大正時代に曾祖父が沖縄からペルーに移住し、戦後再移住した両親の下リマで生まれたが、生後半年で日本に帰り神奈川県で育ち、今は劇作家、舞台演出家として国内外で活躍している著者が、2014年に生まれ故郷のペルーを訪ねて、ペルー沖縄県人会のOKINAWA MATSURIに参加した後、せっかく南米に来たのだからとブエノスアイレスに赴いて祖母の親戚と会いパラグアイへも足を延ばした。父親の仕事で小学4年生から6年生までアスンシオンに住み、グアテマラのスペイン語学校に通い、2016年10月から約1年間文化庁の新進芸術家海外研修制度研修員としてブエノスアイレスに滞在した。2017年にそこから長距離バスで国境のポサーダス、さらにパラグアイ第二の都市エンカルナシオンに入り、ラパス、イグアス、ラ・コルメナの各移住地を回り多くの若者たちと様々な話し合いをもった。
その後バスでサンパウロに向かい、リベルダージ(東洋人街)等を訪れ、ボリビアのサンタクルスへ向かい近郊のサンファン、オキナワ日本人移住地を訪問、さらにバスで北部の都市トリニダ経由アマゾンへの入り口のルネナバケへ、日本人移住者が現地女性との結婚で名字以外日本との繋がりがなくなった地で開催にこぎ着けた日本祭り参加、最終目的地のボリビア北端の町リベラルタに辿り着いた。
ペルーに生まれた因縁から日本人移民の足跡とその子孫たちを訪ねて、各地の日系人に紹介された多くの若者たちとの出会い、交流、対話を詳細に記録している。国籍を出生地主義で与える南米諸国と血統主義の日本とでは考え方は異なり、日本人の血筋を引いている日系人といってもそれぞれの境遇や気持ちの違いから日本との距離感は様々であるが、それらの間で日本人とは? 日系とは? を考える旅でもあった。行き先々の移住地の様子や日系人とのインタビューが克明に、演出家ならではのテンポのよい対話の中に真摯な探究心が伝わる旅行記になっている。
〔桜井 敏浩〕
(亜紀書房 312頁 2021年3月 1,800円+税 ISBN978-4-7505-1685-1)
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年夏号(No.1435)より〕