連載レポート75 メキシコのアウトソーシング関連法の改正 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート75 メキシコのアウトソーシング関連法の改正


連載レポート 75

メキシコのアウトソーシング関連法の改正

滝本 昇(事業サポートストラテジー 代表)  takimoto@jigyou.info

メキシコにおいて、現在もなお多くの企業が対応に追われることとなった法改正が、今年4月23日に発布されたアウトソーシング関連の改正法です。連邦労働法、社会保険法、所得税法、付加価値税法など七つの法律が改正されました。「アウトソーシング」とは、スペイン語で “Subcontratación” と称され、業務の一部を外部の協力先に発注することを意味します。しかし、メキシコではアウトソーシングが広範囲な意味に使われ、乱用されてきました。

現政権は、アウトソーシング制度の中でも特に、人材派遣会社について厳しい規制を課すという姿勢を、政権が2018年に発足した当初から示してきました。PTU*や利益操作をすることは「犯罪」であると言い切っていて、これに規制をかける意向を強く表していました。また「アウトソーシング」の名の下に、脱税目的で架空のインボイスを乱発する企業が横行していたという背景も法改正の大きな要因の一つと言えます。

■アウトソーシング法とPTU

メキシコでは、自社で直接雇用すべき人材を他社から供給するような、変則的な雇用関係が長らく存在していました。それについて国際労働機関(ILO)から勧告を受け、雇用関係の是正を行うべく、2012年の法律改正にてアウトソーシングによる人材派遣制度の派遣が禁止されました。しかし主として、PTUに対する対策として引き続き国営企業から大手企業にいたるまで幅広くこれが利用されていたという経緯があります。

※PTUとは、連邦労働法によって規定されている、労働者利益分配金(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)という制度であり、企業の経済活動において利益が出た場合に、従業員に対して課税所得額の10%を分配することとなっています。企業にとっては、法人所得税とは別の支出となり、収益圧迫の要因とされているほか、支給額に格差が無く、企業の収益への貢献度が何等反映されていないことが問題とされてきました。

■政・労・使の代表者会議

今回の法改正は、政・労・使の三者の事前合意を経て国会の審議を通過し出来上がったものです。労働者側は常に政府の主張に賛成する意見でした。使用者側は、政府の法改正の趣旨を受け入れるが、PTUの支払いが職位の差とは関係なく、ほぼ同額の金額が全従業員に支払われていることを廃止しない限り、同じようなPTU逃れの仕組みは完全に廃止されないだろうとしていました。政府はこうした意見も取り入れ、法改正ではPTUに上限を設けるようにし、給料の3か月分または過去3年間の平均値の高い数値を適用することとなりました。これを受け使用者団体側は、従来の人材派遣制度を廃止することに同意しました。メキシコでは、労働者を手厚く保護する傾向にあり、PTUは1917年憲法で定められ、準備期間を経て1979年より実質的に運用されてきたもので、これまで全従業員に対してあまり金額に差をつけずに払ってきたことを考えると、今回の上限を定めたことは画期的なことと言えます。

■今回の法改正によって変更されたその他の重要な点

その他の変更点として、人材派遣会社或いは企業のグループ内に作っていた、インソーシングの人材派遣会社を利用した人の調達も禁止されました。ただし、企業の主要事業目的や、優先的な経済活動以外のサービスや工事に関するアウトソーシングの利用は可能とされています。

アウトソーシングについてメキシコでは今後、専門性を持ったサービス提供者、または特殊工事を行う業者という言い方をします。専門性を持ったサービス業者の定義として、例えば他社に対してメンテナンス業務を提供したり、社員食堂の経営、スポットの電気工事や配管工事をするような場合が想定されます。今回の法改正では、専門性のあるサービスを提供する業者及び特殊工事を請け負う業者は、労働社会保障省(STPS)が発表する規則に従って同省に対し登録し、9月1日までに公式リストに掲載されなければ人材派遣を継続、または開始することができないとされました。また登録申請に際しては、専門性や特殊性を証明しなければならないと定められています。

■対処方法

今回の改正のポイントは、PTU支給額に上限を設けたこと、明確な目的のない人材派遣の廃止、そして会社の主たる事業目的達成のためには、直接雇用した従業員で行わなければならないとされる点です。企業の主な事業目的や経済活動は、原則として直接雇用に切り替える必要があります。会社の定款の事業目的に事業内容全てが主要目的と書かれていると、それは直接雇用で対処しなければならないことになるため、専門サービスを提供しようとする会社は、登録申請前に定款の変更を行うことを検討する必要があります。

事業の主要目的を達成するために従来人材派遣会社を利用してきた企業では、次のような対策が取られました。

  1. 派遣社員を7月22日までに受益会社に移籍させることになりました。
  2. グループ内に人材派遣会社を持っていたところは、その会社を吸収合併するか清算するかを決定する、或いは定款の事業目的を変更し、存続させることになりました。
  3. 存続会社及び、専門サービス又は工事を実施してきた業者は、STPSのホームページから登録することが義務付けられました(この登録を「REPSE登録」と称します)。
  4. 専門サービスの提供または専門工事を行う個人または法人は、1月、5月、9月の各月17日までの4か月ごとに、該当する4か月の間に締結した契約の情報を、IMSS及びINFONAVITに提出しなければならないことになりました(次回は1月17日まで)。

これらの専門業者を使う受益会社は、上記③のREPSE登録の確認、サービス契約書の作成または修正を行わなければなりません。

専門サービスの登録認可を受けていない企業を使うと、登録されていない企業と受益会社が従業員に対して連帯責任を負うこととなり、利用したサービスの支払いをしても経費として認められないため費用計上することができないなど、税務上の罰則を受けることになります。人材派遣会社を7月22日までに清算せずにそのまま運営を継続すると、税務上の罰則の他、労働法上の罰金が173,000~4,000,000ペソ課せられることとなりました。

■現在の状況

REPSE登録に関しては、政府の判断基準が不明確なところもあり、専門サービスを受ける受益会社が業者から人の派遣がある場合に、REPSE登録の番号を提示するよう求めるケースがあります。専門業者の一部には、「販売の延長で取り付けや試運転のみを行っているので、REPSE登録は不要ではないか」との意見で一部に混乱を招いています。いずれにせよ、政府の判断基準がより明確になった時点で、このような問題も徐々に改善されていくと予想されます。    

以    上