執筆者:桜井 悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
このシリーズも10回目になった。今回取り上げるのは、「ラテンアメリカの著名作曲家」である。このテーマの選択に当たっても難しい問題に直面する。ラテンアメリカは欧州諸国と異なり、クラシック音楽の著名な作曲家が少ない。私がすぐに思いつくのは、ブラジルのエイトール・ヴィラ・ロボス、キューバのエルネスト・レクオーナ、メキシコのマヌエル・ポンセ、タンゴの革命児ではあるがクラシックも手掛けたアルゼンチンのアストール・ピアソッラくらいである。そこで、第一部として、ウエブサイトから取った下記の2つのリストを参照にして、著名作曲家を紹介する。表1の17名に加え、表2のダブリ及び米国籍の作曲家を除いた7名の合計24名を国ごとに取り上げる。第二部では、我々に比較的馴染があり、多くの日本人が知っている、あるいは聞いたことがあるポピュラーなラテンミュージックとその作曲家をリストアップする。ほとんどすべての曲目はYouTubeで聞けるので、ご関心のある方は、お試しいただきたい。
表1 「18 Latin American Composers You Should Know — Besides Astor Piazzolla」
By Ella HarpsteadSeptember 15, 2020
作曲家名 | 国籍 | 作曲家名 | 国籍 |
Ricardo Castro (1864-1907) | メキシコ | Manuel Ponce (1882-1948) | メキシコ |
Agustín Barrios Mangoré (1885-1944) | パラグアイ | Heitor Villa-Lobos (1887-1959) | ブラジル |
Ernesto Lecuona (1896-1963) | キューバ | Silvestre Revueltas (1899-1940) | メキシコ
|
Carlos Chávez (1899-1978) | メキシコ | Alberto Ginastera (1916-1983) | アルゼンチン |
Leo Brouwer (1939-) | キューバ | Paquito D’Rivera (1948-) | キューバ |
Ricardo Iznaola (1949-) | キューバ | Arturo Márquez (1950-) | メキシコ |
Sérgio Assad (1952-) | ブラジル | Roberto Sierra (1953-) | プエルトリコ |
Gabriela Montero (1970-) | ベネズエラ | Gabriela Lena Frank (1972-) | 米国籍 |
Astor Piazzolla (1921-1992) | アルゼンチン |
表2 「14 of the Most Influential Latin American Composers of the 20th Century」
作曲家名・国籍 | 作曲家名・国籍 |
1. Cacilda Borges Barbosa [Brazil] | 2. Leo Brouwer [Cuba] |
3. Matilde Casazola [Bolivia] | 4. Alberto Ginastera [Argentina] |
5. Mozart Camargo Guarnieri [Brazil] | 6. Antônio Carlos Jobim [Brazil] |
7. Eunice Katunda [Brazil] | 8. Antonio Lauro [Venezuela] |
9. Jacqueline Nova [Colombia] | 10. Astor Piazzolla [Argentina] |
11. Manuel Ponce [Mexico] | 12. Baden Powell [Brazil] |
13. Silvestre Revueltas [Mexico] | 14. Heitor Villa-Lobos [Brazil] |
「メキシコ」 5名
インターネットで調べると、「5 Mexican composers you shold know on Cinco de Mayo」というページがあり、Manuel Ponce, Carlos Chaves, Silvestre Revueltas, Antonio Marquesの4名とここでは触れないGabriela Ortiz(1964年~)が入っている。
*リカルド・カストロ Ricardo Castro íéñáúóí íéñáúóí
