竜舌蘭の一品種アガベの球茎の澱粉を原料とするメキシコの蒸留酒メスカルの一種のテキーラは、メキシコの国内法と国際条約により製造地はハリスコ州等に限定され、ブランドイメージを維持するための厳しい規格が定められている。アガベは紀元前9000年前から主食の一つとされてきたが、現在メスカルの原料としての栽培では、収穫前に剪定され養分を球茎に集中させ収穫される。アガベの樹液を発酵させたプルケはオルメカ、マヤ、アステカの神々と結びつける酒であったと伝わっているが、これがいつから蒸留酒に作り変えられたのかまだ定かでない。現在アガベから作られたメスカルの一種テキーラはメキシコ政府、業界団体など国内外で保護され、一部は高級品としてブランド化された。
本書は原料の「奇跡の植物、アガベ」の収穫、加工、メキシコにおける蒸留酒の歴史、グアダラハラから北へ数時間のテキーラ山近くのテキーラのふるさとされる町、アガベの栽培、収穫から加熱、破砕を経て蒸留、それを長く熟成する過程などを説明し、テキーラ業界の名門とその変容、メスカルの歴史と近年の高級化の動き、その他のアガベ・スピリッツについても紹介し、最後にメキシカン・スピリッツが古くからの市場である米欧日よりも成長著しい中国、インドといったアジア新興市場を開拓しようと努めているが、そこではテキーラの伝統的製法が中国のメタノール許容基準と合わないとか原産地呼称が認められていないといった問題点をクリアしなければならない。しかしながら、食糧危機が叫ばれている中で穀物に依らず旺盛な繁殖力をもつアガベ原料テキーラに今後世界の注目度を高まっていくだろうと結んでいる。巻末にテキーラを使ったカクテルや料理のレシピ集、アガベ、プルケ等の専門用語、テキーラの定義と分類、種類、ブランドの説明が付いており、メキシコの国民酒を理解する入門書となっている。
〔桜井 敏浩〕
(伊藤はるみ訳 原書房 2019年6月 185頁 2,200円+税 ISBN978-4-562-05653-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