連載レポート58:桜井悌司 「スペイン、ラテンアメリカからの観光客の推移と日本の 受け入れ態勢」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート58:桜井悌司 「スペイン、ラテンアメリカからの観光客の推移と日本の 受け入れ態勢」


連載レポート58

スペイン、ポルトガル、ラテンアメリカからの来日者数の動向と日本側の受け入れ態勢

執筆者:桜井 悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

2020年初頭から始まった新型コロナウイルスの感染は世界中に広がり、終息の兆しは見られない。この原稿で対象とするスペイン、ポルトガル、ラテンアメリカ(以下対象地域と称す)も大きな被害を受けている。本稿では、対象地域からの訪日客の動向を説明するとともに、日本側のスペイン語やポルトガル語を活用しての受け入れ態勢を紹介する。

1.訪日客の動向

まず最初に、世界からの訪日者数の推移を表1に従って見てみよう。

小泉政権時代の2003年に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が提唱され、2010年に訪日外国人数を1,000万人にするという目標が立てられた。しかし、2008年のリーマンショック等によって、2010年には861万人に留まった。その後、2012年末からアベノミクスによる円安が進んだ結果、2013年には初めて1、000万人を突破した。日本政府は2016年に目標を更新し、2020年には年間4,000万人、2030年には、6,000万人とする野心的な目標を掲げた。その結果、2019年には、31,382,049人まで伸びた。しかし、2020年には、前述のようにコロナの感染蔓延により、外国人の来日が厳しく制限され、オリンピックも1年延期を余儀なくされた。その結果、後述するように来日外国人数は激減した。

「対象地域からの来日者数の動向」

政府観光局の統計で、対象地域からの訪日客の具体的国籍が明記されているのは、スペイン人、ポルトガル人、メキシコ人、ブラジル人の4カ国のみである。残りは、その他中米・カリブ海、その他南米となっている。

2019年の統計でみると、スペイン人が130,243人で第1位、メキシコ人が71,745人で第2位、ブラジル人が47,575で第3位、ポルトガル人が32,349人で第4位となっている。まだ数字は小さいが、ここ数年、スペイン、ポルトガル、メキシコからの訪日客は着実に増加して来た。

対象地域全体からの訪日来客者数の推移は、表2のとおりであるが、2011年の119,103人から2019年には362,226人と急激に伸びている。しかし、インバウンド推進による外国人来客数も急激に伸びているので、対象地域の全世界の来客数に占めるシェアは2010年以降、総じて1%強で、2019年は、1.2%となっている。

次に対象地域からの2019年の来客総数362,226人を目的別にみると、観光客は306,238人で、全体の84.5%、商用は31,653人で8.7%、その他は24,335人で6.8%となっている。世界の来客総数で見ると、観光客は、88.6%、商用客は、5.5%、その他は5.9%となっている。対象地域からの来客は商用が多いと判断できる。

2020年は新型コロナウイルスで対象地域が大きな影響を受けた。2021年1月27日の時点における世界感染者数ランキングでみても、ブラジルが2位、スペインが7位、コロンビアが11位、アルゼンチンが12位、メキシコが13位と上位を占めている。2020年における訪日来客数は、表4の通りであるが、全体では4,115,900人で、前年比―86.9%の落ち込みである。スペイン人も前年の130,243人から11,600人に、メキシコ人は71,745人から9,480人と激減した。

2021年に入っても、新型コロナウイルスの蔓延は留まるところを知らず、日本のインバウンドに深刻な被害をもたらしている。対象地域からの来客のみならず、中国、韓国、台湾、米国、欧州、豪州からの来客も激減している。コロナの問題は、日本だけが解決しても諸外国の状況が悪化すれば、インバウンド産業も好転しないことである。