1864年~1907年。メキシコの作曲家、コンサート・ピアニスト。ポルフィリオ・デイアス時代のロマンチック音楽の最後の音楽家と言われている。7歳~8歳の時から作曲を始める。1979年、メキシコ国立音楽院で学ぶ。1903年から06年まで、欧州のパリ、ロンドン、ベルリン、ブラッセル、ローマ等に滞在した。帰国後、メキシコ音楽院院長に任命される。代表作は、オペラ作品「Atzimba」、「ルーデルの伝説」La Leyenda de Rúdel、他多数のピアノ曲、交響曲等がある。
*マヌエル・ポンセ Manuel María Ponce
1882年~1948年。メキシコの作曲家、音楽教師、ピアニスト。メキシコ国立音楽院を卒業後、ボローニャとベルリンに留学。帰国後、メキシコ国立音楽院で教鞭を取る。その後、1925年に再度渡欧し、パリ音楽院で作曲を勉強、パリでアンドレス・セゴビアやヴィラ・ロボス等と親交を結ぶ。彼は、ギター曲、ピアノ曲、歌曲、室内楽曲、協奏曲、交響楽等広範囲な曲目を作曲した。代表作は、「Estrellita」、ギター協奏曲「南の協奏曲」Concierto del Sur、「ロマンチックなソナタ」Sonata Romántica、「南国のソナチネ」Sonatina Meridional等。
*シルベストレ・レブエルタス Silvestre Revueltas
1899年~1940年。メキシコのクラシック音楽の作曲家、指揮者、バイオリニスト。メキシコ国立音楽院、オースチンのセイント・エドワード・カレッジ、シカゴ音楽大学に留学。1929年、カルロス・チャベスに招かれ、指揮者助手を務め、チャベスと共にメキシコ音楽の普及に努める。スペイン内戦で義勇軍側に参加。代表作は、「Sensemaya」(キューバの作家ニコラス・ギジェンの詩から取ったもの)、「ガルシア・ロルカへの賛歌」、映画音楽としては、「Vámonos con Pancho Villa」、「マヤ族の夜」La Noche de los Mayas.その他管弦楽、交響曲等。
*カルロス・チャベス Carlos Antonio de Padua Chávez y Ramirez
1899年~1978年。メキシコの作曲家、指揮者、音楽教育家。ヴィラ・ロボスと並びラテンアメリカを代表する作曲家。メキシコの民族音楽、ネイテイブ・アメリカンの音楽、スペイン風メキシコ音楽という3つの特徴を持つ音楽を作り上げた。5つのバレエ音楽、6つの交響曲、4つの協奏曲。1つのオペラ、多数の声楽曲、ピアノ曲等を作曲した。代表作は、「交響曲第1番アンティゴナ』Sinfonía de Antigona、「交響曲第2番インデイオ」Simfonía India。指揮者としても米国、欧州、ラテンアメリカの著名オーケストラを指揮した。また1937年には、「来るべき音楽」その後「音楽と電気学」の2冊の著書を発表し、新音楽の考察に貢献した。1947年、メキシコ国立音楽院の院長に就任し、メキシコ国立交響楽団の創設、初代音楽監督としても活動した。
*アルトゥーロ・マルケス Arturo Márquez Navarro
1950年~ 。メキシコの現代音楽の作曲家。ネイティブ・メキシコのスタイルを彼の作曲に融合した。12歳の時にカリフォルニアに移住。その後メキシコ音楽院やカリフォルニア芸術大学で学ぶ。1994年に、「Danzón No.2」を発表。オーケストラで演奏される現代音楽の人気楽曲となっており、グスタボ・ドゥダメル指揮のシモン・ボリバル・ユース・オーケストラのプログラムにも取り入れられている。代表作は、ベラクルス地方の音楽を取り入れた「Danzón No1-No9」。2009年に「メキシコ芸術科学賞」を受賞。
「キューバ」 4名
*エルネスト・レクオーナ Ernesto Lecuona
1896年~1963年。世界的に有名なキューバの作曲家、ピアニスト、バンドリーダー。11歳で最初の作品を作曲、14歳でハバナ音楽院に入学、17歳で優等生として卒業。1916年に米国でデビューし、米国に定住、1930年代にバンド「レクオーナ・キューバン・ボーイズ」を結成し、米国、中南米、欧州を演奏旅行。クラシック音楽の他、ミュージカルや映画音楽等600曲の作品を残している。代表作は、「アンダルシア組曲」Suite Andalucía、「アフロキューバ組曲」Afro-Cuban Suite等々。日本人のほとんどが知っている曲目としては、「シボネイ」Siboney、「マラゲーニャ」Malagueña、「そよ風と私」The Breeze and I、「Always in my heart」Siempre en mi corazón(アカデミー賞にノミネートされた)等がある。
*レオ・ブロゥウエル Leo Brouwer
