連載エッセイ124:硯田一弘 「南米現地レポート」その26 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ124:硯田一弘 「南米現地レポート」その26


連載エッセイ 121

南米現地レポート その26

執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)

10月4日発信

いよいよ2021年も最終四半期の10月を迎えました。

今日10月3日から、パラグアイではサマータイムが適用され、時計を1時間進めて、日本との時差は12時間になりました。日本人は1月1日に雑煮を食べて正月を祝いますが、パラグアイでは10月1日にJopará(或いはYopará ジョパラ)という煮込み料理を大量に作って振舞う習慣があります。このJopará、沢山つくることに意義があるようで、この日はフェイスブックやインスタグラムにも数多くの自家製Joparáを自慢する写真が掲載されていました。

以前もコロナの行動制限によって多くの人達が日々の食事に困る事情となった際に多くの人が社会鍋の奉仕活動を行って困窮した人達を救済する活動を行ったという情報をお伝えしましたが、Joparáもそうした社会奉仕活動の伝統の一つであると考えられます。そもそも、こういう料理を作る大鍋が至る所で見られるというのも、相互扶助精神の強い南米ならでは、という印象を持ちますが、こんな風習は世界中に広まっても良いように思いますし、パラグアイの良き伝統としてこれからも続いてゆく事を期待します。

ところで、今週水曜日は前半議会による土地の不法侵入阻止決議に反対した原住民による抗議運動で、国会周辺で複数のクルマが放火されるなど、キナ臭い動きで渋滞が発生しました。金曜日には学校の先生たちが待遇の改善を要求してデモを行い、騒然とした雰囲気となったようです。公立学校はいよいよ週明けに再開の運びとなったようですが、教員組合の抗議行動が続くと宙ぶらりんな状態が継続するという懸念もあるようです。

10月1日、ベネズエラでは通貨が六桁=100万分の一になるデノミが実行されました。
https://www.afpbb.com/articles/-/3369068

これは以前もお伝えしましたが、南米で一番豊かだった国が、政治の混乱によって世界でも類を見ない貧しい国に成り下がった事を象徴する事例です。今や国民の76%が極貧レベルに陥っているという悲しいニュースも報じられました。良い文化を継承する為には、原住民の生活を保護する事や、教育の中心となる教員の待遇をシッカリと保証するのが政府の重要な仕事であると思います。

土地の不法占拠問題は、先住民の視点からすると、もともと彼らが居住していた土地を後から来た西洋人が勝手に国を作って所有権を主張した、ということのようですし、教員の待遇についても雇用者である国や自治体の予算との絡みもありますので、一概に誰が良い悪いという話にはなりませんが、豊富な資源を持つ国が利権をめぐる争いの結果、極貧の国に成り下がる現実も南米にはありますが、こうした事例は世界中の国々が他山の石として国制度の改良の為に学習して貰いたいと考えます。

10月11日発信

今日10月10日はパラグアイの統一地方選挙の投票日。全国で261の市長ポストを巡って814人が立候補、2,781の市議会議員ポストには30,802人が立候補して激しい選挙戦を繰り広げてきました。首都アスンシオンでは4人の市長候補が立候補して成長著しいパラグアイの中心を如何にリードするか、という点で色々な政策を打ち出して個性を競っています。

有力候補とされているのは2019年に前市長Mario Ferreiro氏(62歳)が汚職疑惑で検察から起訴されたて辞職したことを受けて暫定市長として活動してきたNenechoことOscar Rodriguez氏(40歳)と、野党連立候補で日系のEduardo Nakayama氏( 42歳)。いずれにしても若い力が今後の首都を大いに盛り立ててくれることに期待します。ただ、今回の選挙をめぐっては、既に地方都市で10万グアラニ(約1,600円)で票を買った云々という生臭い報道もされており、今後の検察の動きも気になるところです。

一方、パラグアイの若手テノール歌手Juan José Medinaがパリの自宅バルコニーで歌声を披露する記事が目に留まりました。30歳のMedinaはこの記事の映像では遠くから撮影した為に美声が聞き取れないので、もうひとつ、彼のFacebookからパラグアイの民謡Mis noches sin tí(あなたのいない夜)を謳うシーンもご覧ください。 
https://www.facebook.com/watch/live/?ref=watch_permalink&v=881114165689537

