『生きている音楽 ―キューバ芸術音楽の民族誌』 田中 理恵子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『生きている音楽 ―キューバ芸術音楽の民族誌』  田中 理恵子


キューバの人々の混血という系譜があるが、芸術音楽(ラテンリズムとして一般大衆に親しまれている分野ではなく、所謂クラシック音楽の如き分野を指す)に携わってきた人々は白人系である。

その芸術音楽はスペインとアフリカの混合が作り上げた大衆音楽の伝統と相互に関わり、キューバの独立から独裁、革命の経験という歴史的過程で、革命政府が推すキューバ・イデオロギーの、一方で近年キューバ音楽産業がもたらす経済効果もハバナの人々が「キューバ音楽」の影響を認識して現在に至っている。著者は本書でキューバ芸術音楽の受容と展開、音楽家たちに見られる近年の社会変化の経験、芸術音楽実践の場での創出を観察してきた数々の事例と挿話を通じて、ハバナの生と音楽が深く響き合っている様相を明らかにしたいとしている。

国立音楽大学卒業後キューバ国立芸術大学客員研究員等を経た、文化人類学・音楽論を専攻する著者は、資本主義システムから距離を保つキューバ音楽はどのように存在するのか? 音楽の豊かさや貧しさはどのような状態なのか? に関心をもって観察してきたが、本書は2010年から17年のフィールドワークの経験から得た研究成果を纏めて東京大学大学院に提出した博士号学位論文に加筆修正したものである。

〔桜井 敏浩〕

(水声社 2021年7月 388頁 6,000円+税 ISBN978-4-8010-0588-4 )
 〔『ラテンアメリカ時報』 2021年秋号(No.1436)より〕