1939年~ 。キューバの作曲家、ギタリスト、指揮者。米国に留学、ハーヴァード大学やジュリアード音楽学校で学ぶ。彼の作品の多くはギターの独奏曲であるが、ギター協奏曲、オーケストラ曲、40本以上の映画音楽も手掛けている。代表作は、「子守歌」Canción de cuna、「11月のある日」Un día de noviembre、「黒いデカメロン」El Decamelon negro、「雨のあるキューバの風景」Paisaje cubano con lluvia等がある。キューバを拠点に活動しており、ユネスコのInternational Music Councilの名誉会員。
*パキート・デ・リベラ Paquito D’Rivera (1948-)
1948年~ 。キューバのアルトサックス奏者、クラリネット奏者、作曲家、バンドリーダー。12歳でハバナ音楽院に入学、1965年、17歳の時にキューバ国立シンフォニー・オーケストラと共演、1973年にジャズ、ロック、クラシック、キューバ音楽を融合したバンド「イラケレ」を結成した。1980年に米国に亡命、米国を拠点に活動する。彼の活動は目覚ましく、グラミー賞やラテン・グラミー賞を12回受賞。カーネギーホールでの公演の他世界の有名なシンフォニー・オーケストラと共演した。多数の栄誉を受けたが、2005年には、米国のNational Medal of Artsを受賞した。40種のソロアルバムを発表している。日本でも、2014年、国立音楽大学で公開レッスン、2018年には東京のブルーノートで公演を行っている。
*リカルド・イスナオーラ Ricardo Iznaola
1949年~ 。キューバのギターリスト、作曲家、作家、音楽教授。この世代の最も卓越したクラシック・ギターの一人。過去40年間で、4つの音楽賞を獲得、50以上の作曲を手掛け、4冊の書籍を出版した。過去32年間にわたって、米国のデンヴァ―大学のギター教授を務める。2016年には、Guitar Foundation of Americaの終身芸術業績賞を受賞している。
「アルゼンチン」 2名
*アルベルト・ヒナステーラ Alberto Ginastera (1916-1983)
1916年~1983年。アルゼンチンのクラシック音楽の作曲家で、ヴィラ・ロボスやマヌエル・ポンセと並び最も重要な作曲家と評価されている。ブエノスアイレス音楽院卒業後、タングルウッド音楽センターで学ぶ。1970年にヨーロッパに移住。作風も、第1期の「客観的愛国心」の時代、第2期の「主観的愛国心」の時代、第3期の「新表現主義」の時代と変わっていく。ピアソッラは、第1期の時代の弟子であった。作品の幅も、交響曲、オペラ、バレエ、室内楽、ピアノ曲、歌曲等広範囲に及んでいる。代表作は、「ピアノ協奏曲」Piano concerto No.1、オペラ曲「Bomarzo」、「アルゼンチン舞曲集」Danzas argentinas、歌曲「アルゼンチン民謡による5つの歌曲集」Cinco canciones argentinas等。小澤征爾や堤俊作も彼の曲目を演奏している。
*アストール・ピアソッラ Astor Piazzolla
1921年~1992年。アルゼンチンの作曲家、編曲家、バンドネオン奏者。アルゼンチンの伝統的なタンゴ界に革命を起こしたと言われている。タンゴを元にクラシック、ジャズの要素を融合し、Tango nuevoを生み出した。2021年は生誕100周年で、全世界で多くのイベントが開催されている。イタリア移民3世の子として、マル・デ・ラ・プラタに生まれ、3歳の時にニューヨークに移住、15歳まで過ごす。帰国後、アニバル・トロイロの楽団に入団、頭角をあらわす、1940年から5年間、上記ヒナステラに師事、音楽理論を学ぶ。1954年、タンゴの限界を感じ、フランスに行き、著名な作曲家で音楽教育者であったナデイア・ブーランジェ―に師事し、タンゴの重要性を認識する。代表作は、「リーベルタンゴ」Libertango、「アデイオス、ノ二ーノ』Adios Noñino、「ブエノスアイレスの四季》Las cuatro estaciones porteñas等々、バンドネオン協奏曲、映画音楽、五重奏団、六重奏団、八重奏団のための作品等も多数。生まれ故郷のマル・デ・ラプラタ空港は、Astor Piazzolla International Airportと名付けられている。
「ブラジル」 7名
ここでは、下記7名を紹介するが、インターネットで調べると、「Os 33 maiores compositores de todos os tempos, Rebeca Fuks, 2021年」8月)というページがある。以下紹介する。
作曲家名 | 作曲家名 |
Chiguinha Gonzaga(1847-1935) | Gilberto Gil(1942- ) |
