『ラテンアメリカ – 地球規模課題の実践』 畑 惠子・浦部 浩之 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ラテンアメリカ – 地球規模課題の実践』 畑 惠子・浦部 浩之


 政情不安、経済混乱、治安の悪さがステレオタイプで報じられることが多いラテンアメリカだが、実は今や地球規模課題である諸問題に真摯に取り組んでいるということを知らしめようという、意欲的な論集。
非核化と軍縮、地球環境政治による持続可能な開発への取り組み、世界を草の根から変えようという社会運動、LGBTという呼び方に代表されるセクシャリティの多様性をめぐる保守的と言われるラテンアメリカ社会の変容、先住民の権利回復から自己表象への試み、多くの問題の根底にある教育の不平等とその格差是正を目指す就学支援、社会保障制度の一つとして貧困問題の解決のために展開されてきた条件付き現金給付プログラムの成果と課題、「解放の神学」を経て「貧しい人びとのための優先的選択」によって社会問題に取り組むカトリック教会、少なからぬ国々での軍事政権下での暴力による人権抑圧の後の民政移管で、過去とどう向き合い将来を構築していくかという移行期正義の問題、紛争を対話により和平を実現したコロンビア、麻薬戦争で多くの犠牲者・行方不明者を出したメキシコでの被害者家族の会の活動、メルコスル(南米南部共同市場)はじめとする多国間と二国間での「南南協力」の推進とBRICSの中での南南外交の事例を考察し、最後に政治体制と経済発展をラテンアメリカでの民主主義と資本主義の複雑な関係から学ぶことが出来るとする論考に至る全13章を13人の研究者が論じている。ラテンアメリカ地域のチャレンジングな、時には先駆的な問題を取り上げた、現代の世界の政治、社会の方向を知る上でも興味深い論集。

〔桜井 敏浩〕

(新評論 2021年2月 324頁 3,000円+税 ISBN978-4-7948-1168-4)
 〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