によって計画通りワクチン接種が行われた場合、10月に集団免疫が達成できると予測されている。

また、保健省と技術発展局が接触確認アプリを提供することがわかった。アプリの名前はPortégete Panamáとされ、GoogleとAppleとの協力で開発された。パナマ国民、外国人を問わず、パナマ居住者がダウンロードできる。アプリは2メートル以内で10分以上接触があった者同士をBluetoothで接触者として認識し、陽性結果があった場合自動的に通知する。さらに、パナマ政府は国際航空運送協会(IATA)の提供するワクチン接種証明や陰性証明をアプリで管理するIATAトラベルパスを採用すると発表した。

II.政治

1) 憲法改正の署名募集規則

 選挙裁判所は、2月24日の政令によって、憲法改正プロセス開始に必要な署名募集の規則を決定した。パナマ憲法314条では、国会、政府、または前年12月31日時点選挙権を持つ国民の20%で憲法改正を目的する憲法制定議会(Asamblea Constituyente)の設立を求めることができると規定している。ただ、憲法上では、国会および政府についての手続きが明記されているが、国民の署名募集手続きが定められていない。2021年では551,564人の署名が必要とされている。

署名募集期間は、6ヶ月とされ、必要な人数が署名すれば、憲法制定議会の設立プロセスが始まる。憲法制定議会は、比例代表制の原則に基づくすべての県と先住民領域を代表する60人によって構成され、政党また無所属による候補は認められている。また、憲法制定議会は、設立してから6ヶ月以上9ヶ月以下の期間で新たな憲法提案を完成させ、国民投票の過半数を賛成しなければならない。

 パナマの110年以上の歴史で4つの憲法(1903年、1941年、1946年、1972年)が採用されたことがある。1972年の憲法は、独裁政権時代に、憲法制定議会ではなく、地方行政区代表者議会(Asamblea Nacional de Representantes de Corregimiento)によって作成され、1978年、1983年、1993年、1994年、2004年に改正された。

2) 税金納付期限延長

 政府は、2021年2月15日に、2020年12月31日納付期限の所得税等遅延税の支払期限を、2021年6月31日までとし、遅延税の85%までの免除に関する法案を国会に提案することが判明した。さらに、同法案では、決定済みの支払協定は自動的に延長される。

3) ウヨア(Ulloa)検事総長の電撃辞任

 2月24日に、ウヨア(Ulloa)検事総長は、3月1日をもって辞任すると突然発表した。検察庁のサイトやSNSで記載されたコルティソ大統領宛の辞任届には、検事総長としての試練、社会からの批判、その他の問題について述べているが具体的な辞任理由が示されていない。ウヨア検事総長は、2020年2月にポルセル前検事総長の辞任後に任命され、任期は2024年までであった。辞任が確定されれば、コルティソ大統領が、新たな総長を任命するまで、カバジェロ(Caballero)副検事総長が、検事総長として務める予定となっている。電撃辞任に対して、説明責任を求める声が上がっている。

III.経済

1) 経済状況

 労働局は、2月上旬時点、約11万1千の労働者が復帰したと発表した。政府は3月上旬に様々な移動や企業に対する制限を解除する予定と発表した。政府が、感染防止対策として打ち出した2020年3月に労働局の政令によって、約28万の労働契約が停止された。また、政府は国内観光を促進する法案第487号によって、新たな休日の追加と割増料金を検討している。これに対して、民間企業協議会(Consejo Nacional de la Empresa Privada)は、法案に反対し、パナマには11日間の休日があるため、振替日の法律を再発布すべきと主張している。

 また、テレワーク式とオンライン授業の影響によって、2020年度の電気通信業界利益が前年同期比6.18%増の11億2100万ドルまで上昇した。その内、携帯電話業界は、54%を占めている。パナマでは、400万人の人口に対して、携帯電話の契約は、580万を超え、その内、85%プリペイド契約である。

 2020年に、企業の破産と実店舗の閉鎖に対して、商工省(Ministerio de Comercio e Industrias, MICI)は、3万5千のオンライン企業に営業開始を許可した。新たに設立された会社の中では、洋服販売と出前のオンライン企業が多い。また、新型コロナウイルスの影響によってMICIは、電子申請を推進させ、電子申請による営業許可の更新は、70%から99%に上がったと明らかにした。2月上旬時点で、パナマ全国においては50万の営業許可が与えられた。うちパナマ県が27万、チリキ県が5万7千を占めている。

 さらに、政府が、内閣決定によって5つの新たな自由貿易地域を創設すると決定した。これらの自由貿易地域は、パナマ県、チリキ県、ヘレラ県に置かれ、2100万ドルの投資で、1万人の雇用を創出する予測とされている。特に、パナマ県の農工業の自由貿易地域は、パナマの農業界を維持する目的で設立される。バルデラマ農業発展相は、2021年2月下旬時点で、牛肉、パインアップル、メロン、スイカの輸出が伸びていると述べた。また、2020年には、国立農業発展銀行の農業ローンが、6700万ドルまで伸び、前年同期比21%1100万ドルの増加を示した。