Heitor Villa-Lobos(1887-1959) | Milton Nascimento(1942- ) |
Pixinguinha(1897-1973) | Caetano Veloso(1942- ) |
Ary Barroso(1903-1964) | Paulinho da Viola(1942- ) |
Cartola(1908-1980) | Tim Maria(1942-1998) |
Noel Rosa(1910-1937) | Chico Buarque(1944- ) |
Adoniran Barbosa(1910-1982) | Maria Bethania(1946- ) |
Luiz Gonzaga(1912-1989) | Belchior(1946- ) |
Vinicius de Moraes(1913-1980) | Aldir Blanc(1946-2020) |
Lupicinio Rodrigues(1914-1974) | Alceu Valenca(1946- ) |
Dorival Caymmi(1914-2008) | Toquinho(1946- ) |
Dona Ivone Lara(1921-2018) | Djavan(1949- ) |
Tom Jobim(1927-1994) | Rita Lee(1947- ) |
Tom Ze(1936- ) | Cazura(1958-1990) |
Badem Powell(1937-2000) | Renato Russo(1960-1996) |
Roberto Carlos(1941- ) | Marisa Monte(1967- ) |
Erasmo Carlos(1941- ) |
*エイトール・ヴィラ・ロボス Heitor Villa-Lobos (1887-1959)
1887年~1959年。ブラジルのみならず20世紀を代表する作曲家、指揮者、クラシックギターリスト、チェリスト。クラシックの技法とブラジルの民族音楽と融合させた。1923年に政府の奨学資金を得て、パリに留学、ヨーロッパでルービンシュタイン等に認められた。帰国後、1930年にリオの音楽院院長に就任。交響曲、ショーロ、映画音楽、バレエ音楽、管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、ピアノ曲、ギター曲等広範囲な領域で1,000以上の作品を創作した。代表作は、「ブラジル風バッハ」Bachianas Brasileiras(9つの楽曲を集めた組曲)。12の交響曲、17の弦楽四重奏曲等もある。日本でも良く知られている数少ないラテンアメリカの作曲家で、時折、ヴィラ・ロボスの演奏会も開かれている。
*モーツアルト・カマルゴ・グアル二エリ Mozart Camargo Guarnieri
1907年~1993年。ブラジルの作曲家。サンパウロ音楽院で作曲とピアノを学んだ。1940年代にアメリカでいくつかの重要な賞を受賞し、ニューヨーク、ボストン、シカゴ等で指揮を執る機会を得た。作曲は後半に及び、交響曲、協奏曲、カンタータ、オペラ、ピアノやバイオリン曲、50以上の歌曲がある。代表作は、「Symphony No1-No6」、「Piano concerto No1-No6」等がある。後にサンパウロ交響楽団の指揮者を務めた他、サンパウロ音楽院の教授として、ブラジル音楽界の発展に貢献した。
*カシルダ・ボルジェス・バルボーザ Cacilda Borges Barbosa
1914年~2010年。ブラジルのピアニスト、指揮者、作曲家。ブラジルにおけるエレクトロニクス音楽のパイオニアの一人。ブラジル国立音楽学校を卒業。1950年に最初のアルバム[Estudos Brasileiros para Canto]を発表し、それ以降、指揮者として活躍した。作品は、ブラジルを意識したものが多いが、オーケストラや室内音楽も手掛けた。代表作は、「Rio de Janeiro Suite for strings (1st & 2nd mov)他。1930年頃からヴィラロボスと活動を共にし、後にヴィラロボス・インスティトゥートのデイレクターを務めた他、リオ連邦大学の国立音楽学校の教授として後進の育成を図った。
*エウニーセ・カトゥンダ Eunice de Monte Lima Katunda
1915年~1990年。ブラジルのピアニスト、作曲家、指揮者、教育者。12歳でピアノ演奏デビュー。民族音楽と12音技法と結びつけた。クラシック、ソナタ、リリック等多くの作曲を手掛けた。とりわけヴィシニウス・ジ・モライスとの共作が多い。後に、ブラジリア大学で音楽学、リオ・デ・ジャネイロ音楽院で作曲を教えた。