ところで、劇画というジャンルの創始者であるさいとうたかお氏が先週亡くなりましたが、その代表作『ゴルゴ13』はさいとうプロによって引き続き執筆されており、最新作がパラグアイ関連の作品であることを複数の先輩達から教えて頂きました。早速電子版を購入してみたところ、日本企業が開発した水稲の新品種をパラグアイで大規模栽培し始めたところ、それを妨害する中国企業による工作が仕組まれ、種子開発会社の日本人社員が何故かロシアの検察に追いかけられるという筋書きで前編が終わっています。まだこの話は中編・後編へと続きますので、これからが楽しみです。

10月18日発信

先週日曜日に行われた統一地方選、アスンシオン市長は現職の暫定市長が当選しました。豊富な資金力のあるカルテス前大統領を後ろ盾にしたNenecho Rodriguez氏が正式に市長となったものの、日系のNakayama氏も得票差5%と善戦し、次回の選挙に期待が持てる結果となったと思われます。

10月も半ばになり、いよいよパラグアイ年末最大の行事であるCaacupe大教会への巡礼の季節となってきました。昨年は新型コロナの影響で巡礼も礼拝も中止になったのですが、感染拡大が落ち着いてきた今、どのように行事を実行するのか、が大きな課題となっています。そこで出てきたのがワクチン接種証明書提示の要請義務化のアイディア。
https://www.lanacion.com.py/pais_edicion_impresa/2021/10/13/exigiran-tarjeta-de-vacunacion/

これがpase verdeと呼ばれるパラグアイのワクチン接種証明書ですが、巡礼や礼拝に参加するには、この証明書の提示を義務付けるほか、公共の場所でもワクチンパスポートとして提示を求める方向で検討が進んでいます。ただ、10月15日現在でのワクチン接種率が30%に満たない状況でもあり、接種をしたくても出来ない人が多く居る現状で、斯かる義務が定着できるのか?については疑問の声も上がっているのは事実です。
https://datosmacro.expansion.com/otros/coronavirus-vacuna/paraguay

一方で、こうしたワクチン不足を補う為に、重要な同盟国である台湾政府が独自のワクチンを提供するというニュースも流れました。旅行などにおいては、EUで導入されるワクチンパスポートが南米でも使われるという説もあり、政府の今後の対応に注目が集まっています。
https://www.hoy.com.py/nacionales/clinicas-inicio-las-pruebas-de-la-vacuna-taiwanesa

日本でも緊急事態宣言や蔓延防止措置が解除され、人の流れがコロナ以前のものに戻りつつありますから、感染拡大が引き続き抑えられ、普通の暮らしが戻ることに期待せずにはいられません。La Nacionでは、ラテンアメリカ地域内でパラグアイの経済指数が一番高いとの記事が掲載されています。
https://www.lanacion.com.py/negocios/2021/10/16/paraguay-cuenta-con-el-indice-de-clima-economico-mas-alto-de-la-region/

長引くコロナ不況の中でも、パラグアイの通貨Guaraniは米ドルに対して堅調に推移していますが、隣国アルゼンチンやブラジルの通貨はコロナ禍の中で大幅に価値を下げています。過去5年の変化を見ると、どの通貨も一方的な右肩上がり=通貨安にみえますが、注目すべきは右端の換算レート。パラグアイ通貨の下落率は、アルゼンチン・ペソ560%、ブラジル・レアル92%に比して、パラグアイ・グアラニは31%となっています。この結果として、アルゼンチンやブラジルからの密輸鶏肉がパラグアイ生産者を悩ませています。
https://www.ultimahora.com/contrabando-carne-aviar-el-parana-sigue-imparable-el-este-n2966928.html

世界経済が混とんとする中、色々な物価の上昇が懸念されますが、食糧生産大国パラグアイへの投資が益々注目されることになります。食のpase verde確保のためにも、是非パラグアイにお運びください。

10月25日発信

トヨタ自動車販売会社であるToyotoshi S.A.がパラグアイのTV広告史上初のハリウッド大物俳優を起用してのCMを作製しました。題して「Toyota Indestructibles」(トヨタは永久不滅)

