これまで日本の世界史教科書では、文明は温帯の大河のほとりで貯蔵可能な小麦もしくは米のような農生産物余剰のある地で発達するとされており、それ故に、エジプト、メソポタミア、インダス、黄河流域を四大文明と呼んでいるが、本書ではアンデス、メキシコ、チベット、エチオピアの高地に発達した「もう一つの四大文明」があったことを、現地調査の積み重ねから明らかにしている。いずれも見るべき大きな河川はない熱帯の海抜2000~3000mの高地にあるが、数多くの種類の植物を栽培化し家畜飼育を発達させ、都市が成立して宗教も発達した高度な文明があった。大河が運ぶ大量の肥沃な土壌がなくても、現地の条件に適合した多様な食料となる植物を育て食料の貯蔵技術をもち、高地が病害な少ない健康地であり住みやすいところから、高度な文明を興すことが出来たことを指摘している。
トウモロコシを中心に壮大なアステカ文明を開化させたメキシコ中央高原、ジャガイモが生んだインカ帝国に至るアンデス高地、青稞(チンコー、大麦の一種)とヤク(チベット原産の牛)そしてチベット仏教によるヒマラヤ山脈の北側のチベット高原、固有の穀物テフ、バナナ科の葉柄のデンプンを発酵させるエンセーテや大麦によって農耕文明を開化させたエチオピア高原への度重なる長年の現地調査によって、説得力のある、これまでの歴史書での先入観を覆す新説を展開している。
(さらに現地事情に関心あれば、著者編の調査報告『熱帯高地の世界 -「高地文明」の発見に向けて』(ナカニシヤ出版 2019年。本誌2019年秋号で紹介 https://latin-america.jp/archives/40697 )と合わせ読むことをお薦めする。)
〔桜井 敏浩〕
(中央公論新社(中公新書) 2021年6月 336頁 1,050円+税 ISBN978-4-12-102647-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年秋号(No.1436)より〕