連載パナマ・レポート15: ルベン・ロドリゲス 2021年 7月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート15: ルベン・ロドリゲス 2021年 7月分


連載パナマ・レポート15: ルベン・ロドリゲス 2021年7月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I. 新型コロナウイルスの現状

7月26日時点で、パナマにおける新型コロナ・ウィルスの感染者は429,949人、死亡者は6,759人、回復者は409,995人と確認された。5月下旬から新感染者数が増加し、ロス・サントス県とヘレラ県を中心に、7月の平均は1日1,000人を超えている。他方、先住民族の自治区、ダリエン県、ボカス・デル・トロ県、およびパナマ県の新感染者は減少傾向を示している。また、新感染者数に対する死亡者は死亡率が1.6%と減少している。

パナマ政府は1月中旬からワクチン接種計画を開始し、7月23日時点で約200万回分、人口の28%がワクチン接種をしている。7月21日にアメリカ政府はパナマ政府にファイザーワクチン50万分解を寄付した。また、同日、過去最高の約74,000人分のワクチン接種が行われた。大手病院10軒は保健省と連携協定を結びワクチン接種計画に加わることが分かった。さらに、政府は7月下旬からベラグアス県とボカス・デル・トロ県で12歳以上、パナマ県のサン・ミゲリト区で16歳以上へのワクチン接種開始を発表した。7月中旬時点、ファイザーとアストラゼネカワクチンの300万回分が届いている。

7月19日に、パナマ最高裁判所は、性別、身分証明書番号、曜日によって外出禁止と夜間外出禁止を命令した2020年6月6日の政令第492号を保健省が発令したことは違憲であると判定した。現時点では、同じ内容したの他命令への影響は明らかではない。

Ⅱ.政治

A.社会保険庁の改正

7月上旬に、労働者評議会(Consejo Nacional de Trabajadores, CONATO)は、社会保険庁改正委員会から撤退した。CONATOは、国家議員の社会保険庁改正委員会への参加を反対し、2005年改正時に設立された加入者の年金拠出の一部が個人投資口座に預けられている「混合システム」 (Sistema Mixto) という年金制度の廃止と、現役世代が高齢者を支える「⼀定利益システム」(Sistema de Beneficio Definido)という年金制度に戻ることを求めている。更に、野党のパナメニスタ(Panameñista)党は、政府に、CONATOが参加できるような環境を保障すべき理由として、一時的な引退を発表した。

CONATOの徹退に対して国会は政府、民間企業、労働者、および国際労働機関のみで社会保険庁改正の議論を行うべきであるという決議を採択したが、改正委員会は、患者、退職者、医者、看護師、その他の医療従事者の声が必要だと反論している。(社会保険庁の改正については筆者の「連載パナマ・レポート ⑪」を参照(パナマ年金制度問題について筆者の「年金制度に及ぼすコロナ禍のインパクト―中米パナマの事例」を参照)。

B.パナマ運河の予算

国会は、42億1500万ドル(前年同期比900万ドル増)で、2022年度パナマ運河予算を可決した。2022年度の予算は、2021年10月1日から実施に移され、20億ドルが費用に充当される。憲法の定めによって、パナマ運河は、政府に収益を引き渡す義務があり、2022年度分は、23億ドルと予測されている。

Ⅲ.経済

A.新型コロナウイルス対策への批判

会計検査院は、2021年1月から3月31日まででGDPは前年同期比8.5%減少し、最も影響を受けた業界は、ホテル、レストラン業界(-54%)、建設業界(-35%)であると発表した。一方、銅鉱業とその輸出(+83%)、運河の通航(+18%)、コンテナ取扱量(+7.5%)が伸び、2021年のGDPは前年同期比9%~12%増加すると予測している。

 しかし、商工農会議所(Cámara de Comercio, Industrias y Agricultura, CCIAP)は、経済的危機が医療危機を上回っているため、外出禁止命令の廃止と、企業の再開強化を求めている。全国民間企業協議会(Consejo Nacional de la Empresa Privada, CONEP)は、政府の新型コロナウイルス対策に対して、医療の観点だけではなく、経済的な影響も配慮すべきであると批判している。CONEPは、ワクチン接種計画に民間企業や私立病院の参加を提案し、対面授業を始めとし、様々な経済活動の再開を開始すべきであると主張している。また、パナマ企業経営者連合会(Asociación Panameña de Ejecutivos de Empresas, APEDE)は、外資投資を誘致するため、一定金額または不動産投資をする外国人が永住権を取得できるような制度を提案している。

IV.外交

A.国際貿易協定

パナマ外務省および海運庁と中国は、2017年11月に結ばれた海上運送協定を更新した。協定の有効期間は2026年まで延長され、パナマ籍船は中国の港を利用する際、手数料等が28%減少されると規定されている。バレーラ前大統領は2017年に台湾と外交関係を断った。しかし、中国政府から金銭的な支援を受けた疑いで、バレーラ前大統領に対する刑事調査が行われている。

 パナマとコロンビアは、7月21日に両国の電気相互接続に関する協定の基礎となる合意を結んだ。合意では、両国は、電気相互接続を実現するための原則、規則、一般規定を交渉する約束が規定されている。パナマとコロンビアの間には熱帯雨林に覆われているダリエン県があり、両国を繋ぐ通行路がないため、北米から南米まで縦断することができない。コロンビア政府は、かねてから、ダリエン県の熱帯雨林への通行路建設を求めているが、パナマ政府はこれを拒否している。

以    上