この本は最近めっきり目にすることの少なくなったラテンアメリカ(中南米)の通史である。コロンブスの「発見」以来、中南米文化の土壌ができた植民地時代、アメリカ大陸の国家構造ができた独立期、各国が国造りに励んだ19世期、米州がアメリカ合衆国の勢力圏となる20世紀、そして混沌化を増す冷戦後の中南米の歴史について書いてある。
著者が1970年外務省に入省してスペインを皮切りに、米州ではワシントンDC、マイアミ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、コスタリカ、ペルー、ボリビア、ブラジルでの勤務経験を有し、2012年ボリビア大使を最後に退官した外務省OBであることから、公私にわたる生活体験を通して得た視点とリアリズムで歴史を解釈したところに特色がある。これまでの中南米の視角から説明するのではなく、国際政治という大枠の中で中南米史を俯瞰的に見ている。またこの通史はコロンブスの「発見」から今日までの中南米史の大きな流れや、その時代を支配する政治経済思想にも気を配っている。現場の人間が陥りやすい見たり聞いたりしたことを頼りにし、短視的かつ独りよがりな解釈にならないように先行研究を渉猟し、テーマによっては史実を詳しく解説している。著者としてはこれまでの外務省での経験を総括する気持ちで書いたもので、これから中南米に係わる多くの若い人にテキストとして使ってもらいたいと願っている。
第一章 植民地時代の中南米 第六章 冷戦構造に組み込まれる米州
第二章 中南米諸国の独立 第七章 権威主義体制と人権問題
第三章 国際政治から眺めた独立 第八章 民政化と中米紛争の八〇年代
第四章 一九世期、波乱の中南米政治 第九章 冷戦後の混沌とする中南米
第五章 米帝国主義と民衆の政治参加 終章 歴史と地理から見る中南米の姿
〔渡邉利夫-著者紹介〕
(彩流社 2021年2月 780頁 7,000円+税 ISBN978-4-7791-2712-0)
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