*アントニオ・カルロス・ジョビン Antônio Carlos Jobim
1927年~1994年。ブラジルの作曲家、編曲家、ミュージシャン。20世紀のブラジルの代表的な作曲家でブラジル大衆音楽(MPB)のもっとも偉大な作曲家。ジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・ジ・モライスとともにボサノヴァの創始者。モライス、スタンゲッツやフランク・シナトラとの共演でも有名。代表作は、「想いあふれて」Chega de saudade、「イパネマの少女」A Garota de Ipanema、「A Felicidade」、「Desafinado」「ジェット機のサンバ」Samba de aviao、「波」Tide等々多数。リオのガレオン国際空港は彼の名前をとってアントニオ・カルロス・ジョビン国際空港と1999年に命名された。また2016年リオ・パラリンピックのマスコットは「トム」という名前である。
*バーデン・ポーウエル Baden Powell Aquino
1939年~2000年。ブラジルの音楽家、ギターリスト、作曲家。名前はボーイスカウトの創始者からとった。サンバ、ボサノヴァ、クラシックと広範囲な演奏、作曲を行った。19歳の時に、「悲しみのサンバ」Samba tristeを作曲した。その後、ヴィシニウス・ジ・モライスと共作で、1966年に「Os Afro-samba de Baden e Vicinius」を発表。1967年にベルリンで開催されたギターワークショップで、楽曲に対する独特のアプローチと奏法で一躍ヨーロッパ中に知れ渡った。オリジナル・アルバムも多数発表した。1970年と71年には訪日し、コンサートを行った。71年には、「Live in japan」を発表した。
*セルジオ・アッサード Sérgio Assad
1952年~ 。モロッコ系ブラジル人のクラシック・ギターリスト、作曲家、編曲家。弟のOdairと「アサッド兄弟」で出演することが多い。アンドレス・セゴビアの孫弟子。ピアソッラ、ヴィラロボス、ヒナステラの作品の編曲及び演奏の他、多数の作品を作曲した。代表作は、「ブラジル組曲」Suite Brasileiro Ⅰ~Ⅴ、「カリオカ幻想曲」Fantasia Carioca Guitar Foundation of Americaからの依頼の作品。ラテン・グラミー賞を2回受賞しており、2002年、「Sergio and Odair Assad Play Piassolla」でベスト・タンゴ・アルバム賞と2008年、「Tahhiyya Li Ossoulina」でベスト・コンテンポラリー・コンポジション賞である。
「ベネズエラ」 2名
*アントニオ・ラウロ Antonio Lauro
1917年~1986年。ベネズエラのギターリスト、作曲家、歌手、音楽教師。20世紀におけるギター音楽の最先端を行く作曲家の一人と考えられている。大衆音楽からクラシックまで広範囲に及ぶ作曲を行った。小さいころ後述するパラグアイのアグステイン・バリオスの演奏会に感動した。代表作は、「Concierto para guitarra y orquesta」、「Vals venezolano No.3」、「4 valses venezolanos」。後にベネズエラ・シンフォニー・オーケストラの総裁に就任。彼の名前をとった「アントニオ・ラウロ・全国ギター・ビエンナーレ」が開催されている。
*ガブリエラ・モンテロ Gabriela Montero
1970年~ 。ベネズエラのピアニスト、作曲家で国際的に知られている。特に大衆音楽からクラシックまでのメロデイを即興的に演奏することで有名。12歳でベネズエラ政府の奨学金を得て、米国に留学、その後さらに英国ンポ王立音楽院に留学。ショパン国際ピアノコンクールで銅賞を獲得、マルタ・アルゲリッチにも高く評価されている。米国のCBCの番組である60 Minutesにも2006年に取り上げられたが、同じ番組が2008年TBSでも放映された。多数の国際音楽賞を受賞したが、グラミー賞の最優秀クラシック・クロスオーバー・アルバム賞を受賞した。彼女のアルバムは、日本でも販売されている。代表的な作曲は、「Ex Patria. Poema sinfónico para piano y orquesta」 「Concierto para piano nº 1 (concierto latino)」等。
「コロンビア」 1名
*ジャクリーネ・ノバ Jacqueline Nova Sondag
