『甘さと権力 -砂糖が語る近代史』 シドニー・W.ミンツ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『甘さと権力 -砂糖が語る近代史』  シドニー・W.ミンツ


蔗糖すなわち砂糖はサトウキビを栽培し絞り汁を煮詰めるのだが、産業革命時に工場生産が始まった初期から生産され、欧州でも甘味として17世紀頃から上層から庶民に至るまで急速に需要が高まった結果、世界各地で栽培するための広大な土地が求められ、そのために先住の住民が追い出される事例が多発した。

そのため世界商品となった砂糖は、生産国を大口輸入する消費国に経済的に隷属させることとなった。「新世界」ではスペインと英国が砂糖生産の先駆者となり、カリブ海でサトウキビ栽培のためのプランテーションと砂糖プラントを設けて「砂糖諸島」化し、さらにその生産形態はシステム化し世界各地に広まった。当初は特権階級のステイタスの象徴でもあり薬屋で取り扱われた砂糖だったが、普及するにつれ消費が拡大し労働者の栄養源にもなっていった。しかし紅茶に砂糖を入れるなどの人々の生活の変化の歴史は、工業化の押しつけや領土、貿易をめぐる帝国主義の拡大にも繋がった。

著者は、米国の人類学者で主にカリブ海地域を対象として調査・研究してきた。この主にカリブにおけるサトウキビ栽培、砂糖生産がもたらした功罪の歴史研究が、世界の経済史、歴史研究者に大きな影響を与えたと評価されている名著の訳書。

〔桜井 敏浩〕

 (川北稔・和田光弘訳 筑摩書房(ちくま学芸文庫) 2021年5月 528頁 1,500円+税 ISBN978-4-480-51048-8 )
 〔『ラテンアメリカ時報』 2021年秋号(No.1436)より〕