連載パナマ・レポート11: 2021年 3月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート11: 2021年 3月分


連載パナマ・レポート10: ルベン・ロドリゲス 2021年3月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I. 新型コロナウイルスの現状

3月25日時点で、パナマにおける新型コロナウィルスの感染者は352,579人、死亡者は6,073人、回復者は341,476人と確認された。汎米保健機構は、パナマの3月入院患者数(前月比48%減)および集中治療室の患者数(前月比58%減)が落ちていると発表した。

また、3月25日時点でファイザーワクチン約33万回分を接種したことが判明した。3月下旬にはファイザーワクチンがさらに10万回分が届く予定とされている。政府は今年中に全人口の85%の接種を目指している。国民は政府の作ったウェブサイトで個人番号を入力すると接種予約の時間と場所を確認できる。コルティーソ大統領は3月10日にワクチンを受けたことを発表した。

政府は感染者数の減少傾向を確認したことから、3月6日午前5時から週末の外出禁止令を解除するが、午後22時から午前4時までの夜間外出禁止令は継続することを決定した。コルティーソ大統領は3月28日から始まる聖週間に外出禁止を発令しないと述べたが、感染者数の増加に伴う新たな外出禁止の発令を避けるよう、国民に防疫対策を要請している。さらに保健省は真夏の猛暑で熱中症の恐れがあるため国民に注意を呼びかけている。

II.政治

A.社会保険庁の改正

社会保険庁改正の委員会は3月22日に、社会保険庁改正議論に関する法論法が決定した。年金制度[1]および国立病院を管理しているパナマの社会保険庁は新型コロナウイルスによって経済状況が悪化している。1月中旬に発表された社会保険庁会計監査の結果として、受給開始年齢と年金拠出金基準の引き上げ、受給金額20%の引き下げ、社会保険料の納付期間を20年から25年にすることが提案された。

2005年以降、パナマには二つの年金モデルがある。第一の「⼀定利益システム」(Sistema de Beneficio Definido)は現役世代が高齢者を支えるというモデルである。これに対して、2005年の法律改正によって設立された「混合システム」 (Sistema Mixto) は、加入者の年金拠出の一部が個人投資口座に預けられている。しかし、労働組合を始め、会計監査の結果を批判する声が上がった。このため政府は政党、労働組合、民間部門、大学、医者等を招聘し、社会保険庁改正委員会を設立した。

労働組合は2005年改正前の制度に戻ることを前提としているが、専門家は二つの制度の合併により社会保険庁の経済状況は更に悪化すると反論している。また、労働組合は政党の参加を反対しているため、委員会から撤退することを発表したが、3月26日時点では公式な撤退が行われていない。

B. 2021年の学年度

教育省は2021年の第1学期がオンライン式で行われることを決定し、教育省と技術発展局(Autoridad Nacional para la Innovación Gubernamental)は、「インターネットとモバイルデータに基づく2021年連帯教育計画」(Plan Educativo Solidario 2021 de Internet y con Data Móvil)を発表した。2020年度のデータ利用を分析した結果、オンライン授業の88%はスマートフォンで行われている。そのため、2021年の教育計画では政府の管理している教育サイトへのアクセスをデータ利用カウント対象外とした上で、学生と教員向けの新たな7GBプランを紹介した。このプランはオンライン授業に利用されているメッセージアプリのWhatsappのみに適用され、他のSNSやアダルトサイトへのアクセスは禁止されている。さらに教育省は先住民族の領域内に衛星インターネットアクセスの段階的な設定を発表した。政府は先住民族小中学生約2万5千人のオンライン授業への参加を目指している。

さらに、ゴルダイ(Gorday)教育相は、接種計画の実施と感染者数の減少によっては、第2学期を対面式で行う可能性を検討していると明らかにした。ただし、感染者数が少ない地域においては対面授業に反対する保護者がいる。また、オンライン授業の実施決定に伴って、国会は私立教育機関の授業一部免除に関する法案第508号を可決した。法案第508号によって対面授業を行わない私立教育機関は10%から30%までの授業免除を規定し、2020年の学年にも遡る。これに対して、私立教育機関を代表する団体は、市場経済の妨害を理由とし、コルティ-ソ大統領に法案第508号の拒否を要請している。

III.経済

A. 2020年のGDP

統計局は、2020年度のGDPが前年比17.9%減少したと発表した。新型コロナウイルスによって農業と鉱業以外の部門が縮小した。特に、建設業(約50%)、小売部門(約20%)、不動産業(約10%)が減少したことが明らかとなった。また、1月の歳入は、前年同期比50%マイナスとなった。 米格付け会社ムーディーズは2020年度のGDP減少を理由に、パナマの信用格付をBaa1からBaa2に、パナマ運河局の信用格付けをA1からA2に引き下げた。さらに、両方の格付けは「ネガティブ」から「ステーブル」に変更され、2021年度の経済は4%成長すると予測されている。

さらに、銀行監督官は、2021年1月の金融統計を発表した。1月のローンは前年同期比35%減少し、5億6500万ドルに達した。その中で、個人ローン(約54%、-1億3400万ドル)、建築ローン(約47%、-5700万ドル)、住宅ローン(46%、-8400万)、商業融資(27%、-2700万ドル)が減少した。また、国内銀行の総利益は、前年同期比約41%減、8千万ドルとなった。2020年の年末においては、金融活動は回復の傾向を示したが、外出禁止命令の発令によって改めて落下したと言われている。

パナマ年金制度問題について筆者の「年⾦制度に及ぼすコロナ禍のインパクト―中⽶パナマの事例」を参照。