『見知らぬ友』 マルセロ・ビルマヘール - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『見知らぬ友』  マルセロ・ビルマヘール 


 著者はブエノスアイレス生まれのユダヤ系アルゼンチン人作家で、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し日本でも上映された映画『僕と未来とブエノスアイレス』(2004年)も手掛けた脚本家、児童文学作家。ブエノスアイレスの街で繰り広げられる多感な十代の不安や悩み、人生への夢を綴った10編の短編は、オーガフミヒロによる幻想的な美しい挿絵とともに、それぞれに人生のほろ苦さ、ささやかな喜びを描いてる。
 人生の危機に難渋していた時に何度も代筆してくれた見知らぬ友が、50代を最後に現れなくなったが、老後に回想を書こうとしていた時に再会し謎の次第を知って自力で傑作を書けるようになった表題作はじめ、1976~83年の軍独裁政治、1982年のマルビーナス(フォークランド)戦争の敗戦を契機に民主主義に戻った時代を背景にして、各編は語り手の小中学生、高校時代のちょっとした出来事、主人公の時には自虐的でもある心の動き、登場人物たちの人生の悲哀の“でっち上げた思い出”(原書の副題)が、温かい味わいを感じさせ静かな余韻を残す。若い読者に向けた短編集。

〔桜井 敏浩〕

(宇野和美訳 福音館書店 2021年2月 151頁 1,700円+税 ISBN978-4-8340-8468-9 )
 〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