『マホガニー -私の最期の時』 エドゥアール・グリッサン - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『マホガニー -私の最期の時』 エドゥアール・グリッサン 


フランスの海外県であるマルティニック生まれの、カリブ海文化圏を代表するクレオール文学作家(1928~2011年)の原著は1987年に出版された。この小説は、一本の奴隷制時代に生まれた子どもの胎盤とともに植えられ、成長し逃亡ののち銃殺されたその子どもが埋葬されたマホガニーの木を主舞台にしている。どのような逃亡生活を送り、最後にマホガニーの木のもとに逃れてきた物語から始まり、逃亡奴隷として生きた者、犯罪者にされた者など、時を超えて無数の声なき声とともに生きたマホガニーが語る新たな歴史、闘争と逃走の叙事詩。

1635年にフランス領とされた小さな島で奴隷制が行われて、人々は奴隷制の下でどのように暮らし、その境遇に抵抗したり農園から脱走し原生林に逃げ込み捉えられ過酷な罰を受ける者も少なくなかった。忌まわしい集団の記憶は現代では抹消ようとしているが、この暗闇を数世紀生きてきた一本のマホガニーの巨木の根に身を寄せた時代は異なるが3人の逃亡者の物語を通じて「時の闇」の叙事詩を謡っているかのようである。

〔桜井 敏浩〕

(塚本晶則訳 水声社 2021年5月 245頁 2,500円+税 ISBN978-4-8010-0487-0 )