表1 スペイン、ポルトガル、ラテンアメリカからの観光客数

全観光客数 Spain Portugal Mexico Other Central America Brazil Other South America
2010 8,611,176 44,076 10,313 19,248 6,111 21,393 18,088
2011 6,218,752 20,814 6,227 13,080 4,780 18,470 13,292
2012 8,358,105 35,207 8,408 18,502 5,835 32,111 19,040
2013 10,363,904 44,461 11,604 23,338 6,597 27,105 22,825
2014 13,413,467 60,542 14,439 30,436 7,348 32,310 24,563
2015 19,737,409 77,186 18,666 36,808 9,150 34,017 41,070
2016 24,039,700 91,349 21,424 43,509 10,979 36,888 41,070
2017 28,691,073 97,314 23,442 63,440 12,739 42,207 49,399
2018 31,191,856 118,901 26,508 68,448 14,264 44,201 60,603
2019 31,382,049 130,243 32,349 71,745 16,689 47,575 63,625
2020 4,115,900 11,700 9,530

出所:政府観光局 2020年はスペイン人とメキシコ人のみ数字を公表

2010年から2019年までは、スペイン人、ポルトガル人、メキシコ人、ブラジル人のみ公表されている。

表2 対象地域からの訪日者数のシェア

全世界からの来客数 前年比

伸び率

対象地域か

らの来客数

前年比

伸び率

世界に占めるシェア
2010 8,611,176   119.229   1.4%
2011 6,218,752 -27.8 76,663 -35.7 1.2%
2012 8,358,105 +34,4 119,103 +55.4 1.4%
2013 10,363,904 +24.0 135,930 +14.1 1.3%
2014 13,413,467 +29.4 169,638 +24.8 1.3%
2015 19,737,409 +47,1 216,897 +27.9 1.1%
2016 24,039,700 +21.8 245,219 +13.1 1.0%
2017 28,691,073 +19.3 288,541 +17.7 1.0%
2018 31,191,856 +8.7 332,925 +15.2 1.1%
2019 31,382,049 +6.0 362,226 +8.8 1.2%

注:出所:政府観光局の統計の基づき筆者作成 シェアは四捨五入

表3 おけるスペイン、ポルトガル、ラテンアメリカからの国籍別・目的別訪日外客数
2019年

国名 総数 伸率 観光 伸率 商用 伸率 その他 伸率
総数 31,882,049 2.2 28,257,141 1.8 1,757,403 -2.1 1,867,505 14.5
①  スペイン 130,243 9.5 114,252 10.1 9,563 1,4 6,428 12.4
②  ポルトガル 32,349 22.0 29,001 24.0 2,301 6.6 1,047 12.4
③  メキシコ 71,745 4.3 64,255 6.1 4,596 -9.0 2,894 1.6
④  その他中米 16,689 17.0 10,690 19.5 2,920 6.5 3,079 19.7
⑤  ブラジル 47,575 7.6 35,101 5.8 6,393 5.6 6,081 22.1
⑥  その他南米 63,625 5.0 52,939 4.0 5,880 7.0 4,806 13.7
①  ~ ⑥合計 362,226   306,238   31,653   24,335  
シェア 1.14   1.08   1.8   1.3  

出所:政府観光局

表4 2020年1月~12月の外客数

国名 2019年1月~12月 2020年1月~12月 前年比
総数 31,382,049人 4,115,900人  -86.9%
スペイン 130,243人 11,600人     -91.1%
メキシコ 71,745人 9,480人      -86.8%

出所:政府観光局

2.日本の対象地域からの来客の受け入れ態勢の現状

「通訳案内業合格者の推移」

対象地域の言語と言えば、スペイン語とポルトガル語(カリブ海諸国は英語が多い)になる。訪日する対象地域の来客は英語も話せる人も多いと思われるが、ここでは国土交通省・政府観光局がずいぶん昔から実施している「通訳案内業」の合格者数を2010年から2019年まで過去10年にわたって見てみよう。現在、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語等計10カ国語で試験を行っている。

