連載パナマ・レポート16: ルベン・ロドリゲス 2021年 8月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート16: ルベン・ロドリゲス 2021年 8月分


連載パナマ・レポート16: ルベン・ロドリゲス 2021年8月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I. 新型コロナウイルスの現状

 8月26日時点で、パナマにおける新型コロナ・ウィルスの感染者は454,330人、死亡者は7,023人、回復者は438,725人と確認された。1月中旬に開始した接種計画によって、8月下旬時点で提供されたワクチン数は400万回分を超えた。ワクチン接種は、病院、学校、ショッピングモールで行われ、若年層も積極的に参加している。7月中旬、一日当たりの新感染者数は1,000人を超えたが、8月下旬時点では700人になり、減少傾向を示している。なお、死亡者数は一日当たり10人前後となっている。コスタリカでは感染者数が増加し、毎年コーヒーの収穫時期に伴なって先住民が両国間を移動するため、保健省はコスタリカに接しているチリキ県で新型コロナ・ウイルスの防疫措置対策を強化すると発表した。

 8月14日、コルティソ大統領はワクチンを接種しない国家公務員は無償休暇の対象となることを検討すると述べた。これに対してオンブズマンは、患者法の規定によってワクチンの接種は個人判断で行われるべきだと反論している。パナマ政府は2021年内の集団免疫獲得を目指している。

Ⅱ.政治

A.内閣記録の封印

 政府は8月21日、内閣記録へのアクセスを記録作成から10年間制限することを発表した。政府は、透明法(Ley de Transparencia)の規定を根拠とし、コルティソ大統領と内閣の大臣が参加した会議の記録は制限され、国が当事者となっている契約についての議論は制限対象外とされている。ただ、これらの記録へのアクセスを制限する理由が明記されていない。政府の決定に対して、野党、無所属議員、弁護士を始め、批判の声が上がっている。

B.鉱業契約の更新交渉

政府は、カナダのFirst Quantumを管理しているMinera Panamáとの契約を再交渉する準備をしている。1997年の法律はMinera Panamáに採掘権を与えたが、最高裁判所の2017年判決によって違憲だと判断された。1997年の法律によって結ばれた契約においては、政府には、土地の利用費と、企業収入2%を受ける権利があるとされている。1997年から、土地の利用金は年約4万ドルで、2019年から2021年の間、Minera Panamáは約25億ドルの利益の中、政府にわずか3500万ドルしか渡していない。会計検査院は、2021年1月から3月31日までの銅鉱業とその輸出は前年同期比+83%増加したと発表している。

C.対面授業の再開

教育省は、6月から生徒数が少ない一部の学校で対面授業を行い、感染防止対策によって新型コロナウイルスの感染が確認されず、90%の小中高の教員がワクチンを接種したことを根拠とし、8月19日から対面授業の再開を発表した。対面授業の再開に対して、教員労働組合の意見が分かれ、生徒の教育および精神的な状態を第一にし、対面授業を行うべきと言う組合に対して、再開の科学的な根拠がないと主張する組合がある。2021年2月時点において、オンライン式の授業は220日間以上継続したため、世界最長と言われている。

Ⅲ.経済

A.政府の歳入

 経済財政省は、2021年上半期の公的部門の歳入は、約52億ドル(前年同期比約12億ドル増)まで上がったが、歳出は、約75億ドル(前年同期比約11億ドル増)であったため、赤字が20億ドル(前年同期比約5,000万ドル減)となった。また、歳入局(Dirección General de Ingresos)は私的部門・公的部門を問わず、2021年上半期の歳入は、予測された25億2,100万ドルを超え、32億1,600万ドルであった。 また、2021年1月から7月の間のパナマ海運庁の歳入は、約1億1,100万ドルであり、2020年の歳入から38%増加し、予測された歳入の35%を上回っている。会計検査院は、2021年のGDPは前年同期比9%~12%増加すると予測している。2021年1月から3月31日まで銅鉱業とその輸出(+83%)、運河の通航(+18%)、コンテナ取扱量(+7.5%)が数字が伸びた要因である。

 歳入局は、2020年12月31日の納付期限の所得税等遅延税の支払期限締切りは、2021年8月31日までとなっているため、個人・法人を問わず申請するように声かけている。免除制度では、85%までの遅延税は免除され、歳入局に対して金銭的な債権を持つ者は、所得税との相殺も請求することができる。免除制度は二年継続したため、現時点では更に延長する予定がない。

IV.外交

移民問題

8月上旬にパナマとコロンビアは、近年悪化している移民問題について協定を締結した。2021年8月時点までコロンビアに接しているダリエン県からパナマに入国した移民は、約5万人を超え、2016年から2020年までの累計人数を上回り、パナマ政府が設立した移民支援センターでは対応できなくなってきている。両国が結んだ協定により、一日にパナマに入国できる人数が限られ、組織犯罪防止も目的としている。

以    上