画面に小さく映っているのは豊歳マルセロ社長、トヨタ自動車の章男社長同様、レーサーとしても活躍するプロドライバーでもあります。

チャコ地方というパラグアイ西部の大平原の一軒家でくつろぐブルース氏に18時までに整備工場に来て欲しいという電話が入ります。時計は4時4分を指しており、二時間弱でアスンシオンに着かなきゃイケナイという無茶な連絡。
慌ててハイラックスに飛び乗り、悪路を走破、途中でチャコラリー(トヨタ車が常勝のパラグアイ版パリダカ)参戦中の豊歳社長たちに挨拶をし、一気にアスンシオンまで駆け抜けて18時ピッタリに整備工場に到着、流石数々のアクション映画をこなしてきた大物ブルース氏、最後はサインを決めて革ジャンを背に歩き出す。カッコいい!と思ったら大物俳優、実はアルゼンチンから来たソックリさん。
https://www.hoy.com.py/virales/la-venida-del-doble-de-bruce-willis-a-paraguay-causa-furor-en-las-redes-sociales

この宣伝で紹介されているハイラックスというピックアップトラックもトヨタのアルゼンチン工場製です。
https://www.toyota.com.ar/

このコマーシャルが今週オンエアされると絶賛上映中の007新作やパラグアイでも人気No.1になったNetflixのイカゲームを凌ぐ人気を博しています。実はトヨトシは永年に亘ってパラグアイ映画への協賛を続けており、以前もLos Buscadores(探索者達)という冒険アクション映画へのスポンサーとなって、映画を題材にした独自のCMを流して話題になりました。 

一方、トヨタと販売台数を競うFolksVagen社は、10月が乳がん撲滅を目指すピンクリボン月間であることから、ピンクのラッピングを施した新車を展示して、街角の話題となっています。

モータリゼーションの波が押し寄せているパラグアイでは、ベンツやBMW、アウディ・ボルボ・ポルシェ・マセラッティといった欧州の高級車種メーカーも人気を博していて、クルマの車種だけ見ると、アスンシオン市内は東京の六本木や名古屋の栄あたりのようなバブルな雰囲気を醸し出しています。

ところで、今週は何故かベネズエラの故チャベス大統領が当地のメディアに沢山登場しました。
https://www.lanacion.com.py/politica_edicion_impresa/2021/10/22/riera-plata-chavista-puede-tumbar-a-lugo/
https://www.ultimahora.com/chavismo-financio-lugo-y-otros-lideres-segun-ex-militar-n2967408.html

その理由は、ベネズエラ政府の元高官が中南米の左派政権を支援する為に過去15年間にわたってチャベス政権がブラジル・アルゼンチン・ペルー・ボリビア・パラグアイ・ホンジュラス・コロンビア各国やイタリア・スペインの左派政党に闇献金を送ってきたとスペインで証言したことが暴露されたからです。
https://www.perfil.com/noticias/politica/un-ex-jefe-de-inteligencia-de-hugo-chavezaseguro-que-su-pais-financio-al-gobierno-de-nestor-kirchner.phtml


↑2008年から12年までパラグアイの左翼政権を率いたLugo元大統領とチャベス氏

チャベス氏自身は2013年に亡くなっていますが、死して尚各国政府を揺るがすスキャンダルに登場するあたり、こちらも永久不滅のキャラクターと言えそうです。一方、パラグアイでは極端な左翼的政策が社会から受け入れられず、任期半ばにして失脚したLugo氏ですが、今でも一部大衆層から支持を受けているものの、先の市長選に立候補した娘婿が不正蓄財をしていた可能性ありと報じられて窮地に立たされています。
https://www.abc.com.py/nacionales/2021/10/22/yerno-de-oro-justifico-crecimiento-con-empresa-que-nunca-declaro/

トヨタの四駆は永年に亘る悪路走破性能の積み上げで圧倒的な人気を博しており、2010年頃ベネズエラでも旧型のランドクルーザーの現地生産を取りやめる方針が出た途端にチャベス氏が製造を継続するようベネズエラ・トヨタに命令した経緯があるほどですが、政治家が永久不滅な支持を得ることは簡単ではなさそうです。

日本も衆議院選挙の真っただ中ですが、私利私欲の為でなくindestructibleな国家作りの為に頑張る政治家の登場を待ちたいですね。