2019年の合格者総数は742人で、英語が505人で、全体の68%を占める。以下、中国語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ハングル語と続く。スペイン語の合格者数は⒙人で全体の3.6%である。ポルトガル語の合格者数は1人となっている。

過去10年で見ると、全体の合格者総数が12,941人で、英語、中国語、ハングル語、フランス語に次いでスペイン語は5番目で、348人、全体の2.7%、ポルトガル語は83人で、全体の0.6%である。

東京オリンピックの誘致が決定したのは、2013年9月であるが、2014年から2016年にかけて、通訳案内業の合格者もインフレ気味に急増したことがわかる。また英語による合格者が圧倒的で、最大のクライアントである中国人、韓国人、台湾人の使用言語の中国語の合格者は全体の8.8%、ハングル語合格者は全体の4.3%と必ずしも訪日来客者数のシェアを反映していない。

表5 過去10年間の通訳案内業試験の語学別合格者数

年度 西 タイ 合計
2010 495 57 46 12 47 2 8 12 125 4 804
2011 467 61 43 18 61 8 5 15 100 2 778
2012 398 45 24 15 130 18 9 13 52 3 707
2013 892 41 29 13 140 15 6 17 52 2 1205
2014 1422 49 27 19 86 4 9 11 30 1 1658
2015 1822 71 43 24 81 9 15 10 40 4 2119
2016 2008 67 59 31 137 12 10 13 60 3 2400
2017 1304 62 36 20 143 11 15 8 53 3 1663
2018 584 33 23 5 162 20 5 4 29 1 866
2019 505 21 18 3 154 19 1 4 17 0 742
累計 9897 507 348 160 1141 118 83 107 557 23 12941
% 76.5 3.9 2.7 1.2 8.8 0.9 0.6 0.8 4.3 0.0 100.0

「使用言語にみる観光庁・政府観光局・東京観光財団の広報活動」

上記3組織のホームページの使用言語につき調査してみよう。

1)観光庁のホームページの使用外国語

 国土交通省の外局である観光庁は観光行政を司る官庁であるが、ホームページの使用言語は英語、中国語、ハングル語の3か国語のみである。実施機関として政府観光局(国際観光振興機構)があるとしても、観光促進という世界を相手にする業務から考えてもう少し多くの言語を使用し、より国際的であってもよいと思われる。

2)独立行政法人国際観光振興機構(政府観光局)のホームページの使用外国語

政府観光局は東京オリンピックの開催年である1964年に設立された政府機関で、訪日外国人の誘致を目的とする。そのホームページの観光案内は下記の15言語で表示している。英語、中国語(3)、ハングル語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語である。

政府観光局の海外事務所は22カ所で、主としてインバウンド客が期待されるアジア、欧米等の国々に設置されている。対象地域にはマドリード事務所と開設準備中のメキシコ・シテイがある。さらに14カ国語のウエブサイトに加え、21市場向けの市場サイトがあり、その中にはスペインとブラジルが含まれている。

外国語による出版物としては、英語による「日本地図」。「東京地図」、「京都・奈良地図」がある。本来であれば、多くの言語による「日本観光の魅力」、「日本観光案内」といったガイドブックを作成すべきである。

3)東京観光財団(TCVB)ホームページの使用外国語

東京観光財団は2003年に事業を開始。東京商工会議所等民間の団体や企業の協力を得て、「東京都」の観光振興を目的とする団体であり、東京都の観光行政の補完的役割を担う組織である。

そのホームページは、英語、中国語(2)、ハングル語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、アラビア語の9か国語で紹介されている。

代表的な出版物として、「東京トラベルガイド」(90ページ以上)と「地図」が挙げられるが、英語、中国語(2)、 ハングル語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、タイ語の9か国語で発行されている。このパンフレットは有意義な資料と言える。

また東京観光情報センターは、下記のスポットに設置されており、各種資料を入手できる。

*東京都庁(東京都庁第一本庁舎1階)
*バスタ新宿(バスタ新宿3階)
*羽田空港(羽田空港第三ターミナル2階)
*京成上野(京成上野駅改札前)
*多摩(ecute立川3階)

