連載エッセイ119:硯田一弘 「南米現地レポート」その25 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ119:硯田一弘 「南米現地レポート」その25


連載エッセイ 116

南米現地レポート その25

執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)

9月6日発

今週は比較的穏やかな気候の週で、週はじめに満開になった黄色のラパチョの花もあっという間に散ってしまいました。ラパチョという樹はブラジルではイペと呼ばれ、ノウゼンカズラ科の樹木の総称で、7月下旬にピンク色の花を咲かせ、一か月程度咲き続ける種類から8月末から9月初めにかけて黄色の花のタイプに主役交代となるのですが、黄色の花の命は短く、僅か3日程度で落花し、あっという間に黒い樹肌だけを見せて散ってしまうはかない花です。これが終わると、別のピンクや白の花をさかせるタイプが登場し、9月末から10月にかけては紫色のジャカランダが豪華に咲き乱れることになります。

今日の言葉incendio、今週はアスンシオンではあまり煙は感じなかったのですが、隣のLuque市から郊外のSan Bernardino市に至るルートの原野が火事になっていたようです。

また、隣国ボリビアでは平野部を中心に百万ヘクタールもの面積が焼けたとの記事が出ています。https://www.abc.com.py/internacionales/2021/09/03/cerca-de-un-millon-de-hectareas-danadas-por-incendios-en-el-oriente-boliviano/

百万ヘクタール=1万㎢という面積もピンとこないと思いますが、日本で7番目に広い岐阜県の総面積(10,621㎢)に匹敵する面積が野火で焼けたということです。

これにブラジルやパラグアイ・アルゼンチンの面積を加えると、恐らく本州に相当する程の森林が野火の影響を受けているものと思われます。ただ、こうした記事が出ると、野火に遭った地域が再生不能状態になったと勘違いする報道も出てきますが、実際には人雨降ると焼けた樹々も椰子の樹も、また下草も見事に組成して直ぐに新芽を吹くので、また素晴らしい緑色の大地に戻ることは確実です。

そういえば、今週も注目の記事が掲載されました。

「En Argentina destacan a Paraguay como el destino ideal para inversiones inmobiliarias」(アルゼンチンではパラグアイの不動産投資熱が際立っている)という記事で、政治・経済両方ダメダメなアルゼンチンの富裕層が資産保全の為にパラグアイの不動産投資を積極的に進めているという記事です。

https://foco.lanacion.com.py/2021/09/04/en-argentina-destacan-a-paraguay-como-el-destino-ideal-para-inversiones-inmobiliarias/

こうした外国の資産か向けに竣工している高級高層アパートのひとつ、Palacio de Los Patosも噂によるとアルゼンチン副大統領のクリスチーナ・キルチュナー女史がプロジェクトオーナーになっているそうです。
https://www.facebook.com/watch/?v=2254975811421529

ところで、今週ブラジルで狂牛病の再発が報じられ、これに対応してブラジル政府は中国への輸出停止を発表しました。https://www.telesurtv.net/news/brasil-suspende-exportacion-carne-china-caso-vaca-loca-20210904-0018.html

ブラジルは年間1千万トンの牛肉を生産する世界第二の生産国ですが、8百万トンを自国で消費する世界第三位の消費国でもあります。一方、自国生産が7百万トン・消費が1千万トンの中国にとってブラジルは最大の牛肉供給国であり、この供給源が停まることになると、当然買付の矛先はアルゼンチン・ウルグアイに向けられることになり、5月にアルゼンチンが自国内供給を確保する為に一時輸出を停止した努力も振り出しに戻り、牛肉市場は大きく炎上することも懸念されます。

9月13日発

米国の同時多発テロ発生から20年目を迎えた11日、ブラジルで世界大手のセメント会社であるスイスHolcim社がブラジルの事業を売却したとのニュースが報じられました。

https://www.europapress.es/economia/noticia-holcim-vende-negocio-brasil-866-millones-brasilena-csn-20210910132903.html

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1100L0R10C21A9000000/

建設を支える重要資材であるセメントは、パラグアイでも需要が伸びていて、現在三社が合計約130万トン製造していますが、前大統領率いるカルテスグループが最新鋭100万トン能力の工場を建設中で、これが加わるとパラグアイのセメント需給バランスは大きく改善され、輸入への依存度が大きく減ることになります。

アスンシオン近郊のVilletaにあるINC=国立セメント工場

同じく国立セメントのVallemi工場

現在最も新しい民間資本のYguazuセメント工場

新しいセメント工場CECON=Cementos Concepcionの紹介ビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=uijikgzbpWk

因みに日本は世界第十位のセメント生産大国で、年間約56百万トンのセメントを生産しているようです。国別のセメント製造量では、中国が22億トンと抜きんでて多く、インド・米国が次いでいます。パラグアイは人口一人当たりのセメント消費量=約200㎏であり、日本の370㎏に比べてもまだまだ成長余地のある産業と言えます。

Holcimのブラジル市場撤退のニュースは、長期的な不景気から抜け出せない隣国の苦境を象徴する動きである一方、パラグアイやボリビア等の新興国の成長可能性について見直すべきキッカケを提供してくれたものと思います。

9月20日発

拙宅のアパートでは炊事も風呂も電気を使っていますが、戸建て住宅の多いパラグアイでは、シャワー用温水は電気で沸かす一方、炊事用にはボンベに入ったプロパンガスを使う家庭が多い様です。今週は、その家庭用プロパンガスが値上げされるというニュースが流れました。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2021/09/14/nuevo-reajuste-del-precio-del-gas-600-guaranies-por-kilo-y-300-por-litro/

