連載エッセイ110:硯田一弘 「南米現地レポート」その22 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ110:硯田一弘 「南米現地レポート」その22


連載エッセイ107

 南米現地レポート その22

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「6月7日発」

6月1日は世界牛乳の日Día Mundial de la Lecheでした。ABC Color紙ではパラグアイの乳業各社が業界を挙げて特集を組んでいました。

人口700万人のパラグアイでの牛乳生産量は年間100万トン、1憶2千万人の日本が700万トンですから一人当たりの生産量ではパラグアイの方が圧倒的に多い様です。
https://www.abc.com.py/nacionales/2020/12/29/produccion-record-de-leche-en-el-2020/

2001年にFAO=国連食糧農業機関が定めた「世界ミルクの日」に関する記述はウィキペディアにもありますが、中国語はあるものの日本語はありません。

FAOの統計データでは、パラグアイの牛乳生産量が僅か32万トンとなっていて、相当低位に位置づけられていますが、何でこのような統計数値が出ているのかは判りません。

パラグアイで最も知名度の高いサッカー選手ロケサンタクルス氏を起用した乳製品農協のホームページをご覧いただけば、パラグアイの酪農の規模感が御理解頂けると思います。
https://lactolanda.com.py/
また、西部チャコ地方でもドイツ系農協が牛乳の生産を拡大しており、それを支援する道路の整備も進んでいることが報じられています。
https://www.abc.com.py/nacionales/2021/06/01/adjudican-ultimo-tramo-que-faltaba-de-la-ruta-de-la-leche-por-g-80028-millones/

今週は中国の人口バランス改善の為に三人目の子供を容認する政策に転換したとの報道が話題になりましたが、子供の人口比が多いパラグアイでは、乳製品の生産を増やすことで健康を増進する政策が取られています。

先週お届けしたベネズエラ人が撮影したアスンシオンのショッピングセンター紹介映像ですが、画面がブレて見づらかったとのご意見がありましたので、今回はぶれない映像をお届けします。正確にはアスンシオン市ではなく、隣のランバレ市の丘を空中撮影した映像ですが、アスンシオン旧市街や新市街の景色も遠くに見ることができます。

「6月13日発」

二週間前に通常のインフルエンザの予防接種を受けてきたことをお伝えしましたが、今週遂に新型コロナ用ワクチンの接種年齢が一気に60歳以上に引き下げられたので、早速行ってきました。

まず出向いたのは徒歩5分で行ける近所のMariscalコンベンションセンターの会場、しかしここでは受診者が居なく、ガラガラであるにも関わらず身分証明書番号の下一桁が符合しない、と断られました。
↓超ガラガラの接種会場

一旦家に帰ってクルマに乗ってインフルエンザワクチンを接種したShopping del Solという大型ショッピングのドライブスルー会場に行きました。

ここもガラガラで身分証明書番号に関係なく受け付けてくれると言われたのですが、数日前アストラゼネカの薬剤を使っていることを確認して来たにも拘わらず、何故かこの日接種しているモノを見せてもらうとロシア製のスプートニクV。

しかも、解凍するのに手で揉んで温めていたので、心配になり、丁重にお断りして別の会場へ。一か月以上前に75歳以上の接種が行われると聞いていたスポーツ庁の会場に行って見ましたが、ここもガラガラでしたが薬剤はやはりスプートニクV。ということで諦めて帰ろうと思ったのですが、Mariscalコンベンションセンターでは徒歩受付以外にもドライブスルー会場があるので、そこもダメ元で行って見ようと寄ってみたところ、あっという間にアストラゼネカ品を接種してもらえました。

最近はパラグアイでも高齢者から徐々にワクチン接種は進んでいたものの、中国シノファーム社製が出回り始めると、一般の人でも敬遠して受診しないケースが目立っていると報道されていました。一方、富裕層がワクチン余りの米国に出向いて予防接種を受ける旅行が南米各国で流行していて、パラグアイでも多くの知り合いが北米旅行に出向いているので、どうしたものか、と気をもんでいましたが、こんなにアッサリとアストラゼネカ品が受診できてラッキーでした。

しかし、あまりの各会場のガラガラぶりに、パラグアイ人は予防接種を好まないのか、と思っていたのですが今日から対象年齢が55歳以上に引き下げられたので、先日歩いて行ったMariscal会場に出掛けてみました。その結果、ドライブスルー会場も徒歩会場も長蛇の列。明らかに100台近いクルマが渋滞を発生させ、徒歩で来た人たちも百人以上が晴天の下長い行列を作っていました。

↑徒歩の人達 

新聞報道によると、アスンシオンだけでなく、全国的に行列が出来ている模様。
Masiva concurrencia de personas mayores de 55 años en vacunatorios habilitados”(55歳以上の接種が可能になり参加者多数)
60歳以上というのは、パラグアイでは総人口の9.9%なので少数派で、速やかに順番が回ってきた訳です。日本では60歳以上の人口比は34.3%。同級生たちに順番が回って来るまでにはもう少し時間がかかるようです。
ところで、La Nacion紙の電子版トップにノーベル賞受賞者の根岸栄一さんの訃報が掲載されていました。ご冥福をお祈りします。