観光ガイドサービスも行っており、7言語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語)でのガイドサービスが利用可能。1カ月前~3日前までに予約が必要。Routeを設定しており、庭園散策、新宿、浅草等13のルートがある。加えて都庁案内ガイドサービス・展望室ガイドサービスも行っている。

「その他東京都の区単位の観光プロモーション」

東京都の23区には、それぞれ区役所があり、ホームページで区の行政について紹介している。そのほとんどは英語、中国語、ハングル語によるものであり、渋谷区役所は上記以外にフランス語、大田区の場合、タガログ語、タイ語、フランス語、ドイツ語も使用されている。さらに新宿区の場合、自動翻訳を使い、スペイン語、ポルトガル語を含む14カ国でホームページを読むことができる。

浅草や上野といった有力観光スポットを抱える台東区観光局のホームページの内容と主要活動につき紹介する。ホームページは、英語、中国語(2)、ハングル語、フランス語、タイ語、マレーシア語、インドネシア語がある。加えて、Google翻訳で、スペイン語、カタルーニア語、ポルトガル語を含めた101の言語で見ることができる。パンフレット類の発行も積極的で、スペイン語とポルトガル語で、マップシリーズ(2ページ)として、「上野」、「浅草」、「浅草橋」、「谷中」を提供している。また16ページの台東区を散歩する上で有意義なスペイン語の資料「TAITO, Tokio Guia de viaje  Visita a Shitamachi」とポルトガル語による「Guia turistico de Taito, Toquio  Passeio pela Shitamachi」もある。また浅草の雷門の前にある「浅草文化観光センター」は常に賑わっており、8階の展望テラス、2階の観光情報センター、7階の展示スペース、6回の多目的スペースも有効に活用されている。1階のインフォメーションでは、東京観光財団の外国語資料も配布されている。

各区役所の傘下に、「観光協会」と呼ばれる組織があり、区役所の政策に基づき、実践的な観光振興プログラムを行っている。例えば、墨田観光協会、千代田区観光協会、港区観光協会、新宿観光振興協会、渋谷区観光協会、太田観光協会等である。それらの観光協会は総じて、英語、中国語、ハングル語で情報提供を行っている。墨田観光協会はGoogle等の翻訳アプリで108カ国で案内している。江東区の「江東区深川江戸資料館」(Museo de Edo de Fukagawa de Koto)や「清澄庭園」(Jardines Kiyosumi)はスペイン語のパンフレットを提供している。

鎌倉市の観光部も積極的である。スペイン語によるコンパクトな鎌倉案内(KAMAKURA MAPA TURISTICO)を発行し、鎌倉駅東口の観光案内所で配布している。ホームページでも、スペイン語で「鎌倉市公式ガイドブック」で各名所を紹介している。

「まとめ」

上記に紹介したように、対象地域からの訪日来客数は、1.2%に過ぎない。しかしながら、外務省のホームページの情報「日本と中南米」によると世界に人口の8.6%、GDPの7.4%を占めており、AESAN諸国の2.2倍のGDPを持っているポテンシャリテイのある地域である。将来のことを考慮するともう少し重視すべき地域と言える。

コロナの時期は、実際の活動は制限される。この機会を利用して、英語、中国語、ハングル語以外の重要言語についても活用することを検討すべきであろう。とりわけスペイン語は、英国の文化言語普及機関であるBRITISH COUNCILも英語を除く最も重要な言語としてスペイン語を挙げている。

現在では、Google翻訳アプリやDeeple翻訳アプリ等翻訳の精度が増している。特に英語からの翻訳であれば、相当程度の正確度が得られる。翻訳アプリを活用し、その後にネーテイブのチェックを受けるようにすれば経費や時間もそれほどかからないので、各区役所や観光協会でも、可能な限り多言語に翻訳するよう望みたい。

以   上