キロ当たり600ガラニ=約10円、1リットル当たり300ガラニの値上げということ。

この値上げによって10㎏ボンベ一本のガス価格はおよそ9万ガラニ=1500円になるとのこと。実は7月にも800ガラニ/㎏の価格改定があったばかりで、調べてみるとガスの値段はかなり頻繁に改訂されています。因みに2019年4月の記事によると、当時67000ガラニから71000ガラニに値上げされたとのこと。

日本でも大都市圏以外ではプロパンガスが主体ですが、ボンベのサイズは50㎏、標準的な一か月の使用量を20㎥として地域差があるものの、概ね1万円前後というコストと言えます。1㎥が約2㎏ですから、20㎥=40㎏、ざっくり10㎏で2500円とすると、パラグアイの方がまだ四割ほど安い計算ですね。

パラグアイで消費されるガスは殆どが隣国ボリビアからの輸入品、国境に近いVilla Montesのガス田で産出されるガスをローリー車に積んで運ばれます。

今週は新しいアップル製品が発表されましたが、米ドルでは全機種の価格から据え置きとなった新型iPhoneですが、日本では為替レートの設定が120円/ドルを超えて価格が上がっています。いわゆるステルス値上げの一種であると思いますが、そうした報道は見当たりません。世界でも有数の頭脳集団であるアップル社が、今後の日本円は米ドルに対して下落する、とみている証拠でしょう。

新型コロナによる物流の停滞や天候不順による農作物への影響などから色々な価格の改定=値上がりが目立ってきています。ドル建てで値上がりした原材料の価格が、更に円安効果を伴うと、円建てでは大幅な価格改定を余儀なくされることが予想されます。

世界的にワクチン接種が進み、コロナ感染の程度はこれまでよりは緩和されているように見えますが、経済を取り巻く環境は厳しい状況から抜け出していない今、必需品の優先順位を如何につけるか?も考慮すべき時期を迎えているように思います。

9月27日発

先月末日本でも音楽フェスでの大群衆が大問題になりましたが、制限緩和が始まったパラグアイでもあちこちで無防備な群衆が発生していると報道されています。以下の写真は首都近郊の町での選挙活動の際に集まった群衆。

パラグアイは10月10日に迎える市長と市議会議員の統一地方選挙本選を前に、国内の至る所で選挙運動が展開されており、こうした選挙集会によって渋滞が発生する場面も確認されています。実は各紙の今日のトップニュースは、昨日パラグアイでは新型コロナによる死者がゼロとなった、というもの。ワクチン接種の進行と共に少しずつ日常を取り戻し始めています。

コロナ禍の行動規制は他の南米諸国でも緩和の方向にあるために、パラグアイ以外でも群衆(aglomeración)に関するニュースを目にすることになっています。

ペルーの首都リマでは、図書祭りで群衆発生。文化レベルの高さを感じさせます? この人達、本を買いに来たというよりもイベントに参加したタレントを写真に収めるのが目的だったようです。Gestionというペルーでも高級紙のカテゴリーに入る新聞の電子版で、動画ニュースも貼り付いていて、その中で中継しているアナウンサーが「群衆に関する映像素材があったらWhasAppで弊社に送って下さい」と勧誘しているセリフが入っていて、マスコミが群衆を煽っているようにも見える報道です。また隣国ボリビアでもコチャバンバ州の大学の学園祭が開催されて、衛生管理不行き届きな群衆が発生した、と報じています。

一方、昨年はコロナ禍で中止された毎年6月恒例のパラグアイ牧畜祭りが今週開催されました。

5月にアルゼンチンが国内市場優先の為に一時輸出を中断したり、ブラジルで今月狂牛病騒動が発生したこと等も受け、パラグアイの牧畜産業への注目度は最近益々高まっていますが、パラグアイの主要な牛の品種であるNelore種への需要も旺盛となっている
という明るいニュースです。

今週は南半球の春分の日を迎え、比較的穏やかな日和の日々でしたが、雨は降らず、パラグアイ川の水位は遂に史上最低のマイナス55センチを記録したと木曜に報じられ、土曜日にはマイナス61センチにまで下がりました。昨年のマイナス46センチを大幅に更新する低水位、物流への悪影響は避けられない状況です。

そういえば、昨年3月以来一年半に亘って閉鎖されていたアルゼンチンとの国境が10月1日から再開されることになりました。ブラジルとの国境は昨年11月に再開していましたので、アルゼンチンは本当に慎重だった訳ですが、漸く人の動きも元に戻る訳で、世界の動きも元に戻ることを期待したいものです。

また、今日の報道で新型コロナによる死者がゼロになったとのこと。
https://www.abc.com.py/nacionales/2021/09/25/historico-primer-dia-sin-fallecidos-por-covid-19/ 更に大幅に遅れていたロシア製ワクチンが到着、漸く二回目の接種が可能になったとの報道もあります。

https://www.ultimahora.com/lo-mas-esperado-se-registra-un-dia-muertes-coronavirus-n2963365.html

もうひとつ、医療従事者の時間外労働が賃金に反映されていないことなどを理由に来週火曜から一部の従事者がストライキを予定しているとのこと。

https://www.lanacion.com.py/pais/2021/09/25/suman-3800-medicos-que-iran-a-huelga-desde-el-martes/

コロナ関連に関しては状況改善のニュースが続いてますが、再度の拡大をもたらさない為に、高名の木登りの如く、引き続いての細心の注意が必要です。

以    上