1935年~1975年。コロンビアの音楽家、作曲家。70年代のコロンビアの最前線を行く作曲家で、コロンビアでアコースチック音楽を取り入れた最初の音楽家と言われている。コロンビア国立大学の音楽院でピアノと作曲を学ぶ。その後ブエノスアイレスでも作曲を学ぶ。様々な音楽ジャンルの曲目を作曲した。代表作はアコースチックの作品で、「Opposition-Fusion」、「Creación de la Tierra」(天地創造)、映画音楽「Las Piedras de Machu-Picchu」(マチュピチュの石」。
「パラグアイ」 1名
*アグスティン・バリオス・マンゴレー Agustín Barrios Mangoré
1885年~1944年。パラグアイのギターリスト、作曲家、詩人。幼少の頃はポルカヤバルツ島のフォルクローレに目覚めたが、後にクラシックギター音楽に開眼する。13歳でアスンシオン国立大学の音楽部に通った。アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、ベネズエラ、ヨーロッパで演奏活動を行った。300以上のギター歌曲の作曲を手掛けた。パラグアイで最も偉大な作曲家の一人として尊敬されており、5万グアラニーの紙幣の肖像としても使われている。日本のギタリストの福田進一、村治佳織、木村大なども演奏している。2017年には、彼の生涯を描いた映画、「伝説のギタリスト、マンゴレー」が日本でも公開された。晩年は、中米のエルサルバドルの音楽院のギター教授を務めていたが、同地で心臓病により急死した。
「ボリビア」 1名
*マティルデ・カサソーラ Matilde Casazola
1943年~ 。ボリビアの詩人、作曲家、歌手。彼女は詩と音楽をつなぎ合わせ、ボリビアの音楽の伝統に根差した音楽を作曲した。31歳の時にアルゼンチンやチリで、その後フランスやスペイン等で歌曲を演奏した。Canciones del Corazón para la vida(人生のための心の歌)等の全集を発表した。ボリビアを代表する国民的歌手のLuis Rico、Emma Junaro、Jenny Cardenasも歌った。2016年には国家文化賞を受賞、2017年には、マヨール・サンアンドレ大学の名誉博士号を受賞した。
「プエルトリコ」 1名
*ロベルト・シエーラ Jose Roberto Sierra (1953-)
1953年~ 。プエルトリコのコンテンポラリー・クラシック音楽の作曲家。オーケストラ、コンサート音楽、室内オーケストラ等膨大な作品を発表している。またコーネル大学教授として作曲を教えている。代表作は、「シンフォニーNo.1-No.4」、「Júbilo」、「Concerto for Viola」等々。2003年には米国芸術・文学アカデミー、2010年には、米国芸術科学アカデミーから表彰されている。またピューリッツアー賞音楽部門、グラミー賞クラシック部門の候補にノミネートされたことがある。
ここからは、国別に我々が比較的良く知っている有名曲の曲目とその作曲者のリストを紹介する。他にもたくさんの曲目があるが、私の知っている曲を中心に選択した。
「メキシコの曲目とその作曲家」
曲目 | 作曲家 | その他・コメント |
La Paloma | Sebastián de Iradier y Salaverri(1807-1865) | スペイン人 |
La Sandunga | Máximo Ramón Ortiz(1816-1855) | テワンテペック地峡に伝わる歌 |
La Llorona | 作曲家不明だがAndrés Henestrosaが1941年に歌詞をつけ広めた。 | テワンテペック地峡に伝わる歌 |
Cielito Lindo
|
Quilino Mendoza y Cortés(1862-1957) | 誰もが知っているメキシコの代表的な歌 |
La Bamba | 作曲家不明 | Richie Valensが流行させた。 |
Sobre las olas | Juventino Rosas(1868-1894) | ワルツ。「波濤を越えて」 |
La Cucaracha | Francisco Rodríguez Marín(1862-1957) | スペイン人作曲家によるもので、メキシコ革命時に歌われた |
La Adelita | Antonio del Río Armenta(1892-NA) | メキシコ革命の英雄的女性 |
Bésame mucho | Consuelo Verazquez(1916-2005) | 他に「カチート」も作曲 |
Solamente una vez | Agustín Lara(1897-1970) | 有名な「グラナダ」も作曲 |
Historia de un amor | Carlos Eleta Almaran(1918-2013)
|
パナマ人の作曲家。日本語では「ある恋の物語」 |
