連載パナマ・レポート14: ルベン・ロドリゲス 2021年 6月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート14: ルベン・ロドリゲス 2021年 6月分


連載パナマ・レポート14: ルベン・ロドリゲス 2021年6月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I. 新型コロナウイルスの現状

6月26日時点で、パナマにおける新型コロナ・ウィルスの感染者は398,820人、死亡者は6,505人、回復者は380,662人と確認された。1月中旬に開始された接種計画によって6月21日時点では、約150万回分のワクチンが提供されている。政府は、6月21日からチリキ県では、新たなアストラゼネカのワクチンを利用する4つの接種センターとヘレラ県で新たな野外病院を設立すると発表した。ただ、大雨の影響によってコクレ県と西パナマ県のいくつかの接種センターでは接種計画の実施は一時的に停止された。
しかし、接種計画によって一月から感染者の減少が確認されたが、5月上旬から増加の傾向が確認され、6月下旬時点では, 一日当たりの感染者は1,000人前後となり、検査陽性率は8.6%まで上がった。世界保健機関(WHO)の検査陽性率5%指針を超えている。全国病床使用率は54%まで上がり、ICU(集中治療室)の病床使用率は48%となっている。以上をもって政府は、感染者数の高い地域で外出禁止を発令した。しかし、感染者増加にも拘わらず、死亡率は、1.7%にとどまっている。

Ⅱ.政治

A.マルティネリ元大統領の裁判

リカルド・マルティネリ元大統領(2009年―2014年)が任期中に野党等のメッセージを傍受する命令を下した疑いに関する裁判は6月22日に開始予定だったが、マルティネリ元大統領が手術を受けたため7月5日まで延期された。2014年に任期が終わった後、様々な調査の対象となり、マルティネリ元大統領はパナマから出国したが、2017年にアメリカで逮捕され、パナマへ送還された。2019年に無罪判決が下されたが、高等裁判所は無罪判決を無効とし、再審を命令した。これに対して、マルティネリ元大統領は、事件の時効、憲法権利侵害等を訴えたが、最高裁判所はすべての主張を棄却している。マルティネリ政権では積極的に行ったパナマ運河の拡張や、パナマ市地下鉄建設のような開発事業によって経済成長年平均8%を達成した。更に、失業率を6.3%(2009 年)から4.3%(2014 年)まで下げ、税徴収も改善した。

B.港湾運営契約の更新

パナマ海運庁は、コロン県にあるクリストバル港についてコンセッション方式運営契約を更新し、2047年まで延長することを決定した。1997年に結ばれたクリストバル港運営契約によってPANAMA PORTS COMPANY (PPC)は港の管理を託された。しかし、PPCの運営によって国がもらった配当金の金額について疑問があり、契約不履行の理由で更新を反対する声もあった。会計検査院は、1997年以降、PPCが43億4577万5千ドルの収入を得て、そのうち約4億4500万ドルは税金として納付され、約17億ドルは再投資、900万ドルは配当金として支払われている。更新された契約では、PPCが25年間において国に8億ドルを支払うと予測されている。

Ⅲ.経済

A.パナマ連帯計画の改正

コルティソ大統領は6月21日に接種計画による企業の再開を理由とし、新型コロナウイルスの対策であるパナマ連帯計画(Plan Panamá Solidario)の改正を公開した。パナマ連帯計画は、新型コロナウイルスの影響を受けた者に月120ドルの経済的な支援と食料を提供し、2020年4月上旬から実施されている。改正では、支援を受給するには一か月に24時間の社会奉仕活動または専門技術コースへの参加が条件とされている。また、改正によってパナマ連帯計画は、2021年12月31日まで延長されたが、政府は接種計画や景気回復に合わせて、支援内容の変更を検討していることもわかった。

 しかし、パナマ連帯計画の改正に対する批判の声もある。特に、月120ドルの支援では、生活に必要な商品や食材を表す国の基準(Canasta Básica Familiar)を買えないと指摘されている。また、経済的な支援と食料の提供は、再就職と繋がらないことも批判されている。さらに、専門技術コースはわずか10時間のものであるため、社会に生かせる技術を身に付けられないとも言われている。テハダ労働次官は、2020年3月から停止されている労働契約の60%が復帰していると発表し、予測を超えていると述べた。多くの契約は、パナマ県、西パナマ県、コロン県、チリキ県のものである。さらに、2021年1月から6月の間では、83,000労働契約が結ばれたと分かった。新型コロナウイルスの影響による2020年の失業率は18%まで上がった。

B.銀行ローン等返済猶予協定の延長

政府により去年5月に結ばれた銀行ローン等返済猶予協定は、12月31日まで延長されると発表された。協定は、新型コロナウイルス拡散によって経済的状況が悪化した者に、個人ローン、住宅ローン、商業融資、自動車ローン、農業金融、クレジットカードの返済猶予を定め、遅延利息を禁止している。政府は2020年10月に銀行ローン等返済猶予協定の2021年6月30日まで延長を発表した。しかし、協定の延長は自動的に適用されず、顧客自身が9月30日までに銀行と相談し、経済的な状況を証明しなければならないという条件が設けられている。

C.財政赤字

新型コロナウイルスによって2021年の財政赤字は、約41億5千万ドル(2021年度予測されているGDPの6.8%)まで上がると予測されている。法律では、財政赤字はGDPの7.5%を超えることが禁止されている。エクトール・ヘルナンデス経済財政相は、2021年にさらに60億ドルの借金を背負い、一部は国際機関のローン返済に利用されると発表した。2020年度では政府は国債の発行や国際機関のローン等によって178億ドルを確保することができた。2020年度の公債は、前年同期比90億ドル増、約390億ドル(GDPの65%)に達した。また、2021年4月では、パナマの経済は前年同期比12%増加し、2021年に初めて成長した。2020年4月の経済は前年同期比25%減少した。世界銀行は、2021年のGDPは9.9%成長すると予測している。

(パナマ国債の傾向について、連載パナマ・レポート⑤と連載パナマ・レポート⑩を参照のこと。)

IV.外交

A.移民問題および租税回避地のブラックリストに対する措置

エリカ・モウイネス(Erika Mouynes)外交相は、6月23日からスペインを手始めとして、EUでの外交訪問を行う。モウイネス外交相は、パナマ政府がアメリカを目指すコロンビアからの移民の食料、住居、医療を負担しているため国際協力を求めている。さらに、モウイネス外交相は、パナマが租税回避地のブラックリストから取り消されるように近年における政府の措置等を説明する。パナマ政府が、2016年以降、脱税を防ぐため国内法を国際基準に合わせ、121か国と税務情報交換協定を結んだため、ブラックリストからの取り消しを予見した。