「6月20日発」

6月6日に行われたペルーの大統領選挙決選投票では、1762万の票差が4万票=0.25%と超僅差であるために二週間が経過した今も勝者が確定しない異常事態に陥っています。
一方、パラグアイでも明日6月20日に全国の市長=intendenteや市議会議員=concejal、政党理事=directorio de partidos politicosを選ぶ統一地方選挙が行われます。

選挙の投票方法について、新聞で広告されていますが、選挙管理委員会のホームページには投票のシミュレーションが紹介されています。
https://www.tsje.gov.py/

先ず投票所で身分証明書を提示して投票券を受け取る。

これを投票機に挿入する。

画面の表示に従ってタッチパネル式で投票する。

投票結果が印刷されて出てくるので、自分の投票と合っているか確認する。

印刷された投票用紙を二つに折って、投票箱に入れる。投票したことを確認するためインク壺に人差し指を入れて指を着色する。

パソコンのシミュレーション画面の最後には、「民主主義の強化は私たちの掌中にあります」というメッセージが表示されます。

先週は新型コロナのワクチン接種会場を回った経緯をお知らせしたところ、アスンシオン在住の複数の方々から接種会場の様子や接種方法についての問い合わせを頂きました。
以前、パソコンで登録したことを書きましたが、日本で大混乱している接種券の発行問題はパラグアイでは生じていません。パソコンで登録がしてあれば、接種会場で身分証明書を提示するだけで照会が行われ、接種後はゴルフのスコアカードの様なcertificado de vacunacion=接種証明書が渡されます。

こんなので大丈夫?という感じもしますが、接種の事実は会場にあるパソコンでオンライン登録されますから、旅行などの際にはきちんとした証明書も発行される仕組みです。いつの間にかデジタル後進国になってしまった日本。誰もが使えるシステムの構築に手間取ってるって言いますが、パラグアイですら出来るのですから社会制度の強化fortalecimientoはシッカリ進めて欲しいものです。

「6月27日発」

6月24日(木)の未明にマイアミビーチの高級アパートの一部が崩壊したニュースは日本でも大きく報じられましたが、パラグアイでは現職ベニテス大統領夫人の家族が行方不明となっていて、夫人は直ちにマイアミに出向き、大統領自身も各種予定を変更していることがニュースとなっています。大統領夫人の親族が昨年購入したアパートで起こった悲劇に関しては、懸命の捜索・救助活動が行われている現在、どういう経緯でこの不動産が入手されたか?等について掘り下げた報道は見られませんが、行方不明者の中には家族の使用人も含まれており、今日は使用人の実兄がDNA検査を受けて現場に向かうとの記事も掲載されています。

先週の記事で、パラグアイで行われた選挙を統一地方選と書きましたが、正確には統一地方予備選でした。各党の市長候補が出そろって10月の本選挙に向けて選挙イヤーが動き出したイメージです。その選挙の動静にも関わる最低賃金が7月から値上げされるとのニュースも報じられました。2015年からの最低賃金の推移を纏めたABC Color紙の記事から、その上昇率をまとめてみました。

昨年はコロナ禍の影響で見直しは行われなかったものの、過去一貫して3%以上の賃金上昇が実施されていることが判ります。一方、毎年6月の為替レートで最低賃金を割り戻した米ドルに換算してみると、過去5年以上に亘って350ドル前後で大きく動いていないことが判ります。

少し古い記事ですが、昨年1月ベースの南米各国の賃金をドル換算して比べた表が掲載されていましたのでご紹介します。
Paraguay se ubica con el cuarto mejor salario mínimo de la región(パラグアイの最低賃金は南米で4番目の高さ)
https://www.lanacion.com.py/mitad-de-semana/2020/01/29/paraguay-se-ubica-con-el-cuarto-mejor-salario-minimo-de-la-region/

30年前は南米最高賃金だったベネズエラが、今や世界最低レベルに落ち込んでいることはこれまでもお伝えしましたが、南米の大国と言われるメキシコやブラジルの最低賃金が下位にランクされているのは意外に思われるかもしれません。
大国ブラジル・メキシコは生活コストもそれなりに高く、その意味では最低賃金ではスラムに住まわざるを得ないということになります。翻って今までも書いてきた通り、パラグアイでは他の国々の様な大規模な貧民街は存在しません。大邸宅の隣で最低賃金の家族が小さな家を構えている、という光景が見られる不思議な国です。
ただ、外国人にとっては物価も安定しているということになりますから、投資をするには極めて適切な国という観方も出来ます。

最近の日経新聞の記事では、ディズニーランドの入場料やアマゾンプライムの料金が世界一安いとか、給料に占めるiPhoneの値段が高いといった日本経済の地盤沈下を示す記事が掲載されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC257920V20C21A6000000/
オリンピックや万博等の一過性のイベント、リニアという長期的採算性の見込めない事業に景気浮揚を期待する借金依存政策よりも、もっと堅実に世界で稼ぐ戦略を構築しないと、ベネズエラの後追いをすることになりかねません。頑張ろうニッポン!