El rey | Jose Alfredo Jiménez(1926-1973) | メキシコのシンガーソングライター、ランチェラス |
Cucurrucucu Paloma | Tomas Mendes(1927-1995)
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ベラクルスに伝わる民族舞踊局 |
La Golondrina | Narciso Serradell Sevilla(1843-1910) | 誰もが知っているメキシコの民謡。「燕」 |
La Estrellita | Manuel Ponce(1882-1994) | メキシコで良く歌われる歌曲。「小さな星」 |
La Bikina | Rubén Fuentes(1926- ) | マリアッチ |
Cuando vuelva a tu lado | María Grever(1885-1951) | 「あなたのそばに戻る時」米国でダイナ・ワシントンが歌って大流行した |
Frenesí | Alberto Domínguez(1906-1975) | マリンバの曲からジャズのスタンダードになった |
Quién seá | Pablo Beltrán Ruíz(1915-2008) | マンボ。米国で大ヒット |
La Malagueña | Pedro Galindo Galarza(1906-1989) | Malagueña salerosaとも |
Adoro, Esta tarde vi llover | Armando Manzanero(1935- ) | 「アドーロ」 メキシコの世界的歌手・作曲家。カラオケ定番 |
「キューバの曲目とその作曲家」
曲名 | 作曲家 | その他・コメント |
El Manisero | Moises Simons(1889-1949) | 南京豆売りで有名 |
Malagueña, Siboney,
Andalucía |
Ernesto Lecuona(1895-1963) | キューバの生んだ大作曲家、テノール歌手が歌う曲 |
Guantanamera | Joseito Fernández(1908-1979) | 世界的に流行したキューバの代表的な歌 |
El Cumbanchero | Rafael Hernández(1892-1965) | 日本の高校野球でも宝塚でもよく使われている |
El Mambo, Mambo No5, Mambo No8, Patricia,
La Macarena、Cerezo Rosa |
Damaso Perez Prado(1916-1989) | キューバのマンボ王、La Macarenaは「闘牛士のマンボ」世界を席巻した |
Babalú, Tabú | Margarita Lecuona(1910-1981) | アフロソングの代表的曲目
エルネストの従妹 |
Veinte años | María Teresa Vera(1895-1965) | ボレロ |
Chan Chan | Company Segundo(1895-1965) | ブエナ・ビスタ・ソシアルの中心的メンバー |
Lágrimas negras | Miguel Matamoros(1894-1971) | 「黒い涙」、トリオ・マタモロスのリーダー、作曲家 |
Quizás, Quizás, Quizás, | Osvaldo Farres(1903-1985) | キューバの作曲家による曲目 |
「アルゼンチンの曲目とその作曲家」
曲目 | 作曲家 | その他・コメント |
La Cumparsita | Geraldo Matos Rodríguez(1897-1948) | ウルグアイの作曲家、小さな行列という意味 |
Caminito | Juan de Dios Filiberto(1885-1964) | タンゴの名曲、小道という意味 |
A Media Luz | Edgardo Felipe Valerio Donato(1897-1963) | 日本語では「淡き光に」。タンゴの名曲 |
El Choclo | Casimilo Alcorta(1840-1913) | タンゴの人気曲。米国でKiss of Fireで大ヒット |
Adiós, pampa mia | Mariano Mores(1918-2016)
Francisco Canaro(1888-1964) |
タンゴの名曲、カナロはウルグアイ人 |
Adiós muchachos | Julio Cesar Sanders(1897-1942) | タンゴの名曲 |
Buenas noches, mi amor | Juan Polito | ロマンチックなボレロの名曲 |
