著者はメキシコのチワワ州生まれの作家にして政治家。メキシコ革命が勃発して1913年に蜂起した貧農出身のパンチョ・ビジャ率いる北軍に合流し文民として顧問役を務めたが、同じく反旗を掲げた農園領主のカランサやオブレゴンからは目の敵にされ、革命政権発足後も何度も政争に巻き込まれてスペイン、米国に二度の亡命を余儀なくされ、この間を自国を客観的に見直す機会として文筆に励んだ。帰国すると相変わらず政治の世界で妥協を知らず理想に邁進する姿勢から、各派に政敵と目され狙われたこともしばしばあったが、1934年に就任しラサロ・カルデナス大統領の要請で帰国した後は政界でも文壇でも一目置かれる重鎮になった。
本書は、1919年にマドリードで出版され、「ボス」はオブレゴンを描いており、登場人物も彼の側近をモデルにしている「メキシコ革命小説」で、革命直後の政治動乱期に権力闘争に巻き込まれた人間の悲哀を描いている。本書の巻末には著者(1887~1976年)のその時々の世界とメキシコの情勢、文学作品とともに整理した年譜と訳者(20世紀ラテンアメリカ文学を専門とする早稲田大学教授)の懇切な訳者解題が付いていて、この作品の理解を助けてくれる。
〔桜井 敏浩〕
(寺尾隆吉訳 幻戯書房 2020年10月 360頁 3,600円+税 ISBN978-4-86488-206-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年秋号(No.1436)より〕