近世の始まりといわれる大航海時代(欧米では(地理的)発見の時代と言っている)を担った3人のポルトガル人、初期のエンリケ(航海)王子と中期の航海者ガマとマゼランの生き様を簡潔に描いた、小冊子ながら充実した歴史解説書。
ポルトガルではエンリケの主導でスペインに先んじてアフリカからアジアに到達する試みがなされ、ヴァスコ・ダ・ガマによってアフリカ南端の喜望峰を通ってインドへの航路が確立された。この海上拡大への意欲とスペインとの覇を競う背景の中から登場したマゼランは、ポルトガル北部に生まれ後に変節してスペイン王に忠誠替えをして西回りでアジアの香料諸島へ向かうという大遠征隊を率いることになった。
彼はコロンブスの小さな地球観を乗り越えて、南米南端の後にマゼラン海峡と名付けられた岬を越えての南太平洋での航海はかなり長くなると予期していた。その航海の果てにフィリピン先住民にスペイン支配とキリスト教の受容を性急に迫ったため戦死したが、残った部下達は目的地モルッカ諸島へ到達した。
大航海時代の3人を取り上げているが、その時代背景、王をはじめとする関係者の思惑、ガマとマゼランの王を相手にした交渉などが描かれ、歴史は面白いことをあらためて実感させてくれる。著者はポルトガル史を専門とする京都大学教授。
〔桜井 敏浩〕
(山川出版社 2021年5月 120頁 880円+税 ISBN978-4-634-35047-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年秋号(No.1436)より〕