2) パナマ首都圏都市交通の延長

2月9日に、会計検査院(Contraloria General de la Nación)は、パナマ県と西パナマ県をつなぐパナマ首都圏都市交通3号線(約25億ドル)の建設契約を認可し、2月22日、発令した。第1号線と第2号線とは異なり、第3号線は、モノレール方式で、完成までに54ヶ月がかかると予測されている。従来の計画では、第3号線はパナマ運河を渡る橋を建設する予定であったが、昨年、政府が、橋の計画についていくかの問題点を指摘し、トンネルの建設も検討することになった。2月15日にサボンジェ(Sabonge)公共事業相は、みずほ銀行と橋の融資を交渉していると述べた。一方メトロ局のオルテガ局長は、2月21日、トンネルの建設については、3600万ドルの経費で、64か月で完成され、橋より400メートル短くなると明らかにした。政府は第3号線の建設によって、約50万人に利用されると予測している。

 第3号線の金融には、日本政府が、パナマに25億6千万ドルのローンを提供した。在パナマ脇崇日本大使によると、中南米向けで過去最大規模のローンであると述べている。さらに、第3号線のモノレール車両や様々なシステムには、日立製作所と三菱商事の技術が利用される。

 さらに、パナマ・メトロ局は、2月20日時点で、地下鉄第2号線のトクメン国際空港までの延長が67%進んでいると発表した。第2号線の延長は、約9千万ドルの投資で、2021年の後半に完成され、パナマ技術専門学校の学生と観光客に利用されるものと予定されている。 

3) 国債

 2020年9月時点で、パナマの公債は、前年同期比90億ドル増、390億ドルに達したことが明らかになった。[2]360億ドルの内訳は、国内保有70億ドル、海外保有310億ドルとされている。 2020年12月から2021年1月の期間で、公債は約19億ドル増加した。また、政府が、2月上旬には、2011年に発行された日本向けのサムライ国債(Bono Samurai)を償還した。サムライ国債は、パナマ国債の中、唯一のドル以外の通貨で発行された証券であった。バレーラ政権は、中国向けのパンダ国債(Bono Panda)の発行を検討したが、2021年2月時点で実行されていない。さらに、2月20日に、政府は、発行済みの2032年と2060年期限の国債についての再発行し、24億5千万億ドルの資金を取得できた。

アメリカの格付け機関であるフィッチ・レーティングスは、新型コロナウイルスによって、歳入の減少、および国債の増加を理由とし、パナマの信用格付をBBBからBBB-にした。フィッチ・レーティングスは、政府の措置は、2021年以降、経済復興につながるかどうかについて疑問があると指摘している。
  

IV.外交

1) 違法麻薬取引に関して米国との協力

 パナマと米国は、違法麻薬取引を防ぐ措置を強化することを明らかにした。2020年12月に、パナマ政府は、米国政府が必要な訓練、および装備を提案する海事航空作戦地域センター(Centro Regional de Operaciones, CROAN)で共同活動を行うこととなったと発表した。そして、海事共同隊(Fuerza Maritima Conjunta)も設立されたことが判明した。協定のもとでは、パナマ政府が両機関を管理し、米国がサポート役を担うとされている。

 しかし、米国との協力協定は、新たな基地を設立することになるので、パナマ運河の返還を決めた、1977年のトリホス・カーター条約を違反するという声もある。トリホス・カーター条約の下では、パナマにおける防衛、軍隊、および軍基地の管理はパナマ政府に限定されていると規定されている。これに対して、パナマ政府が、CROANは軍基地に当たらず、米国軍の兵士もいないと発表した。

2) 租税回避地のブラックリストに追加
 EUがパナマを租税回避地のブラックリストへの追加を取り消さないことが2月22日に判明した。2020年2月上旬にはブラックリストの検討を発表し、5月上旬に決定し、2021年10月にブラックリストの更新がなされる予定である。パナマ政府が、2016年以降、脱税を防ぐため国内法を国際基準に合わせ、121か国と税務情報交換協定を結んだため、ブラックリストからの取り消しを予見した。経済財政省の取材に対して、経済協力開発機構 (OECD)のPascal Saint-Amans租税センター局長は、パナマの協力を認め、ブラックリストへの追加は一時的であると確信していると述べた。

3) パナマーベネズエラ関係
パナマ政府が、2月4日をもって、グアイド氏に任命されたファビイ・ラザヴァラセ氏の大使としての信任状を認めないと発表した。ラザヴァラセ氏は、2019年3月にバレーラ政権に信任状を提出し、駐パナマ大使として就任した。パナマ政府は、ベネズエラ総選挙を批判する米州機構の決議を支持し、2020年12月の選挙結果を承認していないが、与党PRDの一部の幹部は、マドゥロ大統領と面会し、SNSで選挙の実施を認めたうえ、結果を承認した。

1. 接種計画の内容については、連載パナマ・レポート⑧を参照。
2. パナマ国債の傾向について、連載パナマ・レポート⑤を参照。