Mi Noche Triste | Samuel Castriota(1885-1932) | 「我が悲しみの夜」、カルロス・ガルデールが歌った曲 |
Naranjo en flor | Virgilio Hugo Expósito(1924-1997) | 「花咲くオレンジの木」、オメロとビルヒリオの兄弟作 |
Organito de la tarde | Ovidio Catulo González Castillo(1906-1975) | 日本語では「黄昏のオルガニート」 |
Liber Tango, Adiós Noñino等 | Astor Piassolla(1921-1992) | タンゴの革命児。今年は生誕100周年 |
「ブラジルの曲目とその作曲家」
曲目 | 作曲家 | その他、コメント |
A Garota de Ipanema,Agua de beber, Dasafinado, A Felicidade, Chega de Saudade、
So danco samba |
Antonio Carlos Jobim
(1927-1994) |
ボサノヴァの創始者の一人。「イパネマの少女」は特に有名 |
Samba de minha terra | Dorival Caymmi(1914-2008) | 「わが故郷のサンバ」 |
Aquarela do Brasil | Ary Barroso
(1903-1964) |
「ブラジルの水彩画」またはサンバ・ブラジルとして有名 |
Tristeza | Niltinho (Nilton de Souza),Haroldo Lobo | 誰もが知っているサンバ。1966年のカーニバルの曲 |
Carinhoso | Pixinguinha(1897-1973) | MPB(ブラジル大衆音楽)の代表的作曲家 |
Mais que nada、Chove Chuva | Jorge Bem Jor(1945-)) | セルジオ・メンデスの歌で有名になった |
Manha de Carnaval | Luis Bonfa(1822-2001)
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「黒いオルフェ」の主題歌 |
Tico-tico no fuba | Zequinha de Abreu(1880-1935) | ショーロの曲目。Tico-ticoはホオジロ科の鳥の名称 |
「その他ラテンアメリカの曲目とその作曲家」
曲目 | 作曲家 | その他・コメント |
Si vas para Chile | Chito Faro(Enrique Motto Arenas 1915-1986) | チリで最も人気のある曲の一つ(1942年) |
Gracias a la vida | Violeta Parra(1917-1967) | 「人生よありがとう」世界中で歌われたチリの曲目 |
El cóndor pasa | Daniel Alomia Robles(1871-1942) | 「コンドルは飛んでいく」ペルーのサルスエラの曲目 |
El Huamanqueno | Edmundo P. Zardívar(1917-1978) | 「花祭り」で知られている。アルゼンチンの作曲家。 |
Alma Llanera | Pedro Elias Gutiérrez(1870-1954) | ベネズエラのホロポの名曲 |
Moliendo café | Hugo Blanco Manzo(1940-2015) | 西田佐知子の歌う「コーヒールンバ」で有名なベネズエラの歌 |
Pájaro Chogui | Guillermo Breer(1913-1987) | パラグアイのポルカの名曲。作曲家はアルゼンチン国籍 |
Pájaro Campana(Guyra Campana) | Felíx Pérez Cardozo(1908-1952) | パラグアイのポルカの名曲 |
I shot the sheriff | Bob Marley(Robert Nesta Marley,1945-1981) | ボブ・マーリーはレゲエの先駆者 |
Day-O(the banana boat song) | Irving Burgie(1924-2019) | ベラフォンテの歌で有名。カリプソの名曲。作曲は米国人 |
Arroz con leche | 作曲家不明 | プエルトリコの歌 |
Living la vida loca | Desmond Child(USA)
Draco Rosa(Puerto Rico) |
プエルトリコのRicky Martinの歌で有名 |
以 上