『反米 -共生の代償か、闘争の胎動か』 遠藤 泰生編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『反米 -共生の代償か、闘争の胎動か』  遠藤 泰生編 


世界で特定国名に「反」が付いて呼ばれそれが継承されているのは米国を置いてない。「反米」は米国が20世紀の現代世界に与えてきた政治的、経済的、文化的な影響の裏面であり、本書は世界史における米国の意味を俯瞰する試みでもある。近現代中国における「反米」-対立と「親米」-競存、冷戦、火野葦平の冷戦紀行から親米/反米の狭間を、英国知識人の「反米」の代償、日本の知識人・文学者の戦中日記からの脅威と驚異としての米国、独自の道を求めるロシアの反米、米国の大衆文化と欧州の若者文化を描いた章とともに、ラテンアメリカについては「二国間関係の中の反米」でウィルソン外交がその理念そのものがメキシコの反米感情を刺激した介入(米国外交史研究者の西崎文子東京大学名誉教授)、キューバが革命以来反米主義を掲げることによって国内体制を引き締めてきたが、一方で「反米」が足かせとなって国内体制が変われなくなってしまうという冷戦後の独裁国家の皮肉(ラテンアメリカ史の高橋 均東京外国語大学特任教授)を考察し、「憧憬と反発、驚異と脅威」(ラテンアメリカ文学研究者の竹村文彦東京大学大学院教授)ではキューバ独立運動家ホセ・マルティの「反米」を、経済的繁栄への脅威と拝金主義への批判、その犠牲者たち、米国の膨張主義への批判という観点から分析している。
 世界各地で言われている「反米」が様々な背景により異なる様相があって、ラテンアメリカの「反米」を一律視出来ないこと、反対に「反米」の特徴として時空を超えて世界に偏在していること、「反米」はどの集団からも世代からも発せられ、様々な程度の米国批判を含み、個人であれ集団であれ反米と親米が同時に存在し、また「反米」で取り上げる「米」の中味が実態とかけ離れていることを指摘しているが、根底には世界の反米に対する米国側の無理解もあるなど、「反米」を安易に使いがちな我々を戒めている。

〔桜井 敏浩〕

(東京大学出版会 2021年3月 328頁 5,600円+税 ISBN978-4-13-030220-3 )

〔『ラテンアメリカ時報』 2021年夏号(No.1435)より〕